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【読書日記】シャドウ / 道尾秀介

2023年7月13日 読了。

同作家の『向日葵の咲かない夏』が素晴らしかったので手に取ってみたけどこちらもとても面白かった。

いわゆる「精神病院モノ」のミステリーで、様々な登場人物の視点で描かれていく中で、恐らくこの中の誰かが「狂っている」のだろうと疑いながら読み進めることになるが、ふんだんにミスリードが配置されていて、二重三重のどんでん返しに常に驚かされながら読むことになる。その構成力の高さに脱帽した。
(小学生が頭良すぎるとかそういう物語に都合がいいツッコミどころも散見されたけれど、面白かったのでヨシ)

これもまたとても胸糞の悪い物語ではあるが、最後の最後まで胸糞が悪くホラー要素もある『向日葵の咲かない夏』と比べると、結末は希望を感じられ、親子の愛情、子が親をどう見ているか、といった感動要素が含まれているのは『向日葵の〜』とは違った良さがある。特に、最後の一文は本当に素晴らしくて思わず「カ〜〜〜ッ!!!」と唸った。

宮沢賢治の『よだかの星』を題材にしていて、様々な解釈ができる『よだかの星』を引き合いに出すことで、ただの「精神病院ものミステリー」で終わらずこの作品に深みを与えているように思う。この辺りの作品の引用の仕方も上手い(ムンクの『叫び』の引用も面白い)。
『向日葵の咲かない夏』といい、ただのミステリーでは終わらない文学性がこの作家の魅力なのだと、2冊読んで確信に変わった。

どちらかといえば自分は、徹頭徹尾「ゾッ」とさせてくれる『向日葵の咲かない夏』の方が好みではあるけれども、純粋にミステリーとしての質の高さや読後感の良さもあってこの作品もとても好きだった。

あとがきに、「ミステリは人間の感情を描くのに適しているからミステリを書く」という道尾秀介の発言が取り上げられていて、これもとても興味深い。
また、『向日葵の咲かない夏』は作者がミステリだとか叙述トリックだとかを意識せずに書いたというのもあとがきで紹介されていて信じられない気持ちだったが、だからこそただのミステリでは収まらない話になっているわけで、確かに納得できる。この人の他の作品をもっと読んでみたいと思った。


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