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3000m中学歴代2位の記録を持つ鈴木琉胤選手と陸上部以外の名選手を輩出している東葛駅伝について

(鈴木琉胤選手の3000m8:18.70の中学歴代2位はこの記事を公開した2022年3月28日時点での歴代順位です:現在は中学歴代5位)

2021年全中男子3000m覇者の鈴木琉胤(るい)選手(※ 松戸市立小金北中3年)が、同種目の中学記録(2017年石田洸介選手の8:17.84)更新を目指して走ると小耳に挟みました。

(※)鈴木選手はこの4月から八千代松陰高に進学

3月26日に彼の地元の千葉県松戸市の運動公園陸上競技場に行きました(私の家からジョグで行ける距離)。この前日や同日、翌日に関東の各大学の記録会で3000mが開催されていたものの「地元で走りたい」という本人の意志から比較的小規模の松戸市陸上競技記録会での記録挑戦に挑んだそうです。

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今回のスタートから130m地点。先頭が鈴木選手で後ろが松戸市陸協所属のシニア選手2名(三野選手と松井選手)その後ろが松戸近辺の学生選手(おもに中学生)。序盤でこれだけの差ができるのは小規模の記録会ならでは。

サッカー部所属ながらも全中の3000mで完勝

まずは、鈴木選手がどんな選手かを紹介しておきます。

冒頭で紹介したように2021年の全日本中学選手権男子3000mで優勝していますが、小金北中ではサッカー部に所属。

こちらの記事によれば、鈴木選手は小学校から地元のクラブチームでサッカーをしていて、その流れで中学もサッカー部に所属。秋から冬にかけては駅伝部の練習に参加しており、球技系の部活に所属する生徒が駅伝で中長距離走の素質を開花させるパターンですね。

大会の情報を調べると、小学校高学年から地元の「七草マラソン」に出場。サッカー部ながらも駅伝シーズンには東葛駅伝や千葉県中学駅伝(2年時に1区区間2位)にも出場。2年時の12月には3000mで8:50.75をマークし、陸上部の岡崎崇典先生の指導のもとでサッカーとの二刀流を3年まで両立。

とはいえ、先ほどの記事によれば練習量はサッカーの方が多く、陸上の練習はサッカー部の練習が休みの月曜日と、サッカーの練習前にできる2-3km程度とのことです。

中学3年になってからは千葉県総体、関東中学、全中と3連勝して3000mで破竹の勢い。特に全中の男子3000mの千葉県勢の優勝は1986年の柳倫明さん(風早中)以来35年ぶりだったそうです。

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鈴木選手は完全なるフロントランナー。記録もそうですが彼が圧倒的な走力を持っていることがわかります。全中優勝後の11月には8:18.70の中学歴代2位の好記録をマーク。このレースでも2:40 → 2:55 → 2:42のラップでの独走でした。


松戸市陸上競技記録会3000m

現在はYouTubeで過去の動画が見れますが、それでも実際に見にいくのが大切。実際に選手と話をしたり、関係者から情報を聞いて勉強したりと現場に行くことは重要です(私はスカウト業務を行なってるわけでないですが)。

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中学生なので、まだ体の成長があって線が細い印象。これから成熟すればどんな選手になるでしょうか。中間走は今後の練習でいくらでも改善可能なのですが、今回のレースの最初の1周目の59.8や、11月のレースでのラスト1周58秒台後半は非凡なセンスの良さを感じさせますね。

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今回の記録は8:20.08で中学記録や自己記録の更新はならなかったものの、11月の8:18.70とともにインパクトの大きいレースでした。レース後に鈴木選手と少し話しましたが「最初の入りが速かった」そうです。それでも、8分20秒前後で単独走で2本も揃えているので十分すぎる走力ですね。


石田洸介選手の中学記録との比較

鈴木選手がこの先どれぐらいのポテンシャルを秘めているのでしょうか。

石田洸介選手
中学記録 8:17.84(ジュニアオリンピック)
・1周目 64.6 / ラスト1周 64.5
・1000mごと 2:40 → 2:50 → 2:47

鈴木琉胤選手
都道府県選考会 8:18.70
・1周目 60秒台 / ラスト1周 58秒台後半 
・1000mごと 2:40 → 2:55 → 2:42

松戸市陸上記録会 8:20.08
・1周目 59.8 / ラスト1周 63秒台後半 
・1000mごと 2:39 → 2:54 → 2:45

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石田洸介選手との違いは
・サッカー部所属でサッカーの練習時間の方が圧倒的に多い
・陸上の全国タイトル獲得はまだ1回のみ
・最も伸ばせる部分は中間走(練習量が少ないので)
・上半身の筋量
・履いているスパイク(マトゥンボとドラゴンフライ)

あたりです。

石田選手も鈴木選手も独走での好記録なので、ペーサーがいたレースではないことが最も評価できると思いますし、鈴木選手が順調に高校で伸びれば石田選手のように高校記録級の選手になる可能性があると思います。


陸上部以外の名選手を輩出している東葛駅伝

鈴木選手の地元の松戸市の中学は東葛駅伝(東葛飾地方中学校駅伝競走大会)という秋の中学駅伝に参加しています。

この駅伝は3km程度の区間が合計10区間ある駅伝で、陸上部だけでは10人用意できない学校が多いでしょうから、ここで、陸上部以外の駅伝シーズン限定の「助っ人」が起用されるわけですが、鈴木選手もその1人。

中学駅伝ながらも「公道で開催され白バイが先導」という気合いの入った大会で、70前後の中学校が参加。東葛地区の各中学の威信をかけて行われる昭和23年からの歴史を持つ伝統の駅伝です(この2年間はコロナ禍で中止)。

このようなローカル駅伝の存在が日本の駅伝文化を象徴していて、それが結果的に高校駅伝や大学駅伝の選手層の底上げに貢献しているのは間違いありません(中学の熱心な指導者の先生の指導がもちろん大前提ですが)。

東葛駅伝を経験した「最近の有名な選手」ですが以下、敬称略。

松戸市出身
佐藤一世(小金中 → 八千代松陰高 → 青学大)
鈴木琉胤(小金北中 → 八千代松陰高)
土方英和(新松戸南中 → 埼玉栄高 → 國學院大 → Honda)
島貫温太(新松戸南中 → 市立柏高 → 帝京大 → GMO)
安井雄一(常盤平中 → 市立船橋高 → 早大 → トヨタ自動車)

柏市出身
鈴木塁人(西原中 → 流経大柏高 → 青学大 → SGH)
林奎介(豊四季中 → 柏日体高 → 青学大 → GMO)
田村丈哉(酒井根中 → 市立船橋高 → 帝京大 → たむじょー)

その他
丸山竜也(流山市立西初石中 → 専大松戸高 → 専修大 → 黒崎播磨 → 松戸市陸協 → 八千代工業 → トヨタ自動車)
中村唯翔(流山市立南部中 → 流経大柏高 → 青学大)
武田凜太郎(野田市立第一中 → 早稲田実業高 → 早大 → ヤクルト)
・※ 大島史也(我孫子市立久寺家中 → 専大松戸高 → 法政大)
など(他の箱根駅伝出場選手は相当の数の選手がいますので省略)
※ 5000m千葉県高校記録(13:50.04)保持者

この中だと、鈴木塁人選手と島貫温太選手が野球部、林奎介選手がバスケ部、鈴木琉胤、中村、丸山、大島選手が中学時代にサッカー部です。また、佐藤一世選手は中2までサッカー部所属でした(青学が4人もいますね)。

このように、陸上部以外の選手が東葛駅伝を経て才能を開花させていったように思います。また、今では47都道府県で千葉県出身の選手が箱根駅伝に最も多く出場していますが、2019年のデータでは松戸市出身の選手が箱根駅伝登録メンバーに9名と、全国の市町村別で最多となっています。

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(出典:松戸市スポーツ課発行の広報誌 AGORA第34号)

自分の話で恐縮ですが、私は中学時に陸上部がなく野球部でしたが、中学時に駅伝や陸上大会に出場した経験はありません。その後、地元の公立高校で陸上を始める直前に出場した桂川ロードレース5kmは17分台でした(手前味噌ですが5000mはそこから高1で15:32、高2で5000mで14:40まで短縮)。

もし、私の地元に東葛駅伝のような中学駅伝があれば私は地元の公立高校でなく洛南高といったような駅伝強豪校に進学「できた」可能性が少しでもあったかもしれません。

東葛駅伝の影響で陸上を続けて東洋大に進学した松崎竜也さん。


都大路1区区間賞の佐藤一世の恩師の蓑和先生

・佐藤一世(松戸市立小金中 → 八千代松陰高 → 青学大)
・鈴木琉胤(松戸市立小金北中 → 八千代松陰高)

この2人に関連しているのは松戸市立常盤平中陸上部を指導する蓑和廣太朗(みのわこうたろう)先生。

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今回の鈴木選手の3000mのレースでラスト1周の鐘を鳴らしたのが蓑和先生。彼と私は6-7年ぐらい前に東京の地区対抗ローカル陸上大会の1500mで対決したことがあり「1周目64ぐらいですかねぇー」とか言いつつ、1周目を60秒ぐらいで奇襲を仕掛ける男です。笑(彼は1500mでインターハイ出場)

このように、松戸市の中学陸上に新たな歴史を作った蓑和先生ですが、常盤平中の前に在籍していた松戸市立小金中では佐藤一世選手を指導。当初、サッカー部だった彼を陸上の世界にスカウトしたのが蓑和先生であり、そのキッカケの1つが東葛駅伝でした。その後、佐藤選手は八千代松陰高で高2の時に全国高校駅伝1区区間2位、高3時に同大会1区で区間賞を獲得。青学大でも大学駅伝で区間賞の活躍をみせていますね。

その佐藤選手の恩師である蓑和先生は、現在では中学は違うとはいえ練習会で共に走ったりと鈴木選手を指導することもしばしばあったそうです。

「蓑和族」初代メンバーである松戸市立第六中 → 市立柏高 → 順大 → トーエネックの野口雄大選手。


関東一の駅伝強豪校の八千代松陰高に進学

最後に鈴木選手が進学する八千代松陰高について。

地元が松戸市小金、元サッカー部、東葛駅伝を経験、八千代松陰に進学という点では鈴木選手と佐藤一世選手とは共通点が多いです(「蓑和族」の一員)。

八千代松陰高は2021年の全国高校駅伝では11位でしたが、関東勢で最上位。また、5000m13分台選手の輩出数はこの10年間では全国3番目の数です。

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これをみると、八千代松陰は近年において洛南、佐久長聖、学法石川、仙台育英などと共に育成力に優れたチームであり「かなり強い中学生」が進学したくなるようなチームであることがうかがえます。

去年の全国高校駅伝では綾一輝選手(インターハイ5000m9位 / 13:51)工藤慎作選手(都大路3区区間6位 ※留学生4人含む)といった2年生中心のチームで11位でしたので、鈴木選手を加えて今年は入賞のみならずもっと高い順位や県記録の更新が期待できるでしょう。

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鈴木選手はまだまだ伸び代がある選手だと思いますが、インターハイ路線は短い距離での出場となるのでしょうか。

徳島インターハイは1年生ながら3:46.82のPBで6位入賞(予選は3:46.87のPBで組2位 / 6月の南関東インターハイは3:48.59の大会新で優勝)

1年目の都大路で佐藤圭汰選手のように2区なら面白そうですね(佐藤圭汰選手は1年時に2区で区間賞を獲得)。7分台に期待です。

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