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太極拳に学ぶ身体操作の知恵 〜第ニ訣〜

第二訣 含胸抜背(がんきょうばっぱい)

胸を柔らげ、気は背中に通す 
ー基本は、やっぱり腹だ!ー

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♦︎ 懐を深くせよ!

胸を含み背を抜くとは、状態をいかに保つかという教えです。

《第二訣》含胸抜背(胸を含み背を抜く)
 胸を含むとは、胸をやや内に涵(納)めて気を丹田に沈めることである。胸は突き出ることをきらう。突き出れば気は胸間に抱かれたまま上重く下は軽くなり、脚跟(かかと)が浮きやすい。
 背を抜くとは、気を背中に貼ることである。よく胸を含むことができれば、すなわちよく力を脊背はら発して向かうところ敵なしなのである。

・「胸を含む」とは、風船を内側にすぼめるような気持ちで胸を柔らかく保つこと
・「背を抜く」とは、背中を開放すること

※訣分のなかで陳微明は「含」に「涵 (かん)」という文字を当てはめて説いている。涵は「水につけてひたす」が原義で潤いをもたらすことを指す。

 「胸を張って生きよ」といえば、正々堂々と生きることを励ますよい言葉になります。しかし、これが行き過ぎれば闘争的になり、あるいは過度のストレスで我が身を損なうこともあるでしょう。
 含胸抜背はこれと反対に「肩の力を抜いて楽に生きよ」というアドバイスと共通しています。実際、動作の上でも、胸を含み背中を開放すれば上体は柔らかくなり、肩もしなやかに使うことができます。
 つまるところ含胸抜背とは「胸を柔らかくし、懐を深くせよ」という教えとして理解するべきでしょう。
 懐を深くし包容力を豊かにすることは人生の要訣としても大切なことであると思います。


♦ 十訣の大前提「気沈丹田」

 昔の人は臍下(せいか)に丹田があり、丹田を練れば気力がつき、生命が増すと考えた。
 丹田には何があるのかと解剖学的に見ると、要するにそこは下腹部であり、腸が重層的に詰まっているに過ぎない。しかし、力学的に見ると下腹部は重力という天からの力と、これに対抗して生じる地上からの反発力とが拮抗しているところである。
 整体学の名著ともいうべき『関節の生理学』は、骨盤でぶつかり合うこの上下の力は骨盤の構造に沿って一つの円を描いていると説いている。この円に支えられるように対置しているのが仮想上の丹田である。
 つまり丹田に力を入れると感じる充実感は、まず第一に地上に対する踏み応えから生じる上下のバランス感覚であり、より簡単には力学的安定感であるということができる。

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 丹田の気力集中とは腹式呼吸を行うということであり、具体的には横隔膜のポンプ運動よって上部ではゆるやかな心肺運動を行ない、下部では腸を主体とする内臓器官の収縮・弛緩運動を繰り返すことになります。
 また、「心を下方に持っていくこと」は、実は頭脳の緊張を解きほぐすことでもあります。上部を空虚にしながら下部を充実化させた時、すなわち「上虚下実」となった時、腸内では生命力を強める「善玉菌」が盛んになります。
 消化と体液の活性化にとって欠かすことのできない肝臓は、常に腸とは緊密なチームプレーを行なっています。したがって、腸が活性化すれば肝機能は高まり、活力のある血液を大循環系に送り出しつつ、一方では腸肝循環によって良質の消化液を腸に還流させています。このことによって腸内善玉菌はますます勢力を強めることになります。


♦ 「臍を天に向けよ!」 ー正しい丹田の形ー

 「臍を天に向ける」という気持ちで下腹部全体を下から軽く前方に半回転させるように持ち上げると、無駄な力を入れずに正しい形をとることができる。その姿勢が自然と腰を守ってくれる。
 「臍を天に向けて」構えれば背筋は重力に沿って自然に落下し、腰椎は無理な力が全くかからない。もしこの姿勢で腰が落とせない時は、股関節や膝関節あるいは足首などがまだ固いわけですから、無理に腰を落とす訓練をせず、まず下肢筋肉と関節の柔軟化に努力すべき。そうすれば、腰を痛めることなく徐々に運動能力を高めていくことができる。

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♦ 三害を犯すことなかれ

三害とは初心者が陥りやすい過ちを三つにまとめてものである。

1.「怒気」・・・気張って息を詰めたままにすること
2.「拙力(せつりき)」・・・からだを固めて無駄な力を込めること
3.「挺胸提腹(ていきょうていふく)」・・・胸が張り腹内の気が上にあがって丹田の力が抜けること

 三つの過ちは、含胸抜背、気沈丹田によって克服される。
また、第二訣原文中にある「気を背に貼る」とは、胸から下腹部に沈めた気をそのままからだの前面から胸に戻すのではなく、イメージの上では背中にまわし脊椎に沿って頭頂部にまっすぐ通せということ。
 「含胸抜背」にとって、「気沈丹田」は大前提であり、気と丹田を正しく理解して初めて第二訣の「含胸抜背」を深く味わうことができる。


【 感想 】
印象的だった言葉があった。
「心を下方に持っていくこと」は、実は頭脳の緊張を解きほぐすこと
実際には心は上がりすぎてることの方が多いのかもしれない。
意識を変えるとからだの感覚が変わってくる。
そしてどんどんその変化を感じ取れやすくなってくるように思う。
ただ、その感覚を維持することや定着させていくことは難しいことでもある。
やはり定着させていくには、日々からだの感覚を確かめていくこと、繰り返していくことなんだと思う。
からだもそうだし、物事との向き合い方にもいえること。
そしてそんな小さな変化に気づき楽しんでみること。


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