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カササギ殺人事件 / アンソニー・ホロヴィッツ

上巻 2021年9月6日 読了
下巻 2021年9月22日 読了

あらゆるミステリー賞を総なめした作品とのことだが、個人的にはいまひとつハマりきれない作品だった。

まず苦手意識を持ったのが、文章にも物語にも冗長さを感じた点。文体が説明的で長ったらしく、展開にも退屈さを感じる点が多かった。

これは本の背面にあらすじとして書かれているのでネタバレでは無いと思うが、上巻では作中作として「カササギ殺人事件」がそのまま描かれ、下巻では一転して、その作中作の作者に起こった事件を、編集者である主人公が解決していくという、二重のミステリーになっている点は非常に斬新で面白い。

しかし、それぞれの謎解きにはあまり面白さを見出すことができなかった。
作中作が描かれる上巻は面白かったのだが、下巻は関係者を総当りして聞き込みを行う展開が退屈で、都合よく情報が集まっていくだけという印象を受けた。ミスリードを延々構築しているように感じさせられ、謎が解けていくワクワク感を得づらい。また、「なぜか~」や「偶然~」で説明されることが多く、主人公の行動原理を含め納得感が薄かった。

さらに残念なのが、期待していたほど作中作と現実パートのリンクが深くないことだ。下巻の事件で用いられるトリック自体は非常に面白かったのだが、作中作と下巻の事件は独立してしまっている。どうしても話の展開的にもっと2つの事件が密接にリンクしていることを期待してしまうため、やや興醒めした。

事件のきっかけとなる、最後に明かされる真相もかなりしょーもない(このしょーもなさも面白さと言えるかもしれないが、日本人には理解しづらいユーモアだ)。
また、作中作の謎解きも探偵の推測だけで解決していて萎えてしまった。「揺るぎない証拠よりも推論を組み立てることで謎を解く」と作品内で触れているものの、推測が都合よく正解しただけのように思えてしまう。

とにかく残念さが目立つ作品だったが、読み応えがあり十分楽しめる小説ではあったと思う。
特に、これだけ多い登場人物をスッと覚えられる点は、描写力の賜物だと思うし、人物の生々しさはこの作品の魅力であると感じる。

また、前述したが下巻の事件におけるトリックは見事で、あとから見返して「どうして気づけなかったんだろう?」と感動させられた。この点についてはミステリの面白さが最大限発揮されていると感じる。

感想を調べると自分と同じ意見を多く見かけるので、日本人にウケづらい作品なのかもしれない。

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