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オリオンの腕

オリオンの渦状腕に抱かれて
きみは眠っている
シリウスが地平に隠され
代わりにベガが昇る季節にも
深い眠りにとっぷりと浸かったまま、目覚めは来ない
ことの顛末はあまりに無情であった

私たちは地球の磁気圏にまもられているため
目を瞑ればほんとうに易しく朝と出会える
布団からおもむろに這い出して
ようやく支度をはじめる頃
きみの詳細は朝の光に溶けて消える

改札を通り抜けてプラットフォームに立つ
そのころ胸中から罪深い感情が抜け落ちて
私は現実という世界にとっぷりと浸かりきるだろう

オリオンの禍状腕に抱かれてきみは眠り
磁気圏に包まれて私は何度も朝と出会う
幾度もおなじ地面を踏み
どれほど遠くまで流れてゆくのか
くらい影を踏んでも残響の曳かれない世界で
散り散りになった心を抱えながらただしく歩く方法を
どうか教えてほしい

呼びかけは宇宙の果てに吸い込まれて帰らないが
その何割かがもしかすると届いてくれればと願う
夜になれば
今朝忽然と消えた詳細が
そうっと暗闇に浮かびあがって胸を苛んでしまうから……

それでも陽の当たる道を歩くつもりでいる
吹き付ける風の厳しさに心が欠けても
目を輝かせ呼吸をしていた頃のことを
零さないように持ち歩いてゆくよ




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