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夕焼けと稲妻

薄焼きみこです。
今日は朝から満員の市バスに乗って出張占いです。

久々の満員バス、18年前のあの日のことを思い出す、、、、


よし!
準備万端!

「じゃ、私先行くね~!
朝からありがとう!今日も仕事頑張ってね。帰りは?20時?OK!


っとこれを忘れちゃいけなかった危ない危ない。」

忘れないようにと玄関先に置いていたティファニーの紙袋を手に取った。


今日も市バスは超満員だ。
今日も座れなかった。
でもこれは想定内。
それを見込んでの今日の私。
このティファニーの紙袋だけは無事に。
無事に持っていかなければならない。
だって中身は今日採取したばかりの夫の"精子"だからだ。
まさかこの紙袋の中身が精子だなんて他の乗客は気付きやしないだろう。

このティファニーの紙袋は、夫と付き合って初めてのクリスマスプレゼントに貰った指輪が入っていた物だ。
嬉しくて嬉しくて、今日までずっと取っていたのだ。
数年後、指輪ではなくその夫の"精子"を入れられて満員の京都市バスに揺られる事になるとは、このティファニーの紙袋でさえも予想してなかっただろう。


っと、、急ブレーキはやめて欲しい。

咄嗟に"精子"を守る為にティファニーの紙袋を頭上にあげた。
まだ"精子"が私に入る前から私の心は既に母親になっているのかと自分でも驚いた。

と、頭上の先にある広告が目に入った。


《夕焼けと稲妻》
AV監督の巨匠 サキツ☆エイの映画作品だ。

AV作品ながら妊活と夫婦の性生活を切り取ったセンセーショナルな内容で、社会現象になった。
その時の舞台挨拶で、監督の
「僕の心は乙女だ!!」
というカミングアウトも、その勇気が日本中を震わせた。

何を隠そう、夫が妊活に協力的になったのはこの作品のおかげだ。


そんなわけで通勤中の乗客に混ざりながら私の向かう先は産婦人科。

まだスタートしたばかりだ。
この先、何があっても後悔しないように。
10年後、20年後も笑顔で過ごすために。





「次は四条大宮、四条大宮です」

あの頃は必死だった、、、なぁ~
はっ、思い出にふけりながらすっかり寝てたわ。

「あっ、降ります。後ろ失礼します~」


かわるがわる展3 短編集
2020.06.25【夕焼けと稲妻】より

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