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競技選手はスーパーシューズについて"正直に話したほうがいい"その④:ベス・ポッター🇬🇧(アシックス)

(写真:Instagram Beth Potter 📷 Peter Brown

今年に入ってからイギリスの陸上中長距離界におけるシューズ論争の話題が尽きない。

クリス・トンプソンはonの契約選手でありながら、黒く塗りつぶしたVFネクスト%で3月下旬に開催された東京五輪マラソン英国選考会で優勝。onはその日にonのTwitterの公式アカウントのリプでonの契約選手にブラックアウトVFネクスト%の着用を容認していることを認めた(同様にon契約の一部のトラックの選手はドラゴンフライを履いている=オリバー・ホア)。

エリオット・ジャイルズは男子800mの選手であるが、シニアの世界大会で決勝に進出したことがないのにも関わらず、室内800mでセブ・コーというレジェンドの持つ英国記録を更新する1:43.63をマークして英国中を驚かせた。しかも、その記録は室内よりも記録が出ると言われている屋外800mの自己記録を1秒弱も上回ってのものだった。

ジャイルズにそのレースで負けたジェイミー・ウェブは1:44.54の自己新を出したがアディダスの“ノーマルスパイク”を着用していた。彼が2020年の秋にアディダスのスーパーシューズ(アディオスプロ)で練習を初めてした時、その時のタイムが飛躍的に伸びたことに恐れ、それ以降練習で積極的にそのシューズを履くことを控えている、というコメントが英国の新聞に掲載された

マーク・スコットは男子10000mで英国歴代2位(27:10.41)の記録を出した翌日に「これまでスマートでハードな練習を続けてきた」とツイート。現在、陸上解説者として活躍している英国陸上の元オリンピック選手のティム・ハッチングスとの「スーパーシューズに対する見解に対しての」舌戦をみせた

このように、英国では今年に入って陸上中長距離種目におけるスーパーシューズに関する議論が再燃していた。

そんな最中、4月3日に英国で開催されたPodium 5kmという小規模の周回コースでの5kmロードレースでトライアスロン選手のベス・ポッターが14:41という女子5kmにおける世界新のタイムで優勝した。

このレースの数日前には彼女はトライアスロンのレースで勝利を収めており、衝撃の5km14:41のパフォーマンスとなった。

"トライアスロン選手"として東京五輪出場を目指している最中での5km世界新

彼女のプロフィールは以下である。

・2016年リオ五輪女子10000m英国代表:決勝34位(33:04.34)
・その時の5000mのPBが15:28.32
・2017年英国選手権10000mで優勝(32:04.63)
・2017年ロンドン世界選手権10000m21位(32:15.88)
・その後、本格的にトライアスロンに転向

リオ五輪の女子トライアスロンで金メダルを獲得したグウェン・ジョーゲンセンが陸上に再転向(彼女はウィスコンシン大時代は陸上部)したのとは逆にポッターはトライアスロン選手となった。

英国ではプロの陸上選手として陸上競技だけで生活できる人は彼女のように五輪選手であっても難しい。英国では単純な陸上のプロ選手は陸上全種目でみても数人程度で、その他の選手は五輪に出場しながらも定職もしくはパートタイムで働いていることが多い。

彼女はトライアスロン選手としても3種のトレーニングを行うために時間的制約の都合をつけるのに苦労し、特にコロナ禍はスポンサーの確保が難しかったそうだ。

現在、彼女はトライアスロン選手として東京五輪出場を目指しているが、英国のトライアスロン代表選手は2019年の時点ですでに決定している。奇跡が起きなければ、彼女はトライアスロン選手として東京五輪に出場することはできないが、それでもその道を諦めていないという。


5kmで15:24の自己記録を更新できれば... 結果は14:41の世界新

コロナ禍ではニュージーランドのヘイデン・ワイルド(5000m13:29.47)などトライアスロン選手のロードレースや陸上長距離種目における活躍のニュースがめざましい。イギリスではアレックス・イーという男子のトライアスロン選手が2020年に3000mで7:45.81、2019年に5000mで13:29.18、2018年に10000mで27:51.94(もちろんスーパーシューズじゃない)をマーク。

トライアスロン選手がこれまでに強いのは、英国やニュージーランドでは陸上だけで生計を立てることが難しい、ということの1つの現れではないかと思う。

(日本なら↑の走力を持っていれば実業団にスカウトされるシステムがそこにある)

今回のベス・ポッターもそういう1人で、トライアスロン選手としては五輪出場が現状難しいが、それでも小規模の5kmのロードレースに出場。目標は自己記録の5kmで15:24の自己記録を更新できれば... という気持ちで出場したが、結果は14:41の世界新(PB43秒更新)

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Peter Brownさんが撮影した↑↓の写真(インスタグラムはトップの写真しか表示できないので、この投稿から抜き取っている)を見ていると「15:24を切って自己記録を更新できれば...」とレース前に考えていたポッターは男子選手に果敢についていったことがわかる。

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そして、スーパーシューズ時代に象徴的な写真は以下のようなものだ。

「エッ、マジで??」

“I thought it was a joke,”(ジョークかと思った)AWの記事より

この表情をイギリスの陸上選手としては2月にも同じような表情を浮かべたエリオット・ジャイルズという800mの選手がいる(室内800mで1:43.63の英国記録樹立)。この選手についても後日このシリーズで取り上げる。


(電光掲示の)「時計が壊れているかと思った」

AWの記事によるとポッターは今回5kmの自己記録を43秒も更新したが、レース中に(電光掲示の)時計が壊れていると思っていたようだ。

※ Athletics Weekly:近代の陸上競技発祥の地、英国で長い歴史を持つ陸上専門誌。

そもそも彼女は今回、1週間前に5kmで15:30を切れるようなレースはないかと探した結果、Podium 5kmを見つけ、レースディレクターに出場を打診したという。

“I thought the clock was out! I was shell shocked to be honest.”(時計が途中で止まったのかと思った。正直言って、かなりビックリした)AWの記事より

このレースは小規模のレースゆえに、公認コースの申請はしているものの世界記録となるとその批准でのプロセスで、ドーピング要件(アンチドーピングへの姿勢=レース後の検査をしているかなど)を満たしていないことから今回の14:41は公認記録にはなるが、世界記録として今後批准されるかどうかは未定。

ポッターはアシックス契約選手であるものの、このメタスピードスカイを受け取ったのはこのレースの2日前。彼女がこのレースに出場すると決めたのがレースの1週間前。その後シューズを急遽手配してもらった、という感じである。

それにしてもだ。

新しいシューズを履きならす、といった期間がほぼないにも関わらず彼女は2020年に出した5km15:24の自己記録を43秒も縮めてしまった。しかも、あの偉大なポーラ・ラドクリフの英国記録を10秒も更新し、世界記録さえも超えてしまったのだ。

このレースでは果敢に男子の集団についていってリズムを作っていったが、最初の1kmは3:00を切っていた。彼女は最近の練習では今年やっと初めて1000m3:00を切るような練習ができたぐらいだったという(1000m×1の練習)。そして、今回彼女はそのペースで5kmを走り切ってしまった。

英国では6月5日に東京五輪の10000m英国代表選考会が行われる。彼女はまだ気持ちの整理がつかない、としているがトライアスロンの練習を一時中断してそのレースに出場するのだろうか?

ノルウェーでは現役クロカンスキー選手のテレーセ・ヨーハウグが夏季限定で陸上に専念することを表明しているが、同じようにポッターが今後陸上に専念することがあるのであれば今後に注目したい。

確かなことはトライアスロン選手のベス・ポッターが今、5kmの世界記録を持っていて、その記録が批准されるかどうかはわからない、そして彼女はアシックスの新しい厚底カーボンシューズを履いて、自己記録を43秒更新したということだ。


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