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競技選手はスーパーシューズについて"正直に話したほうがいい"その③:メイソン・ファーリック🇺🇸 / ニック・ウィリス🇳🇿

(写真:Instagram Mason Ferlic ©︎Johnny Zhang

一昨日から始まったこのテーマの記事をシリーズとして毎日書いていく。

3回目は先日5000mで13:25.92の記録を出したメイソン・ファーリック(アメリカ)と彼のトレーニングパートナーのニック・ウィリス(ニュージーランド)について。

ファーリックは2月27日の5000mで13:25.92のPBを出した直後のインタビュー↑で、このレースで使用したスパイク(ドラゴンフライ)についての質問に対して、思っていることを正直に話している。


メイソン・ファーリック:「5000mで10秒は速くなる」

このレースで13:25.92という11秒近くの自己新を出したファーリックはインタビューの最中に「この(ドラゴンフライの)テクノロジーは凄い」「5000mで10秒は速くなる」と正直に話している。これは彼の以前のベストが13:37.56であることを考えると、練習の状況やその感触としては2016年の消化具合に近かったことが考えられる。

【ファーリックの5000mの年次ベスト】

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そのようなことを考えると、このレースには自己新を出すつもりで走ったに違いないが、言い換えれば今は2016年の頃とさほど変わらない実力(シューズがもたらすパフォーマンスを除いた"自力"の部分)であると本人が思っているのかもしれない。

ファーリックはミシガン大に在籍していた2016年に全米学生選手権3000mSCを優勝(8:27.16)。その後、ミシガン大卒業後も拠点を変えずにミシガンでロン・ワーハースト(↑写真右)の元でトレーニングを継続してきた。

その時はファーリックはナイキ所属の選手だったが、やがて、最近のナイキ切りの煽りを受け、いつしかスポンサー無しのアマチュア選手となった。

そこからは彼は好きなシューズを履く一般的なアマチュア選手として競技を継続した。例えば、2021年の練習ではリーボックのシューズ(↑写真参照)を履いている。

「自分はバカじゃないからレースでは今、ナイキのシューズを履くけどね」 / ↑のレース後のインタビューより

とはいえ、彼は現在ナイキのドラゴンフライをレースで履いている。

(2020年12月のマラソンでペーサー務めるファーリック↑:写真左はネクスト%を履いている)

今現在、アメリカのアマチュアの選手(その多くがトラックスミスのシングレットを着ている)の多くは、日本の実業団選手と何ら変わらず、足元はナイキのスパイクや厚底カーボンシューズを履いていることが多い。

傾向として、彼のような好きにシューズを選べるような選手の中でもいわゆるアマチュアの選手は、自分が履いているシューズについてオープンマインド(心を開いて)で正直に話すことがある。

ファーリックは↑のインタビューの後半で、「最近のシューズについて、みんなもっと正直に話すべきだ」と言っている。

我々は最近のシューズが記録の向上に貢献しているということをもっと認識すべきだ。”金持ち”がどんどん記録を伸ばしていく(The rich gets Richer)。

これは、逆にいうと、スーパーシューズにアクセスできない選手はその時点で不利な状況にあるということを示唆している。

金持ちというのは、最近の高額化しているシューズにある程度のお金をかけることができる人、希少化が進むシューズにアクセスできる人、という意味で言っているのではないだろうか。

その昔でも30,000円程のカスタムシューズはあったものの、ドラゴンフライの耐久性の低さを考えると、よりコストが以前よりもかかっていることは明らかだ。

アメリカでは何かの物事に対してディスカッションする文化があるので、最近のスーパーシューズについて、彼はもっと多くの人が正直に話して、今記録水準が上がっているのが何故なのか、ということを正確に理解することが重要であると考えているのではないだろうか。

彼は普段、エンジニアとして陸上以外の時間を過ごしているが、スーパーシューズのようなテクノロジーについては「とても凄いテクノロジーである」と認めており、それを認めることによってそれが記録水準の向上に貢献していると考えるのはごくごく自然なことだろう。


ニック・ウィリス:「1500mで2秒は速くなる」

ファーリックと、そのトレーニングパートナーであるニック・ウィリスはともにミシガン大卒。ウィリスもファーリックと同じくワーハーストコーチの指導を受けているが、1500mで北京五輪銀メダル、リオ五輪銅メダルを獲得しニュージランドの中距離界のレジェンドを継承するような中距離選手。

ウィリスは2019年にアディダスとの契約が終了したことを公表し、その後アメリカ発のランニングギアブランドのトラックスミスに雇用され、トラックスミス所属の“アマチュアランナー”となった(一般的にいえば、彼の雇用形態はそれまでの個人事業主:プロ選手ではなく米国での厚生年金や企業保険のような制度が適応される会社員ランナーということになる)。

そんな、ウィリスは2020年1月に1マイルを3:58.63で走り(ファーリックに引っ張ってもらった↑)、19年連続の1マイルサブ4を達成。これは、偉大なニュージランドの中距離レジェンドのジョン・ウォーカーの18年連続1マイルサブ4の記録を破る金字塔である。

このレースでウィリスが履いていたスパイクは前年まで彼が履いていたアディダスのスパイクではなく、ニューバランスの最近のカーボンスパイク(Fuelcell MD-X)。

このシューズを履いて彼が1番最初にタイムトライアルを行ったのが↑のレースの前の2021年1月12日。そこで、ウィリスは以下のようにツイートしている。

OK、私は新しいスパイクテクノロジーを信じている1人だ。今夜のタイムトライアルで自分の予想より2秒速く走った。(ニューバランスの契約選手たちが)履いていたNBのシューズを履いた。
(中略)このシューズの名前は詳しくはわからないんだけど、私がこの20年間、1マイルのレースで体験してきたものとは大きく異なる。

【現在37歳のウィリスの1500mの年次ベスト】
※2015年モナコDLでサブ3:30を達成(3:29.66)※オセアニア記録

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ウィリスはこれまでの20年間以上の1500mでの経験を踏まえたうえで「このシューズ(Fuelcell MD-X)では2秒は速く走れる」と話しているのだ。

(どちらのスーパースパイクも現在は入手困難となっている)

ウィリスもファーリックも現在は、その高い競技レベルを有しているとはいえ、シューズを自由に選べる(拘束されない)アマチュア選手であり、2人とも陸上選手としての顔以外にも定職を持っている。

(3/6の1500m。37歳のウィリスは現在も若手相手に健闘をしている)

この2人のように最近のスーパーシューズについて正直に話すのは、どちらかというと契約の縛りや大きなプレッシャーが比較的かからないアマチュア選手なのかもしれない。

ただ、彼らのようなトップレベルの選手の正直なコメントは、これを書いている私の心の中にスーと入ってくることだけは確かである。

何故なら、私も彼らと同じようにスーパーシューズ時代でそれらの新しいテクノロジーを享受している1人であるからだ。


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