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DXプランナーの呼吸法 : ”適応的市場仮説” by アンドリュー・W・ロー教授

紹介書籍: Adaptive Markets 適応的市場仮説: 危機の時代の金融常識 (日本語) 単行本 – 2020/5/29 アンドリュー・W. ロー (著), 望月 衛 (翻訳), 千葉 敏生 (翻訳)

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金融市場は経済法則では動かない。
金融市場は人間の進化の産物でありむしろ生物学の法則で動く。

この本を経済書と見做し毛嫌いするのは、あまりにもったいない良書です。

効率的市場仮説 vs 適応的市場仮説

この仮説を知るとなぜ、いま SDGs・ESGなのか、なぜその潮流が生まれ沸き立っているのか、そしてどこに向かうのかが、イメージできる良書です。

ESG投資を目論む金融機関や投資家の方、
SDGsに携わる方、そしてFintechやブロックチェーンなどデジタル革命(DX)に携わる方、必読の書です。

●効率的市場仮説 vs 適応的市場仮説

金融市場や人間の行動を考えるうえにおいて、現在主流である考え方を効率的市場仮説と定義。この考え方は、物体の集まりが不変の運動法則によって動いているという物理学的視点や解釈の上になりたっていると指摘。
一方の適応的市場仮説は、合理性に基づく経済分析の物理学のような原則ではなくむしろ、生物学的視点でみるべきだという考え方。生きてる組織の個体群が生存を賭けて競い合っているのであり、進化の原則・競争・革新・繁殖の方が金融業界の内部構造を理解するにはずっと役に立つという。

確かに、”アクティブファンド運用成果は、インデックスファンドに及ばない。”と学界では長く知られていて、1975年バンガード・グループによって、初のインデックスファンドが設定され大ヒットしました。それ以降、金融工学という名の下で統計学や金融工学のような物理学的視点、投資効率の最大化が主役となっています。企業の評価指標でROEを最重視し、また配当金による投資家へのリターンを重視してきた、まさに効率的市場主義といえます。

●一般投資家にも刷り込まれてきた効率的市場主義

物理学的視点、効率的市場主義は、一般投資家にも刷り込まれてきたと指摘しています。んー、確かにそのとおりです。

●原則1 : リスクとリターンのトレードオフ
あらゆる金融投資にはリスクとリターンの間に正の関係がある。 ハイリスクはハイリターンであり、その逆もしかり。

●原則2 : 資本資産価格モデル(CAPM)
縦軸にリスク、横軸にリターンを取ってグラフ化すれば必ず直線になる。

●原則3 : ポートフォリオの最適化とパッシブ投資
CAPMから得られる統計的推定を使えば、分散投資、買い建てがベスト。

●原則4 : 資産配分
幅広い資産クラスにいくらずつ投資するかを決める方が個々の銘柄選びよりも重要。

●原則5 : 株式の長期保有
 投資家は株式の長期保有をメインにすべきである。

ロー教授はいいます。

そんなに頭いいなら、そんなに金持ちじゃないのはどうしてだ?
そんなに金持ちなら、そんなに頭わるいのはどうしてだ?
っと。

市場価格は必ずしも入手可能な情報を全て反映しているわけではない。時としてパニック売りを引き起こす一方で、思惑のもと、合理的な価格から乖離もする。それは欲といった感情に基づく生物学的反応。つまり物理的(効率的市場仮説)ではなく生物的(適応的市場仮説)だっと。

●適応的市場仮説に従い、今の時流を読み解く

この考えは、As-Is(現在)の特定金融商品や金融市場でも単発的におきているのは事実ですね。でもこれはToBe(未来)へと大きな変化をもたらし始めていると私は感じるのです。金融市場や経済を生物学として捉えると、地球温暖化やコロナショックなどの大きな社会問題に立ち向かう姿も、生物の適応性にのっとった行動といえないでしょうか。

SDGsやESGはまさに適応的市場主義的な行動だといえますね。

既に、いくつかの機関投資家は、
・企業に配当金を求めず、事業継続・従業員保護に資金を回すよう意見表明
・ネガティブスクリーニングでブラウンエネルギー企業を排除
をしはじめています。

環境問題先進国では、
・金融機関・政府・慈善団体・一般投資家が資金を分担し拠出、リスクもリターンも分散化されたブレンディッドファイナンスが伸びています。
・(効率的市場主義では論外な)ハイリスク・ローリターン、時としてノーリターンな投資も活況化。
・とくに、ESG貢献のクラウドレンディング・ファンディングが(ハイリスク・ローリターンであれ)販売と同時に瞬間蒸発
という事態となっています。

どこかの高校生がヒステリックに大人を非難したとしても地球温暖化の解決はできません。具体的に、大気中の CO2を液体化し地中深くに埋めるとか、炭素税や排出量取引といった市場を活用するとか、どの策を採用しようとも莫大な資金とハイリスクの許容が必要になります。革新的な技術による解決策を、金融は資金面で支えることができ、デジタルはその実現に向けた有効なツールのひとつとなります。

適応的市場仮説に従うならば、SDGsやESGは、一過性のトレンドで収まるものではなく、人類が生存をかけ適応している姿だといえますね。

そして適応的市場仮説はまだ始まったばかり。第十二章で可能性としてあげるキャンサー・ケア・ファンド(癌根治ファンド)の考えは、まさに金融未踏の地。適応的市場仮説に金融の新しい可能性を感じます。

効率的市場主義から、適応的市場主義へ。

大きな社会問題に立ち向かうにはかつてない水準の協同と集合知が必要です。集合知の形成を後押しするものとしてはAI化などのデジタル化であり、集合知の形成を資金に変える金融はこれまで以上に重要な手段といえるのではないでしょうか。

そんなことを感じた良書です。

ESG投資を目論む金融機関や投資家の方、
SDGsに携わる方、そしてFintechやブロックチェーンなどデジタル革命(DX)に携わる方、必読の書です。

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