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【インパクト評価】物流IoTの構築

サマリー

  • 国内物流IoT市場は、自動倉庫、物流ロボティクスの急成長に伴い、2030年度には約1500億円の規模が見込まれている。物流コストの削減・無人化に加え、環境効果としては排出量や廃棄物・資源の削減が期待できる。

  • 国内大手はマテリアル・ハンドリング企業(フォークリフト、その他物流設備等)に加え、総合電機メーカーや電子部品が関連技術やシステムを積極的に展開。

  • 中小企業も物流IoT市場拡大の恩恵を授受すると予想。補助金による市場開拓、サービス内容拡大や物流自動化による経費削減、生産性向上が見込まれる。

目次
1)物流IoTとは:国内の物流IoT・DX化の取り組み
2)物流IoT関連技術を持つリーディングカンパニー
3)中小企業への恩恵
4)中小企業向けの補助金

1)物流IoTとは:国内の物流IoT・DX化の取り組み

国内の物流業界では、特に配送・倉庫の在庫管理において、IoTの活躍の場が急速に広がっている。

IoTを駆使した倉庫内の在庫管理や輸送の効率化によって、労働力不足の解消、資源やエネルギーの有効活用が図られている。また、ドローンや自動運転車を使った配送サービスの実証実験も注目され、国内物流ロボティクスの市場は2030年には約1,500億円と2020年から8倍程度になると予測されている。

出所:矢野経済

経済的インパクト

  1. コスト削減 IoTデバイスは、在庫レベル、サプライチェーン活動、物流実績の追跡を改善し、運用コストの大幅な削減につなげることができる。リアルタイムデータにより、より良い意思決定が可能になり、在庫切れを減らし、スピード感が求められる出荷業務の負荷を最小限に抑えることができる。

  2. 生産効率向上 より良いルートプランニング、倉庫管理の最適化、車両の利用率の向上により、物流プロセスを合理化することができる。負荷の最適化とエネルギー効率の高い輸送は、金銭的な節約と最適な資源配分に貢献する。

  3. サービスレベル向上 タイムリーな配送、製品のトレーサビリティ、カスタマーサポートの充実により、顧客満足度の向上につながる。

環境への影響

  1. 排出量の削減 より良いルートプランニングを可能にし、車両走行距離の削減および排出量の削減につながる。これは、より環境に優しく、持続可能な物流に貢献できる。

  2. 資源の節約 物流プロセスにおける資源の使用を最適化することができる。エネルギー管理の改善、廃棄物の削減、再利用可能な材料の最大化により、物流企業はより環境に配慮した方法で運営が可能に。

  3. 持続可能な業務 IoTを活用したデータは、環境フットプリント等を監視するのに役立ち、持続可能性を向上させるための目標の設定、進捗状況の追跡、修正措置の実施を可能にする。

代表的な物流IoT関連の商品、サービスは下記の通りである。

自動倉庫 コンピューター制御された機械的なシステムで、製品のストック・取り出し・配送を自動化するために設計された倉庫のこと。このシステムで、製品のストックを管理するために棚やトレイを使用し、コンピューターシステムによって制御されたクレーンやロボットアームによって製品を取り出し、配送に使用されるトレイやコンテナに移動させる。自動倉庫は、倉庫のスペースを最大限に活用し、製品の取り出しや配送速度を向上させ、人的ミスを最小限に抑えることもできる。自動倉庫はすでに、小売業、製造業、医薬品業など、広範囲の産業で使用されている。

物流ロボット 自動倉庫とは異なり、物流の全自動化ではなく、入出庫、ピッキング、搬送・仕分けなどにおいて、一部人の手を介しながら自動化を進めるため、両者の協働をコンセプトにしたものである。物流ロボットは、柔軟性が求められるBtoC物流に適しており、自動倉庫よりも導入ハードルが低い。物流業界の人材不足や作業の効率化、正確性の向上など、多くの問題を解決することができる。また、環境に合わせた拡張性や柔軟性に優れており、長期的に設備投資を回収しながら、活用することができる。

その他関連サービス GPSやセンサーデータ、機械学習、AIなどの最新技術を用いた取り組み等、幅広く存在する。ルート最適化や物品のリアルタイム追跡、予知保全、在庫管理、デリバリーなどで物流の迅速性と正確性を向上させる。また、ブロックチェーンを活用して透明性と安全性を高め、Eコマースプラットフォームと物流システムを統合することで、シームレスな管理を実現する。さらに、デジタルプラットフォームやスマートコントラクトを活用して、クロスボーダー物流や通関業務を効率化したり、リアルタイムの注文追跡やパーソナライズ配送の対応によって、顧客体験を向上させることも可能。こういった技術により、スマートロジスティクスは、効率性と持続可能性を高め、顧客満足度を向上させることができる。

【図表2】自動倉庫と物流ロボットの比較

出所:ロジザードZero

2)物流IoT関連技術を持つリーディングカンパニー

日本には多くの物流IoT関連技術を持つリーディングカンパニーが実在する。

【ダイフク(6383)】物流設備メーカーのリーディングカンパニー。日米以外のシェア拡大に注目

市場における確固たる地位と製品ポートフォリオ、そして成長機会のポテンシャルが強み。同社は、マテリアルハンドリング業界で高い評価と市場ポジションを確立している老舗企業である。その多様な製品ポートフォリオは、さまざまな産業や用途に対応し、近年の好業績と収益拡大に寄与している。20カ国以上で事業を展開するダイフクは、強固なサプライチェーンとグローバルな存在感を示している。しかし、アジアや北米など一部の主要市場への依存度が高く、アフリカや南米などの新興市場でのプレゼンスは限定的である。ダイフクは、さまざまな産業におけるオートメーションやマテリアルハンドリングソリューションの需要の増加や、電子商取引市場の拡大により倉庫のオートメーションやマテリアルハンドリングシステムの需要が急増していることから、さらなる成長の機会があると考えられる。さらに、アフリカや南米などの新興市場への進出、戦略的パートナーシップや買収による能力の拡大、市場シェアの拡大も潜在的なビジネスチャンスといえる。ダイフクは、同業他社との激しい競争、不安定な市場環境、景気後退、製造コストに影響する原材料価格の変動、グローバルなサプライチェーンに影響する政府の規制や関税の変更などの脅威に直面している。

【豊田自動織機(6201)】マテリアルハンドリング事業を積極的に拡大を継続

同社は自動車産業とマテリアルハンドリング産業におけるグローバルリーダーであり、高いブランド認知と評価を得ている。2017年に同社の子会社である豊田L&Fは、空港向け手荷物搬送システムや小包・郵便向け仕分けシステムなどの自動マテリアルハンドリングソリューションの世界的リーディングプロバイダーである、オランダのVanderlande Industries Holding BVを買収した。この買収により、トヨタL&Fはマテリアルハンドリングおよびロジスティクス分野における製品およびサービスの提供を拡大し、グローバルなプレゼンスを強化することができた。様々な産業におけるオートメーションとマテリアルハンドリングソリューションの需要の高まりは、Eコマースブームと生産性ニーズの高まりによって、トヨタL&Fに大きなチャンスをもたらしている。
ユングハインリッヒ、ハイスター・エール、キオングループなど、業界の既存企業との激しい競争や、マテハン需要に影響を与える不安定な市場環境と景気後退に直面している。

【因幡電機産業(9934)】ロボットや制御機器など、単品販売からシステム提案、受託製造まで幅広く対応

同社は、高いブランド評価、多様な製品ポートフォリオ、カスタマイズされたソリューション提供における豊富な経験を誇っている。AGV・AMRに関しては、日本電産シンポやダイヘン、シャープなどの製品を取り扱っており、使用条件に合わせたカスタマイズも可能。しかし、同社の収益は国内市場に大きく依存しており、グローバルなプレゼンスや環境に配慮した持続可能な製品へ更に注力すれば、より大きな成長が見込める。

3)中小企業への恩恵

全体として、運輸・運送業界のDX化・自動化というトレンドの高まりは、ビジネスを拡大し市場シェアを広げる大きなチャンスである。特に、ロジスティクス、機械、IT分野の中小企業は、顧客の課題に寄り添った革新的かつ持続可能なソリューションを顧客に提供することで、彼らの業務効率化、コスト削減、生産性の向上に寄与し、社会貢献に繋げることができる。これにより、更に顧客基盤を拡大させ、収益を増加させることができる。

次に、中小企業は人工知能、機械学習、IoTなどの最新技術を活用し、顧客の個別ニーズを満たす革新的なオートメーションソリューションを開発することができる。競合他社との差別化を図り、高品質で信頼性の高いソリューションを提供することで、高い評判を得、更なる収益増加へ繋げることができる。

第3に、中小企業は大企業や戦略的パートナーと協力することで、その能力と範囲をさらに拡大することができる。また、自社だけでは得ることのできない新しい市場や顧客、先進的な技術にアクセスすることができるようになり、彼らの専門知識や資源の恩恵を受けることができる。

最後に、物流業界のサステナビリティ意識が高まるなか、中小企業は環境問題に資する持続可能なオートメーションソリューションの開発に投資することで、市場での競争優位を獲得することができる可能性もあり、大きなビジネスチャンスとなる。

4)中小企業向けの補助金

製造業を含めて物流の自動化に向けたものづくり補助金は、生産性向上のために、サービス開発、試作品開発、生産プロセス改善のための設備投資に対して支援する補助金である。「ものづくり補助金」は略称で、正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」である。物流業(物流センター、倉庫業、運送業)も対象となる。補助金には、一般型とグローバル展開型の2つがあり、それぞれ上限が750万円〜1,250万円、〜3,000万円の範囲内で支援される。補助率は、一般型・グローバル展開型ともに、小規模事業者であれば1/2、それ以外の場合は2/3である。対象となる経費は、機械装置、システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費、海外旅費等である。

もう一つは、事業再構築補助金である。

具体的には、新分野展開や業態転換、事業・業種転換等の取組、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等を目指す投資内容である必要がある。

例えば、一般貨物の保管をしていた倉庫業者が、EC物流に参入するために最新のロボティクスのマテハンを導入することなど、が事業再構築の内容として挙げられる。具体的には、パレットラックやネステナー等の一般的なマテハンではなく、AGVやAMRといった自動搬送の仕組みの導入やGTP(Goods to person=倉庫内作業者の元に貨物が自動で移動してくるロボット・仕組み)を導入すること、などである。

・中小企業は、補助額が100万円から6,000万円までの範囲で、補助率は2/3。
・中小企業が中堅企業に成長する事業者向けの特別枠もあり、補助額は6,000万円超から1億円まで、補助率は2/3となっている。
・中堅企業は、通常枠の補助額が100万円から8,000万円までで、補助率は1/2である(4,000万円超は1/3)。

出所:https://www.logi-ya.jp/300/

インゴ ティートベール(Director of ESG Research and Solutions)
京都生まれ、ドイツ育ち。大学院卒業後、SMBC日興証券に入社し、M&AやIPO関連業務に従事。その後、モルガン・スタンレーに移り株式調査部で証券アナリストを務める。アディダスで経営企画・財務分析のマネージャーを務めた後、当社に参画。当社のESGソリューションを牽引。


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