マガジンのカバー画像

ARTのよもやま話

42
アートというより「art」に関するよもやま話。Copyright©Susie Y. All rights reserved.
運営しているクリエイター

#コラム

本物を見た時よりも、「本物の良さがわかる」こともある 〜 大塚国際美術館(日本・鳴門) 後編

大塚国際美術館(The Otsuka Museum of Art)で今回見学出来た作品の中で、個人的に印象に残ったベスト5を厳選して紹介している(順不同)。前回の続き。 2.スクロヴェーニ礼拝堂 大塚国際美術館の展示の中でも「スクロヴェーニ礼拝堂の実寸大に復元された空間」は、ダントツの完成度だ。壁画の剥がれ具合まで見事に再現している。 イタリア、パドヴァにあるスクロヴェーニ礼拝堂は、見学時間15分のみ。もちろん、撮影禁止だ。鳴門の「スクロヴェーニ礼拝堂」の画像でもおわかり

個人的に印象に残ったベスト5は。。 〜 大塚国際美術館(日本・鳴門) 中編

実は、大塚国際美術館の本当のすごさは、地下3階の古代・中世の展示場からはじまる。 もう一度、同美術館の公式サイトより以下の部分を引用させていただく(*1)。 館内には、6名の選定委員によって厳選された古代壁画から、世界26ヶ国、190余の美術館が所蔵する現代絵画まで至宝の西洋名画1,000余点を大塚オーミ陶業株式会社の特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさに複製しています。それらは美術書や教科書と違い、原画が持つ本来の美術的価値を真に味わうことができ、日本に居ながらに

「本物を知ること」は、本物を見なくても可能だ 〜 大塚国際美術館(日本・鳴門) 前編

私の頭の中には、「本物を現地で見る」というアートを研究してきた人間としての、どうでもいい使命がこびりついていた。ただ、下記の記事にも書いたが、ミュンヘンの古典彫刻模型博物館での体験が、「本物を現地で見る」=「本物を見ないと意味がない」という思考回路を吹っ飛ばす結果となった。 この体験を通して、すぐに思いついたのが日本の大塚国際美術館へ行ってみて、今度は、名品の複製画を体験することだった(*1)。ご存じの通り、同美術館に本物の作品は、一切展示されていない。その規模といい、世界

西洋美術を専門にしている私が、「西洋」に対して疑問に思うこと

美術史は、問題がある学問だ。 美術史は、ツールだと言っておきながら、問題があるのであれば、避けた方がいいのか。私は、そう思わない。問題を知ることで、今まで「見えなかったことが見えてくる」。視野が広がる。なぜ、その問題が起きるのか。理由を考えると意外なことがわかってくる。 美術に興味があるのであれば、知っておくとお得くらいで、このnoteを読んでいただければ幸いだ。 まず、本題に入る前に、以下のことをお伝えしなければならない。 本来、「美術史の問題」は、美術史全体の問題

美術を鑑賞する作法 「美術史は、ツールだ」

先日、以下のnoteを書いた。 上記のnoteで取り上げた『自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考 』(2020年、ダイヤモンド社)の著者である末永幸歩氏は、美術史が我々に提供する知識(の一部)である「背景知識」について同書で次のように述べている。以下同書より引用する。 アート思考の本質は、たくさんの作品に触れたり、その背景知識を得たりして、「教養」を身につけることにはありません。 上記の著者の説明から「作品の背景知識を得る=美術史を学ぶ」と読み取るならば、