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【読書録】大聖堂 / レイモンド・カーヴァー

2022年1月31日 読了

漫画「バーナード嬢曰く。」6巻で取り上げられていて気になったため手に取った。村上春樹翻訳による短編集。

あとがきでも村上春樹が解説している通り、どの短編も「failure(敗者)」が登場する。人生において、何かの要素が欠けている人たち。そんな生々しい人物たちの、やるせなく、なんでもない日常の中で起こるちょっとした出来事を通して、喜怒哀楽では表すことができない絶妙な感覚が描かれている。なんでもないことなのに、何故か心に強く残る出来事。よかった・悪かったでは表せない思い出。その物語の切り取り方は、読み手にもなんとなく心に残る不思議な感覚を与えてくれる。

なかでも印象に残ったのは、孔雀を飼う夫婦とのぎこちなくも温かい時間を描いた「羽根」、誕生日に轢き逃げにあってしまった息子の家族を描く「ささやかだけれど、役にたつこと」、アルコール中毒の療養所で知り合った男との話「ぼくが電話をかけている場所」、そして何より表題作「大聖堂」だ。表題作のどこまでも繊細で美しい感覚はとても言葉で表せそうにない。

また、村上春樹の翻訳の読みやすさにも感心した。海外文学の翻訳はどうしても読みにくいものが多く、まして短編集となるとコロコロと人物や舞台が変わるので物語に入りづらいところもあるが、それを一切感じさせないスラスラと読める文章はさすがである。訳者あとがきでは全ての短編のレビューが記載されており、このつかみどころのない話に対し的を得て言語化している書評も素晴らしかった。

余談だが自分の中では村上春樹と柴田元幸が2大「読みやすい翻訳家」であり、この二人の訳すアメリカ文学が好みなんだなと、この本を読んで改めて実感した。


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