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江水散花雪初日感想

2/8ふせったーで書いたものです。

本当に素晴らしい公演でした。タイトルから桜田門外の変が主題になるだろうと予想していたのですが、いい意味で裏切られました。それでも最後には、この公演のタイトルは『江水散花雪』以外にはないなと思うような、美しい纏まり方だったと思います。放棄された世界のこともとても驚きましたが、疑問もたくさん湧いては来たので、これからの公演で詳細が明らかになるのを楽しみにしています。

小竜景光がミュージカルに出るのを楽しみにしていたのですが、こんなに活躍してくれるとは正直思っていなかったので、とても嬉しかったです!ゲームから受ける印象とは少し違ったのですが、最後まで見ていくとやっぱり小竜景光なのだなと感じました。とても丁寧なキャラクター造形に感謝しています。鬘や衣装なども素晴らしく、あの衣装と髪で殺陣が出来るのだろうかと思っていたのですが、見事な翻り方を見せてもらって眼福でした。あとはやはり演じてらっしゃる長田光平さんも素晴らしかったです。優しく品のある雰囲気で、小竜景光に不思議な魅力を付け加えてくれていたと思います。お怪我されたとのことでとても残念ですが、きちんと治してもらって、またいつかあの小竜景光を見てみたいです。

大包平が本当に健全無比の大作という印象そのままで、沈みがちな心を引き上げてくれるような、明るく照らしてくれるような、そんな稀有なキャラクターだったと思います。とても救われました。

和泉守兼定の兄貴風の吹かせっぷりは爽快でしたし、肥前忠広の元主との葛藤も、胸を引き絞られるような素晴らしいものでした。

歴史上の人物も、井伊直弼は本当に気のいいおっさんで、開国を進める先見の明と、文化人の1面を見せてくれていたと思います。それだけに終盤2度も亡くなってしまう場面では本当に悲しかったです。吉田松陰も、コミカルですが機転が利き、国のことを思い様々な改革を進める聡明さもあるという魅力的なキャラクターで、本当に井伊直弼と吉田松陰が手を取り合っていればよかったのになぁという気持ちに素直になりました。会沢正志斎先生も、まさかここで歌うとは……という強烈なインパクトでとても楽しかったです。楠木正成の伝説を持つ井伊直弼の刀である小竜景光が、吉田松陰とともに水戸学ミュージカルを歌うという複雑な場面でしたが、楽しく観られました。岡田以蔵も、放棄された世界での錯乱した姿の方が元の姿に近いと肥前忠広に言われていましたが、翻って改変された世界でのきりりとした若武者ぶりに、きちんと教育を受けて人斬りに手を染めなければこんな人物だったのかという残酷さが際立っていたように思います。

音楽も素敵でしたが、特に山姥切国広の歌はご本人の声質とも合わさって、美しく、悲しく、澄んだ雰囲気に劇場が一気に包まれる感じで素晴らしかったです。

あとは最後の桜田門外の変の場面がとても美しくて、静かに降る雪と、激しい剣戟、雪を染める血に不思議なBGMが相まって、悲しいのに美しい印象的な場面でした。あの場面だけ見ればただの桜田門外の変の場面なのですが、それまでのお芝居の積み重ねで、何とも悲痛なものに感じられるのが素晴らしいですね。あの場面の英語の曲は誰が歌っているのか、何と歌っているのか、わからないところがまた不思議な魅力があるなと思います。そして井伊直弼の遺体に一礼し、その場を後にしようとしてふと躓いて転んでしまう小竜景光。「なんてことないよ。たくさんいた、主の一人さ」という強がりに、今までの彼の辛さがにじみ出ていて、驚きとともにもう一度この物語を最初から観なければと思いました。観れば観るほど深まる小竜景光で、本当にありがとうございました。

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