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Adizero SL:アディゼロシリーズからオーソドックスなデイリートレーナーの登場

アディダスの新作シューズ「ADIZERO SL」が12月1日より発売されるが、売価は14,300円(税込)という、比較的購入しやすい価格のデイリートレーナーである。この1足をもって、2020年あたりまでの7-8年間にアディダスのランニングシューズを長く支えたブーストシリーズからLIGHTSTRIKEとLIGHTSTRIKE PROへの移行が完了した印象を受けた。


ミッドソール

冒頭に触れたブースト時代は、現在のアディダスのランニングカテゴリーにおいてはウルトラ / ソーラーブーストを残してほぼ終わりを告げたといってもよい。スニーカーのYeezy Boostの人気はあるものの、Ye(Kanye West)とアディダスとの今年10月末の契約解消によって今後このYeezy Boostシリーズの存在感がどう変わっていくのだろうか。

さて、Adizero SLのミッドソールは、下にあるAdizero Proと同じくミッドソール全体の90%ほどをLIGITSTRIKE EVAが占めている。

上:Adizero SL / 下:Adizero Pro / ともにLIGHTSTRIKEがミッドソールの中心的存在

Adizero Proは剛性の高くないカーボンプレート(CARBITEX)が入っているが、Adizero SLはプレートが入っておらずナチュラルな屈曲性のデイリートレーナーである。

では、同じくLIGITSTRIKE EVAが中心的なSL 20シリーズと何が違うというと、Adizero SLは前足部24.5mm / 後足部33mmでミッドソールの厚さが少し増した。ドロップは8.5mmあるが、フラットな接地感でガイド感は少ない。

247g(26.5cm)ミッドソールとアッパーに厚みが増した分だけ重量が増えたという感じ

SL20シリーズやAdizero ProといったLIGITSTRIKE EVA中心のシューズよりも少し厚く、その分クッション性があるという印象を受けた。私はSL20やAdizero Proを履いてトレーニングを3-4ヶ月ほどしていた時期が過去にあるが、その時はジョグでも軽めのテンポ走でも、これまでの薄底シューズ同様にふくらはぎの張りを感じやすかったのだが、Adizero SLぐらいの厚みのシューズになると、クッション性が担保されているのか、もしくはロッカー形状のシューズが増えたことでも、ふくらはぎの張りが少なく感じている。

私の個人的な考えになるが、ジョグ用のデイリートレーナーには、高反発かつ軽量のフォームよりも、EVAまたは脂肪族TPUといった安定性や耐久性に優れた安価なフォームのシューズ(つまりシューズの値段も低い)なら、コスパが高いと感じている。そのことからも、今回のAdizero SLはオーソドックスなEVAフォームのデイリートレーナーとしてアディゼロシリーズの基礎の1足として君臨するのではないだろうか(長持ちするという意味でも)。

Adizero SLの前足部の上部には“はんぺん”のようにLIGHTSTRIKE PROが入っている

ただし、Adizero SLはただのデイリートレーナーではなく、前足部の上部に薄いクリーム色のLIGHTSTRIKE PROが“はんぺん”のように入っているので、ジョグより少しペースを上げた軽めのテンポ走やロングラン、ファルトレクといった基礎練習にも対応できるところが素晴らしい。

LIGHTSTRIKE PROが前足部に入っていることを感じられるのは、そういったスピードを少し上げた時や下り坂を走る時、つまりペース変化がある時。このようなベース練習なんかはもってこい(軽めのファルトレクとか)の1足。

ただし、デイリートレーナーであることを考えると、ガッツリと出力を上げる練習には、フルレングスのLIGHTSTRIKE PRO使用のタクミセン8 / 9またはアディオスプロシリーズ、というところだろう。


アッパー

アディダスの製品ではないが、Breaking 2のマラソン2時間切りへの挑戦が行われた2017年にナイキが発売した“ペガサス34”のアッパーに少し似ていて、デイリートレーナーらしくサポート性に優れ、ふんわりと包み込むフィット感のよいメッシュアッパー。

厚みのあるサポート性に優れたメッシュアッパー

少なくともこの5年以内のアディゼロシリーズに、このようなタイプのボリュームのあるアッパーはあまりなかった印象なので、そこは意外であった。つまりは、ここ最近のオースドックスなデイリートレーナーがアディダスになかっただけ、という印象でもある。

私のサイズ感は以下。

・Adizero Adios Pro 3 25.5cm
・Adizero Takumi Sen 8 26.0cm
・Adizero Avanti TYO 26.0cm
・Adizero SL 26.5cm

サイズ感も含め、Adizero SLのアッパーの特徴に関しては、是非お店で直接試着してみることをオススメする。幅はノーマルであるが、フィット感や走行感も含めてこのシューズはクセがあまり無く、ランナーのレベルを選ばないシューズといえる。

また、これほどのサポート性を持つアッパーであることを考えると、普段のスニーカーとしての散歩、日常生活にもピッタリ使えそう。また、アウトソールはコンチネンタルラバーではないものの、十分なグリップ性能を備えており、デイリートレーナーとしての強度のランニングでは十分である。


14kmのイージーテンポ走で着用

11月29日の朝に14kmのイージーテンポ走(ave: 4:28/km, 80-85% HRMax強度の63分間持久走、ウォーミングアップ無し)で着用。現在の私の走力はマラソンでサブスリーできるかぐらいであるが、ジョグよりも速いペース(80 %HRMax以上の強度)でも十分に使用できることがよくわかった。つまり、自分のマラソンペースよりも15-20秒程度遅いペース、かつ60分程度の持久走でも十分に対応可で、そこまで速くないロングランでも普通に履ける。

先ほど述べたように、ドロップ8.5mmながらも接地感はフラットであり、ガイド感は少ない。少し起伏のある2kmの周回コース7周という14kmで、上りも下りも問題なくスムーズに走行できた。ジョグも含めてどのペース帯でも安定して接地から蹴り出しを行えるシューズという印象であるが、アディオスプロシリーズがオーバースペックというビギナーランナーにはAdizero SLをレース用としても薦めたい。

もしその場合は、ショートインターバルや3-5kmのロードレースといった比較的短い速い動きではタクミセン8 / 9を勧めるかもしれないが、それ以上の30分以上の持久走やレースにはAdizero SLでも十分なスペックだと感じる。

余談として、最近Adizero Adios Pro 3を履いているのだが、気温の高い夏場にはこのシューズのミッドソールが結構柔らかいと感じていたのだが、この秋冬にはちょうど良い柔らかさに感じた。このように、気温の高低差で硬度変化が顕著なミッドソール素材もあるのだが、気温による硬度変化が比較的少ないブーストとは違う点も、今のアディゼロシリーズの特徴である。

ブースト時代を経てカーボンシューズ時代に、Adizero SLというアディゼロシリーズのデイリートレーナーにEVAというオーソドックスなミッドソールを採用したアディダスは、今回のAdizero SLをもってブーストに別れを告げ、原点回帰を果たしたと捉えることとする。

Adizero SLの前足部のLIGHTSTRIKE PROは、この1足のアクセントとなるには十分であるが、デイリートレーナーとして耐久性や製造コスト(と販売価格)を考えた時に、LIGHTSTRIKE EVAを採用したということを評価したい。

また、今後はEVAではなく、脂肪族TPUといった次なるミッドソールが、デイリートレーナーの潮流になるのではないかと予想しているが、脂肪族TPUはEVAより少し柔らかくEVAと同じく製造コストが安価かつ耐久性が高い。


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