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食のアップサイクル・ストーリーズ01:漁師 阿部勝太「わかめの未利用部位」

生産者のプロフィール

石巻の漁師 阿部 勝太

阿部勝太(漁師 / サステナミール代表 / フィッシャーマンジャパン代表)は、代々わかめと昆布を養殖する三陸の漁師です。養殖だけでなく、茹で上げから塩蔵(塩分を含ませ長期保存を効かせる工程)まで手がけるほか、今では用途によって冷凍、パッキングなどの加工・販売までも一手に行っています。また、震災後の漁業の深刻な状況と後継者不足に奮起。漁師自ら積極的に企画、営業を仕掛け大手企業と組んだ商品開発や、加工会社、大型流通店との六次産業化事業の実例を作り出しています。

肉厚でゴリゴリ&シャキシャキ。歯ごたえの良いおいしい海藻を育てる

地元十三浜のある三陸沖は、暖流と寒流のぶつかる影響で豊富な魚群が集まり、世界でも有数の漁獲量を誇ります。また、十三浜の海は外洋で潮の流れが速く海水の透明度が高いため、光合成が活発化し肉厚で歯応えのいいわかめや昆布が育ちます。豊かな自然のなか大切に育てられた三陸のわかめは、全国一の高値がつくことでも有名。ただし、外洋は天候に左右されやすく漁もハード、強い潮風や波のおかげで機械が壊れやすいなどの問題も少なくなく、大量生産には向きません。

色の違う部分が出荷規格外となってしまう日本の風習

中央の「黄色っぽい部分」がわかめの未利用部位

出荷規格外の基準はわかめ・昆布ともにまずは「色」。わかめや昆布の色は気候や海の状況に大きく左右され、時には赤みを帯びたり黄色っぽくなったりすることも。これは自然なことで、味や栄養にはまったく影響はありません。ところが、マーケットや消費者は「緑でないといけない」という思い込みから、「出荷規格外」としてしまうのです。生産者は努力していますが、自然が相手なのでどうしようもありません。ちなみにヨーロッパには規格はほとんどありません。それが自然なことだと理解しているのです。

温暖化の影響で生じる小さな穴も出荷規格外の要因

もうひとつ、出荷規格外となってしまう理由に「穴あき」があります。温暖化の影響で水温が上がってきたことで、わかめに小さな穴があいてしまうのです。これは外洋ほど被害を受けやすく、近年漁師たちの頭を悩ませています。穴があいているからといって品質に問題がないことは保証されているのですが、やはり見た目だけの理由で規格外に。それを避けるため穴のあいた箇所を手作業でカットしているので、手間もコストもかかります。

なんと、30%以上が「出荷規格外」になることも

出荷規格外の烙印を押されたものは、極限まで買い叩かれてただ同然の価格で売られるか、それが理由で値崩れするのを防ぐため多くが破棄されます。その量は、わかめでいうとひどい年はなんと生産量の1/3、昆布は1/4にもおよびます。味も栄養も規格内のものと変わらないのに、です。漁師たちにとってはこれが当たり前になってしまい、何の疑問も抱かなくなってしまっているのも問題でした。かつて阿部はサラリーマン時代に、”無駄をなくす”や”生産性を上げる”といったことにシビアに向き合ってきた経験があるので、この状況をみて疑問しかなかったそう。どうにかしなければと、震災前から思っていたのだとか。

出荷規格外の未利用部位を「主食のお供」にアップサイクル

そんな出荷規格外のものを価値あるものにすべく立ち上がったのがサステナミールです。まず取り組んだのは「茎わかめの未利用部位」。色が悪いという理由だけでこれまで年間10トンも捨てていた部分です。これらに既製品同等の旨味成分があることを証明するとともに、料理家とともにおいしい加工品をつくりました。加工品はパンと相性が良い『茎わかめのタルタル』と、ゴハンと相性が良い『梅おかか茎わかめの佃煮』など。今後はわかめの穴のあいた葉の部分や昆布の加工品も展開していく予定です。

茎わかめのタルタル
梅おかか茎わかめの佃煮

食品の破棄を減らす、漁業の底上げを測る、という以外に、この活動を通して、日本のマーケットや消費者、そして漁師たちの意識を変えていきたいと私たちは考えます。

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