「ジブリよりも大きくなるの?」

日経に未上場株式の評価に関する記事が出ていたのですが

投資家がたった1人でも、新規出資の際に株を高く買えば、発行済み株式すべてに響く

意図的ではないにしても、この記載はミスリードするのではと思いました。この記載は、上場市場でも成立するものです。ある会社に高い評価をする投資家が割安だと感じているのであれば株式をまずは市場で買うなりして株価が上がるはずです。そして「新規出資」は直近の株価を参考にしますし、保有者全員にその時の値段による評価は「響く」からです。

タイミングを問わずに株主があたかも一人だけ高く評価しているような理解の誤りにつながりそうです。ビジョン・ファンドのように投資家として一社が中心的に出資したり再編したりという形も、日本での一般化はできないかなと思います。

ベンチャー企業の株価は、時系列的に高騰するカーブしかないのが特徴です。ただし、その時系列上で企業がたくさん消えますし、また、たまに株価が下がる新規出資(ダウンラウンド)もありますが、それは他の案件に比してあまり報じられないからというのもあります。経営者自らが上昇する株価を線でつないで右肩上がりだ!と、対外的に表現することも、誠実な経営マインドを持っていればあまりないかなぁという気もします(むしろ、毎回よりシリアスな外部資本が入ってくることで襟を正していくような気持ち)。

未上場の株式は、基本的には売買にも強い制限がかかっているので、取引日ごとの連続的なデータが取れたり、ある株式が割高だと考える投資家がその株を売る手段がある上場市場に比べて、一般投資家もかなり制限された方法でしかこの株を買ったりはできません。さらには、出資時にはその後の値下がりに配慮した様々な権利を投資家は持つことも一般的です。このあたりはちゃんと勉強しないと分からないので、磯崎さんのバイブルが本当に大事な領域でもあります。起業する人は(世の中怖い人もいっぱいいるので)全員読もうな!

詳しくはまた別の機会に書きたくと思うのですが、起業時にマネーフォワードのエンジェル投資家の一人に「この会社(の株)はジブリよりも大きくなるの?」と聞かれたことがあります。この方のお知り合いがスタジオジブリにご縁のあった方で、その出資は篤志的なものも多かったのかもしれませんが、お聞きしたら(*)すごいリターンでした。ただ、それだけの価値が高まっていても、再度出資が行われなければ株価は「高騰」しませんし、ましてその事実がわざわざ広報・報道されるわけでもありません。未上場株式の株価は、ニュースにしやすい分、書く側も読む側もその理解に向けて適切な節度をもっていければと思いました。

タイトルにもさせていただいた、ジブリの話ですが、そもそもで社会に対してある組織がどれだけのインパクトを与えられているんだろうかという議論はとても主観的なものです。ただ、それだけにその質問を自問し続けることも可能で、あのご質問にちゃんと答えを出せているのだろうか。もっと仕事頑張らないとなと日々自分を戒めています。



*専門家の方向けに書くと「取引相場のない株式の評価」が必要になったときに判明したとのことでした。

#COMEMO #NIKKEI

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