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尾状花序の詩

たとえば想像のなかの雪
もしくは護岸に打ち付けて飛沫をあげる波のような
柔らかいものに包まれてそのまま溶けてしまいたい
それは夜の海にインクをひとすじ垂らすような
ささやかで儚い幕引き

あるいは樅や柳のような
花序を人に覚られぬ花のように
川べりに背の低く生える雑草に体を埋めて
朝露と共に蒸発してしまいたい

この体はいずれ消えてゆく靄で
心は朽ちゆくさなぎ

溶けることさえ叶わず朝に捕らえられて
この白日のもとでわたしはやはり惨めなのだと
溢れる涙から感情の苦味ばかりが流れだす
この冷たい涙を啜るくらいなら
昨晩に会った貧しい蝶々に頼み込んで
暗闇に浮かぶ夢の中に閉じ込められるのが良かった

今はただ明け方のアスファルトが懐かしい
ざらざらと冷たく無骨であっても
頬を付けたときの感触はゆるぎなく
その強さだけが寄る辺となる時代もあった

滔々と時が流れてなお残る痛みがあり
胸に積もり続ける澱は行き交う感情に傷をつける
そうして析出された侘しさがふわふわと漂って
日々の折り目にある暗い谷間へとわたしを誘うから

いっそその手に誘われるまま
初雪のように淡くて柔らかいものに包まれ
あの明け方に
わたしは朝露のようにすっかり消え去って
儚げな泡へと変容していたかった







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https://pixabay.com/ja/users/zhangliams-606349/

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