最低賃金上昇から見える「すでに起こった日本の未来」
つい先日、ふと近所のコンビニの入り口に貼ってある求人ポスターに目を遣ると、アルバイト募集の時給が1,200円を超えていることに気が付いた。
我が家は横浜の片田舎、「じゃない方の横浜(笑)」なんて呼ばれている地域にある。窓からはウグイスの鳴き声が聞こえ、近所を歩けば野生のリスに遭遇し、少し歩けばホタルが生息する小川があるような場所。そんな地域でも、アルバイトの時給は結構上がってるんだな~と、改めて感じた訳だ。
ちなみに私が高校生の頃は、コンビニの時給は680円スタートくらいが相場だった。仕事内容も変わったのかもしれないけど、30年で2倍近い時給になった訳で、今の学生アルバイトさんをちょっと羨ましく思ったりもする。
日本ではここ10年ほど、最低賃金を年率3%づつ上昇させる政策が、コロナ禍による例外を除いて基本的に維持されている。
安倍元総理大臣の功績に関しては賛否両論さまざまあるけれど、この最低賃金年率3%上昇のトレンドを作ったことだけは、間違いなく安倍元総理大臣の功績だと個人的に思っている。
近ごろはニュースを開けば「日本沈没」「日本は終わった」のような記事ばかりを目にするけれど、実はこの最低賃金上昇のトレンドが維持されれば、実は日本の未来は必ずしもお先真っ暗ではないからだ。
ではこの先、どういう未来が待っているか。
現在の最低賃金年率3%上昇のトレンドが2034年まで続くと、この年の最低賃金は全国加重平均で約1,324円となる。
この金額に到達すると、夫婦共働きで1日8時間×月に20日間お仕事さえすれば、どんな職業を選んだとしても家計年収が500万を超えるようになる。
さらにこのトレンドが2045年まで続くと、同じ条件で最低賃金は全国平均約1,826円、夫婦共働きの家計年収は700万円を超える。
もちろん物価もある程度は上昇するだろうが、食糧や燃料などの輸入コストが家計に占める割合は相対的に低下するので、働く人が得られる果実の割合は増えるだろう。
古い時代の経済学の常識では、労働コストの上昇は製品価格の上昇を招き、やがて需要減を招くとの考えが一般的だが、それは物質取引を中心とした経済における常識であり、知識・サービス労働が中心の内需型経済国である日本においては、賃金上昇はむしろ消費拡大につながると考えられる。
日本は食糧・燃料・原材料を輸入に頼る国なので、輸入のための外貨獲得は維持しなければならないが、この外貨獲得の維持が可能な間は、最低賃金を上昇させた方が経済的メリットが大きい。しかも、外貨獲得は必ずしも機械や物資の輸出である必要はなく、サービスの輸出(来日観光を含む)を含めて良い。
結論として、輸入コストを物資とサービスの輸出による外貨獲得で賄える限りにおいて、最低賃金を上昇させることは、日本経済全体と働く一人ひとりにとってメリットとなる。これを実現する条件を1つだけあげるとするならば、その実現は組織イノベーションの能力の開発度合いに依存する。
「たとえフリーターでも、結婚して家庭を持ち、普通に暮らせる社会」
まるで某野党の選挙用キャッチコピーの様だが、今の日本の政権運営方針が変わらない限り、これは ”すでに起こった未来” だ。
この事実に気付く人が多数派となり、日本社会全体のパラダイムがシフトした時、おそらく一人ひとりのキャリア観のみならず、日本社会の価値観や在り様すらも変わっていく。
当然、組織のマネジメントも変わらざるを得なくなる。
しかも、そのような未来は、あと10年程度で始まる可能性が高い。ほとんどの人が気付かないうちに、新しい社会は静かに始まっていく。
この変化に対しどう備え、どのような機会とするか?
今回の記事が、それを考えるきっかけになってくれれば幸いだ。