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〈館山にはやわらかな空気が流れている〉

先週末。桜が終わり春が雪崩れのように押し寄せてくるのを感じながら東京湾フェリーに乗った。
特に計画をしていたわけではない。久里浜港から船に乗ってみたくなった。なぜか海を渡ることに迷いもなかった。

行く先は館山。館山には、館山中村屋という昔ながらの(僕にとっては)パーラーがあって、いつかまた訪れるお店として脳みその端っこに刻まれていた。こういう場所をデスティネーションというのだろうか。

ともあれ、最終目的地は館山中村屋。あとは未定。
目的地と現在地の間にある物語もいつも予測不能。

フェリー乗り場に向かう。車は久里浜港に置いて、徒歩で金谷港に上陸する。そのほうがいいと思った。なんとなくだけど。

東京湾の風はやわらかに頬をなで、久里浜の陸がみるみる離れていく。甲板に出た乗船客たちはみな同じように海を眺めている。ほぼ全員が気を遣って寡黙に感じる以外はいつもの春だ。

金谷港に着き、JR内房線の浜金谷駅に向かって歩く。どこか沖縄の街に来たかのような浜金谷駅があった。沖縄に鉄道の駅はないけれど。

2両編成の内房線に乗り込み、長閑な車窓の風景を眺める。ふと会話が始まった車中の親子と雑談していると20分ちょっとで館山に着いた。
乗船中に館山での寄り道をどうするかは相談していた。パートナーが「お城があるよ」と提案。それがいいと同意した。城があるという城山公園に向かって住宅街を歩いていくとまさにお城が見えてきた。
ありふれた家並みの向こうに城が浮かぶ光景。
日常と非日常の異空間。面白い。

館山は南総里見八犬伝の舞台となった街。館山城は里見義頼によって天正年間に築城された城。それを再現したそうだ。なんでも里見氏大河ドラマ化実行委員会なるものがあるようで、街のそこここにPRののぼりやポスターがある。

登城前の腹ごしらえは地元で人気のあるうさぎ家のラーメン。お店を切り盛りしているご家族の人柄がとても良い、家庭的な雰囲気のお店。素朴なラーメン。たぶんもう二度と来ないお店だとは思うけど、この時間はきっとどこかにインプットされているように思う。

さて腹ごなしにと、坂を上り登城してみると館山の街を一望する絶景が待っていた。眼下に見下ろす海と街並み。なるほどちょっとだけリアルに大河ドラマのオープニング映像が見えてきた。里見氏の波乱万丈の歴史。ありかもしれない。

館山駅からけっこう歩いたので、バスで駅に戻ることにした。最終目的地は駅前にある館山中村屋。

1階はベーカリー、2階はレストラン。パフェや甘味、シチューなどの料理。デパートのレストランを思い起こすようななんとも懐かしいショーウィンドウ。
言いようのない懐かしさ、なんとなくパーラーという言葉が一番似つかわしいような気がする。

何にしようか悩んだが、お腹の減り具合を考えたらあんみつが精一杯。パートナーはバナナのロールケーキ。こんなお店は最近少なくなった。美味しいひとときを小一時間。

愛おしい春を過ごして、金谷港からフェリーに乗った。
館山にはやわらかな空気が流れている。
では、また。

サポート、ありがとうございます! 撮影してきて欲しい場所などあればリクエストください。 飛んでいけるところなら、できるかぎり飛んでいきます♪