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「旅する」 リレーコラム④ - 藤田ゆかり

ゆりさんに続いてコラム担当します、藤田ゆかりです。
今回のテーマは「旅する」
ゆるりとお付き合いいただけたら嬉しいです。

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「今までどこを旅しましたか?」
この質問をされることが、場面や関係性を問わず日常的に多い。ふらふらしているイメージがあるのかな、とその度に思う。
確かにわたしは遠出が好きだし、思い立ってふらっとどこかに出かける気質を持ち合わせている。
……けれど、実はこれまで旅という旅をしてこなかった。質問の答えはいつも「旅といえるかわからないけれど」と前置いて、訪れた土地を羅列する。

唯一”旅”といえそうなものは、20歳から21歳にかけて訪れていたカナダかもしれない。
8ヶ月ほどカナダに滞在した中で、7ヶ月間はトロントで仕事をしながら暮らしていた。
トロントは、冬は雪がどっさり積もるけれど、春には日本に負けず劣らず綺麗な桜が咲く。移民が多く、外から訪れる人にも寛容だ。大して英語が話せないわたしも、優しい街の人のおかげで何ひとつ嫌な思いをしなかった。

思うに、トロントで過ごした時間は”旅”ではなく”暮らし”だった。
決まって帰る家を持って、通う職場がある。行きつけのお店に、挨拶を交わす顔馴染み。今でも訪れれば「おかえり」と言ってくれる人がいるその街は、”暮らしていた”場所だ。
またいつか、そこに帰りたいと思う。

わたしが”旅”と認識しているのは、カナダで過ごした最後の1ヶ月。各地をふらふら気の向くままに訪れた。
見知らぬ街と街を渡り歩いて、たくさんの初めましてを経験する。
その土地を離れるときに発する言葉は「行ってきます」ではなく、「またいつか。今日も素敵な一日を」。

その旅でさまざま訪れた中、ひとつとても気に入ってしまったケベックという街がある。カナダ東部にあるフランス語圏の街で、ヨーロッパを思わせる街並みが美しかった。
この街をあっさり離れる気になれず、10日間ほど滞在した。いろいろな経緯があって(このいろいろは、またいつか)チョコレート屋さんの一部屋に居候させてもらった。
たった10日間は、一般的に見れば旅の一幕かもしれない。けれど、わたしの中であの時間は”暮らし”に分類されている。
今でもたまにSkypeで言葉を交わしては「次の帰りはいつ?」と聞かれて、嬉しさに泣きそうになる。

旅と暮らしの境目は何なのか。
明確な答えは出ていないが、また帰れる場所であるかどうか、な気がしている。
では、帰れる場所とは何なのか。
これは現時点で本当に答えが出せておらず、それこそここ数年毎日ぐるぐる考えを巡らせては、浮いたり沈んだりしている。

帰れる場所……帰りたくなる場所、ありますか?
それは具体的な土地や家でなく、誰かと一緒にいる時間にあるかもしれないし、場所と人がセットで叶うものかもしれない。
あなたの旅の話と同時に、帰る場所の話も聞いてみたい。

そして、どこか誰かの旅から暮らしに移りゆく瞬間に、いつか力添えできたら嬉しいなと思う。

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お付き合いいただき、ありがとうございました。
8月のテーマは「集う」
次は部長のやばこさんです。今月も文化放送部をよろしくお願いします!

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