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それでもナイキは超えてきた。

2/1の有料note:それでもナイキは超えてくる。

で書いたように、
ナイキは2/5に「アルファフライネクスト%」など今年の新シューズについて発表した。

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(出典:NIKE

なかでも、INOES 1:59の時点ではソールの厚さが50mm以上、カーボンプレート3枚と言われていた「アルファフライ」が、「アルファフライネクスト%」として、世界陸連のレギュレーション内で使用できるようにきちんと作り直されている(おそらく昨年の11月ぐらいから作り直していただろうか...)。

ソールシックネスが40mm以下。WAレギュレーションの対象内の製品)


ナイキの2020年5つのラインナップ

ナイキランニングのパフォーマンス部門(リアクトインフィニティ等を除く)で2020年の新しいラインナップ予定なのが以下の5つのシューズである。

・エアズームアルファフライネクスト%

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(出典:NIKE

前足部にはエアポッズ(Zoom Air Pods)が2つあり、このテクノロジーはナイキの数あるテクノロジーの中でもエネルギーリターンが最も高いと言われている。ズームX×カーボンプレート×エアポッズの組み合わせ。シューズの耐久性もネクスト%より上がっており、クッション性や反発性が長持ちする。

カーボンプレート(フライプレート)はサイズごとに厚さを調整。サイズとフォームの硬さを比例させ、サイズが大きくなるに従いプレートの硬さを強化している(ネクスト%はシューズのサイズに関わらずプレートの硬さは均一)。

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(出典:NIKE

ソールはネクスト%よりも分厚く(WAのレギュレーションの規定内)ズームXも増量。その分重量も25gほど増えているが、反発性はさらに高まっている。また、エアポッズを搭載した前足部は安定感を高めるため幅が広い。

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(出典:NIKE

アッパーはネクスト%の「ヴェイパーウィーブ」からTPU素材の「アトムニット」に変更。通気性、耐水性に優れているが、これは夏の東京オリンピックのマラソンでの使用を想定している。

アルファフライネクスト%は、2/29にアメリカにてオンラインでナイキプラスメンバーに限定発売。これでWAのレギュレーション「4/30以降のプロト使用不可」を避けられる。アルファフライネクスト%の価格はネクスト%と同程度と想定される(ソースはクリールの記事)。

東京オリンピックマラソン全米選考会と翌日の東京マラソンでナイキの契約選手が使用予定。日本での発売日は未定(ナイキ会員には近日発売と通知されている)。

・エアズームテンポネクスト%

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(出典:NIKE

こちらもズームエア搭載で、アッパーはアトムニット。内臓プレートはカーボンでなく少し柔らかいTPU製。ミッドソールにはズームXと、ヒール部分にリアクト。レースやポイント練習をアルファフライネクスト%で行うなら、こちらはペガサスターボの位置付けのデイリーユース用の1足。耐久性も高い。

・エアズームテンポネクスト%フライイーズ

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(出典:NIKE

ソールユニットはエアズームテンポネクスト%と同じで、アッパーに「フライイーズ」を採用。フィット感をさらに高め、着脱のしやすさと固定感を追求したモデル。エアズームテンポネクスト%とエアズームテンポネクスト%フライイーズはオンライン上で秋頃の発売を予定(価格:200ドル程度)。

・エアズームヴァイパーフライ(Viperfly)

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(出典:NIKE

100m専用のスパイク。9秒76の記録を持つ現世界王者のクリスチャン・コールマンとともに作られた1足。アッパーはアトムニット、そしてカーボンプレートとズームエアを搭載。

イギリス・ガーディアン電子版や、ランナーズワールドによれば、このスパイクはプレートの構造上、WAのレギュレーションに反しており、レースでは使用できない。ナイキはこれからこのシューズに修正を重ねてレギュレーション内に抑える方針としている。


・エアズームヴィクトリー

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(出典:NIKE

トラック中長距離種目(800m-10000m)での使用を想定。アッパーはアトムニット、ミッドソールにはカーボンプレートの下にズームX、そしてズームエア。重量は約131g(サイズ不明)と軽量。


ナイキはレギュレーションを見越していたか?

これは当然イエスである。

非ナイキの契約選手(主に海外のプロ選手)が、1/31までにWAにレギュレーションの作成を促す発信をしているなかで、ナイキの関係者や契約選手は状況を静観してきた。

こちらの記事や、クリールの記事を見ればわかるように、1月中旬に日本で↑↑これらの商品のメディア発表が行われている(ナイキ本社からも幹部が来日)。

また、1/31のレギュレーション発表後は、サッカニーなどが新製品の発売日を早めるといったメーカーの動きが見られるなか、ナイキは水面下でこの発表に向けて着々と進めていた。

あるアシックスの短距離の契約選手やコーチは「プロトスパイク使用不可」に関して動揺ともいえるツイートしているが、当然、アシックスは「4/30からのプロトスパイク使用不可」を見越していなかったのだろう。

このように、ナイキの契約選手や関係者と、一方では非ナイキメーカーとで、今回のレギュレーションへの準備に対する差が浮き彫りとなった。


ナイキのマーケティングはすごい

これは今に始まったことではないが、そもそもVF4%があれだけ売れたのはもちろんナイキの技術力、革新的なイノベーションの賜物であるが、2回のサブ2イベント「Breaking2」と「INEOS 1:59」というマーケティングキャンペーンの絶大な威力(話題性)があったことを忘れてはいけない。

2016年12月Breaking2プロジェクト発表
 → サブ2イベント(Breaking2)
 → VF4%発売
 → 駅伝シーズンで東洋大野選手が着用
 → 東京マラソン前にVFエリートのイベント
 → 東京マラソンで日本記録樹立(設楽悠太)
 → キプチョゲ世界新(ベルリン)
 → 大迫シカゴで日本新
 → VFフライニット発売
 → 箱根駅伝でプロモーション
 → 東京マラソン翌日にフライプリント限定発売
 → ロンドンマラソンでネクスト%お披露目
 → ネクスト%発売
 → サブ2イベント(INOES 1:59)
  
→ コスゲイシカゴで世界新
 → 駅伝・ロードシーズンでネクスト%が独占
 →  ネクスト%規制されるか?フェイクニュース
 → WAレギュレーション発表
 → アルファフライネクスト%発表

こんな感じでほぼ無双状態

最初のVF4%も、今回のアルファフライや規制報道も途中のサブ2イベントがポイントとなっている。もちろんマラソンで男子の2回の日本新、男女の世界新だけでなく、駅伝シーズンでもVFシリーズの露出効果は抜群だった。

VF4%(初期のうちは)、VFエリート、フライプリントは数を絞って数量限定販売。いずれも話題性があった。今回もアルファフライネクスト%はオンライン上で数を絞って販売され(アメリカ・2/29)、そこで希少性と期待感を煽り、話題性を作る。

もちろん、全米選考会、東京、ロンドン、ボストンでの露出効果は高い。今年は南京での世界室内が開催延期になったとはいえ、ナイキのスパイクへの期待感も高まるばかりである。


他社からナイキにどれぐらい移るか?

日本の実業団選手で、アディダスやホカ、ニューバランス、アシックス、ミズノをこれまで履いていた選手も続々とヴェイパーフライをレースでの本命モデルとしている。

「地面を蹴っていくのが好き」と話し、練習でVFが合わなかった塩尻和也といった例外はいるものの、アシックスと契約している川内優輝、ニューバランスと契約している神野大地といった選手はどちらも広告塔になっているため、契約メーカー以外のシューズに変えることは現状難しい。

それでも、過去にアシックスのテンカシリーズの広告に起用されていた井上大仁はその域を越えてきた。青山学院大もアディダス契約であるが、こちらも文字通り“飛び”道具を着用してきた。

契約の内容が公開されないのでその中身はわからないが、このようなパターンでは果たして違約金は発生するのだろうか?(違約金を払ってでもVFを履いていたなら、どちらも策士である)

ロンドン、リオと2大会連続でカナダ代表としてマラソンを走ったリード・クールセットは2008年から11年間ニューバランスのサポートを受けてきたが、東京オリンピック出場を目指す2020年はニューバランスとの契約更新にサインをしなかった(ニューバランスは契約更新を望んでいた)。

40歳のクールセットは、東京オリンピックマラソンの参加標準記録の2:11:30を切っておらず、この2年間では2019年10月のトロントウォーターフロントでの2:15:23が最高記録である。

クールセットはこの記事内でニューバランスとの契約更新をしなかったことについてこのように綴っている。

ご存知のようにVFはマラソンを変えた。私は2017年にはVFの誇大広告を信じていなかったが、2018年にはVFが一部の選手を後押ししていることに気づき始め、2019年にはVFが別のレベルにあることを確信した。(中略)
長年のサポートに対してNBに十分に感謝しきれない。このような素晴らしい会社と一緒にやってこれたことは自分に与えられた特権だった。

このようにニューバランスに感謝を気持ちを述べるとともに、自分の今の気持ちを正直に発信できることは、私から見れば尊敬に値する。

とはいえ、彼はVFに対してそうでないシューズで臨むのは
「銃撃戦にナイフで対抗するようなものだ」
という表現もしている。とてもわかりやすい例えだと感じる。

同じようにプロ契約を更新しなかった例でいえば、2019年初頭にHOKA NAZ Eliteの男子選手だったマット・リャノがホカのユニフォームを脱ぎ、その後からVFを履いている。

彼らのように契約を更新せずに、ナイキのシューズに変える海外のプロ選手は少数派であるが、それが彼らなりの「ベストな選択」だったのだろう。今年はオリンピックイヤーであるが、今後はこういった選手がどれぐらい増えてくるだろうか。


過去の記録との比較は無意味になってくる

アルファフライネクスト%を試した関係者や選手たちは口を揃えて「前作よりも反発がある」感じている。従来のシューズと比較してVF4%が4%、Next%が5 %、アルファフライネクスト%が7-8 %のRE向上と言われている。

今年のドバイマラソン女子の2位と3位はアディダスのアディオス(6でない)を履いていたが、彼女たちが今後7-8 %のRE向上が見込めるシューズを履いている選手と一緒にスタートラインに立った時、心理的にディスアドバンテージ(不利)を感じないのだろうか。

私はVFネクスト%を履いてこれまでに数回練習したが、10年以上前(私の学生時代)のシューズと比較した時にその差は歴然で、もはや「当時の感覚など捨てなければならないのか...」と悟ったほどである。

当時の感覚というのは「これぐらいのタイムで練習できていれば、レースではこれぐらいで走れるという経験則」である。

今の時代ではそのような経験則はあまり役に立たないのかもしれない。

下り坂を走ったり、追い風を受ければ人は速く走れるが、VFネクスト%はどちらかというとエネルギーロスを節約するシューズだと感じる。筋疲労が蓄積していく感覚が昔と合わない。先日3000m × 3本をした時も、3足別のシューズを持っていって履き比べて、3本目にネクスト%を履いた。

5000mのレースペースで走ったので結構きつかったが、2本目のラストでふくらはぎが攣りそうになり、その時点で筋疲労をかなり感じていたのは明確だった。しかし、VFネクスト%に履き替えた3本目、ふくらはぎは悲鳴をあげるどころかほとんど疲労を感じず、3本のうちで1番速いタイムで、かつ1番低い心拍数で走り終えた。

学生時代には幾度となく厳しい練習をこなしてきたが、過去に脚にお釣りがない状態で、そこからタイムを上げた経験は1度もない。

過去のシューズや過去の感覚と比較することはもはや、「今を生きるという意味では」無意味なのかもしれない。

同じように、昨今の駅伝やロードレースの好記録、そしてこれからまたたくさん生まれるであろう好記録を過去の記録と比較することにもほとんど意味を見出せなくなるだろう。

その傾向が短距離や中長距離のトラック種目に今後起きてしまったならば、その時スタジアムにいる私たちは何を思うのだろうか。


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