人権問題は"どこか遠くの海外"ではなく身近に起きていることを痛感しました
はじめに
ビジネスと人権について学ぶ中で、昨日、朝日新聞デジタルの11月16日付記事「国連「ビジネスと人権」部会がえぐった日本 問題は社会構造と無関心」を読みました。
記事のテーマは、今年8月、日本での12日間の調査を終えた国連「ビジネスと人権」作業部会が開いた調査報告会でした。
この報告会会見後の報道がもっぱら「ジャニーズ性加害」をめぐるもので「日本のマスコミがジャニーズ問題を取り上げることを後押しするのが部会の目的であったかのような報道が目立った」のは私も記憶していますが、部会の開催目的はそもそもジャニーズ問題ではなかったようです。
記事内で筆者は、
この部会はもともと「国連人権理事会から派遣された専門家2人が政府や自治体、企業や労働組合などにヒアリングを行い、ビジネスに関連する人権問題を広く指摘することを目指していた」ものであった
ジャニーズ問題を含め、日本の人権侵害の問題は「個別の企業や人間関係上のトラブルではなく、日本の社会構造の問題として」考えなければならないことが、この部会報告からわかる
と指摘しています。
そこで私も、「国連ビジネスと人権の作業部会 訪日調査、2023 年 7 月 24 日~8 月 4 日 ミッション終了ステートメント 東京、2023 年 8 月 4 日」の原文とヒューマンライツ・ナウのリリースをあわせて読んでみました。
日本で人権侵害を受けているのはたとえば誰か
全文に目を通しましたが、特に、ミッション終了ステートメントの「ステークホルダー集団と関心のある課題領域」と題された部分が、人権問題は「海外のどこか遠く」ではなく、日本で、ごく身近に起きている問題なのだということを痛感するきっかけとなりましたので、以下にて概要をご紹介したいと思います。
①女性
顕著な男女間の賃金格差:女性正社員の所得は男性の75.7%
ジェンダーギャップ指数の低さ:日本は146カ国中125位(2023年)
非正規雇用:全非正規労働者の68.2%。賃金は男性非正規の80.4%
社会進出の遅れ:企業幹部の女性割合は15.5%に留まり、昇進阻害やセクシュアルハラスメントの問題が存在
②LGBTQI+
LGBTQI+の人々に対する差別:職場での差別等(トランスジェンダーの人々に本名の開示や、履歴書への性転換前の写真貼付を求めるなどの憂慮すべき職場慣行)
③障がい者
インクルージョンや雇用率:障害者雇用率は民間企業2.25%、政府機関2.85%と、全人口に占める障害者割合7%に比べて低い
職場での差別や低賃金
サポートへのアクセス困難
ジェンダーや人種、性的指向および障害の重なり合いの認識不足
④先住民族
人口調査の不足:アイヌ人口の正確な把握がなく、差別が可視化されない
現存する差別:
- ウポポイでの人種的ハラスメントや心理的ストレス
- 水産資源保護法で先住民としての漁業権を正当に考慮されていない開発プロジェクトでのFPIC(事前の十分な情報に基づく同意)の欠如:
再生可能エネルギー部門を含むさまざまな開発プロジェクトで、アイヌの同意が不足 → 土地と天然資源へのアイヌの集団的権利の認識が不十分
⑤部落
「同和」と呼ばれる被差別部落民に関連する問題
ヘイトスピーチ:特にオンラインと出版業界でのヘイトスピーチが問題
職場における差別:一次面接などの選考プロセスで差別が行われている
司法救済の困難性:勝訴例はあるが裁判の長期化が救済へのアクセスを難しくしている
⑥労働組合
労働組合結成の困難さ
集会の自由に対する障壁:ストライキの実施等
労働組合員の逮捕や訴追:組合活動に従事する個人の逮捕や訴追の事例
日本で人権侵害が発生している分野の例
ミッション終了ステートメントの「ステークホルダー集団と関心のある課題領域」には「テーマ別分野」という記載もあり、ここを読むと、たとえばどのような分野で人権侵害が発生しているのかに気づかされました。
①健康、気候変動、自然環境
特に福島第一原子力発電所の事故に関する内容が採り上げられていました。
労働安全衛生:強制労働や搾取的な下請慣行、安全性を欠く労働条件
汚染除去作業者の健康と補償:清掃・汚染除去作業後のがん関連病気や放射線曝露に対する適切な補償の不足
不適切な下請構造と賃金:規則で禁じられているにも関わらず5 層に及ぶ下請構造があり、下層の下請業者は同じ業務をこなしながら極めて低い賃金しか支払われていない。約束された手当よりはるかに少ない報酬も
苦情処理メカニズムの機能不全:懸念を口にすると解雇されるため安心して話せない労働者も
雇用記録への不記録:雇用記録に放射線への曝露が記されていないため金銭的補償も医療補助も受けられない労働者がいる
処理水排出問題:情報の不透明性、公衆の「知る権利」
上記のほか、パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオ ロアルキル化合物(PFAS)による水質汚染に対する地方自治体と政府の十分な対策の不足も挙げられていました。
②技能実習制度と移民労働者
情報へのアクセス困難性
煩雑な申請プロセス
事故による解雇
出身国の仲介業者への法外な手数料の支払い
賃金格差:同じ仕事をしているにもかかわらず日本人労働者よりも低い賃金を受け取るケースあり
韓国人、中国人労働者に対する差別:ヘイトスピーチの事例、司法制度における長期審理、金銭的補償の不足
③メディアとエンターテインメント業界
搾取的な労働条件とハラスメントの文化
性的ハラスメントや虐待に対する放送局の不対応
アニメ業界の長時間労働と不正な下請関係:クリエイターが知的財産権を十分に保護されない状況
セクシュアル・ハラスメント被害のもみ消し
調査の透明性と正当性に疑念:ジャニーズ事務所問題
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・40日目(Day40) でした。明日も更新頑張ります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?