「明るいバカ」が最高のチームを創る

  • 読書感想文
    ・リノベーションのススメ/ 山下 智弘(2012年)
    ・「明るいバカ」が最高のチームを創る/ 山下 智弘(2015年)
     
     山下さんの二つの著書に一貫しているテーマは全ては住む人の幸せが目的だということ、「本音で話せて信頼できる人」と仕事をするということ、仕組みと思考回路をオープンに開示している、ということだ。

     「もしも、日本が1000人の村だったら。昔は新築を建てることをすすめていた村長も今では中古を再生することをすすめている。」というメッセージが「リノベーションのススメ」の冒頭にある。リノベーション(以下略してリノベ)を推進する必然性がわかる内容になっている上、「築20年の中古住宅買って、20年住んで築40年の時に売ることができるのか」、というような一歩先の未来の疑問も掲げている。仮に私が安さを理由に新築を諦めた読者であっても山下さんの文章によりリノべの実像が浮き彫りとなり、中古リノベが最善策だと感じるはずだ。


日本の不動産・建築業界は長らく、古い建物を壊して新築マンションを建てるスクラップ・アンド・ビルドが主流であり、消費者も新築志向が強いマーケットでした。
私がそうした住まいのあり方に疑問を感じたのは、大手ゼネコンで働いていた20代の頃。
「お客様の幸せに寄り添う仕事がしたい」と考え退職し、海外に住む友人を訪ねてしばらく旅をしました。
そこで知ったのが、欧米では約8割の人が中古住宅を購入し、自分好みにリノベーションをして暮らしを楽しんでいること。

 不動産業界で働く一員としては同業者の理解と統一規格の重要性や、将来を見据えてリノベの前に立てるライフプラン(とそれに沿った設計)が資金計画のソリューションの鍵となる、という部分が最もだと思った。業界全体としての信用の築き方や巻き込む力、社会の変化に必要な要素が再認識できる内容だ。教科書であると同時にリノベるのサービス範囲にはその対象となっている社会問題があり、提供サービスが多元的になった理由が説明されている。 例えば、請負型の良し悪しの話のうらでは量産マンションへライフスタイルを反映することの難しさが起因となっていること、相続税対策としての(二世帯住宅に転用する為の)リノベの話に関しては税制とライフプランの変化に対して新築崇拝のままでは選択肢に気付かない、ということが社会問題だということを示している。当然その問題がチャンスであり、資産価値に繋がっているという結論につく。
 「あとがき」の手前に「両親へ」という文章があり、リノベに対する親身で熱い思いが伝わってくると感じた。リノベ業界の規模も変わった2021年現在では、この手紙は対国家やマイホームの定義そのものに対して書かれたものに置き換えられたのではないか、と思う。

「明るいバカ」が最高のチームを創る(2015年)
山下 智弘

 『「明るいバカ」が最高のチームを創る』は新しい分野に挑戦する勇気を与える本だ。成功するまでの苦労話に共感をおぼえ、リノベるの原動力はベンチャースピリットだと伝わってきた。特に(利益が生じる仕組みの本ではなく、)不自由な新築を買うことが目的化された社会で、住宅業界全体を相手に一石を投じようとする態度が書かれていると感じた。失敗談も多く語られてる中、強いビジョンがあるからこそ策が絶えない環境ができる上、そのビジョンに基づいた組織であるリノベるでは常時改善や物事の進め方に対する模索が環境として成り立っている。
 
 個人的な思い出話となるが、「リノベる第一号社員」石井陽子さんのコラムで印象的だったのが『とにかく、目の前のあらゆることを一生懸命やるだけでした』と書かれた一言だ。2014年外資系不動産ベンチャーの創業メンバーとして連日徹夜で働いた経験があり、『当時はこれという職種はなく、なんでもやるのがわたしの役回り』だったという部分は自分にも当てはまる。毎日が新しく新鮮だった反面、順調な事は少なかった。そんな記憶に重ねると創業時の山下さんは経営資源が不足しても、大きなアイデアと熱い情熱が求心力となり、共感する人が吸い寄せられていく人なのだろう、と思った。リノべるの発展は経済やタイミングのためだけではないと感じた。

 社会を変えていく仲間でありチームである施工会社を見つけることが苦難だった話は、両方の本で触れられている。面倒な条件をリノべるが提示した上、工務店が加盟金を払うことが条件だったり、大胆に仲介手数料不要とする反面、今までとは違う物件探しを求められる仲介業者との認識の違いなど、一見ネックだらけだ。山下さんは熱意をもって説得し、理念に共感できるパートナーと一緒に仕事する結果となる。本書のタイトルにある「チーム」とは社員のことかと思い込んでいたが、実は工務店、仲介会社やエリアパートナーを含めたネットワークでリノベーション業界を超えて共に動いている集団のことを指している。パートナーとリノベるでできたチームを結ぶのが理念だ。その理念は住む人の幸せの実現を第一としている。シンプルなようで、建築業界全体を見ればこれほど組織のモチベーションにして業界全体を動かしている会社はユニークな存在だ。

海外の多くの国では中古マンションでも購入後の資産価値は大きく下落せず、有益な資産として活用されています。
一方、日本では約9割の人が高額なローンを組んで新築住宅を購入し、暮らしを楽しむゆとりを持ちにくい状況にあります。
また、マクロ環境を見ると、新築住宅は資産価値が落ちやすく、日本の累計住宅投資額から住宅資産額を差し引いた損失額は、500兆円以上に上るとも言われています。
その他にも「空き家率増加」「築古物件の増加」など住まいと建物の課題は日本の社会課題でもあります。
その解決のために、更には住まいと住まい方に対するサステナビリティの観点からも、今こそ、中古住宅の価値が見直されるべきではないか───
そう考え、私は日本では珍しかったリノベーションのビジネスを立ち上げるに至りました。

「明るいバカ」が最高のチームを創る(2015年)
山下 智弘

 2021年に入社した際、私はリノベるが規模も優勢もあり、現にSRも多数運営しているにも関わらず、買取再販を行っていないことに疑問に思っていた。リノベる率いる請負型市場とリノベ市場全体では単純にリノベ住宅への達成方法の違いだと認識していた。請負型のノウハウで中身を人気の設計にすれば利益を多くして売れるものだと考えていた。本書にも記載されているように、実際のところ再販型と請負型の考え方は軸違いである。お客様のライフスタイルと要望があって初めて存在する設計、そこには「快適に自由に長く使う」意図があり、それが重要なのだ。その点、リノベるは新築を買う客層も開拓することで、リノベを社会に浸透させているとわかった。中古住宅を購入する経験をパッケージ化することは、つまりその中身の設計と同様に「賢くする」ことだと感じた。「日本の家の買い方を変えていく」ことで幸せなライフスタイルを実現する。この動きに身を置くことと、自分の貢献を添えることに設計の仕事の意味があるように思えたと同時に、自分でも改めてなぜ設計された家に住むのか考え直した。


 どういう暮らしがしたいのか、と客様に質問している。住宅設計に身を置いた自分にも同じ質問を問いかけ、家づくりの原点は何なのか、しばらく考えたくなる。愛着の持てる家で暮らすということは、自分がどうやって生きていきたいかを見つめ直すことであるから。


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