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アディゼロ アディオス プロ3のレビュー

アディダスが7月に新発売した「アディゼロアディオスプロ3」についての簡単な実走レビューとスペックについて以下にまとめる。

アディオスプロ1 → 2 → 3

アディオスプロは今回が3代目となる。オレンジがアディオスプロ1、パープルがアディオスプロ2、ブラックがアディオスプロ3と並べてみた。

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重量は26.5cmでそれぞれ220g前後と大きく変わらないが、それぞれのシューズに対する現時点での私の印象は以下である。

アディオスプロ:3つの中で最も前方へのバウンドの大きさを感じることができ、ストライドの伸びを体感しやすい。しかし、斜めや横方向への不安定さがあり、特にロードレースでの折り返し、トラックのコーナーで不安定さを感じた。また、反発性の大きさの反面、テンポ走あたりの速度域やパワーが必要とされる局面で重さを感じることが顕著であった(接地→離地→蹴り上げの局面のラグがやや長く次の一歩が少し重く感じることがあった)

アディオスプロ2:バウンド感は前作よりもややマイルドになった感じであるが、その分斜めや横方向の安定性が高まり「走りやすくなった」ので長い距離でも安心して履けるようになった。重量は前作とあまり変わらないが走行時の重さを感じる度合いが減った。こちらは前作よりも少ない力感で足を捌いていけるような印象で少し汎用性を持たせたような印象。また、ヒールのフィット、ホールド感が向上した。前中足部のカーボンロッドとセパレートのプレートの構造は前作と変わらず。

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(左からアディオスプロ1、プロ2、プロ3の並び)

アディオスプロ3:明らかに前足部の幅に余裕が増えた(その影響もありサイズにも幾分余裕がある)また、ミッドソールの硬度が3つの中で最も柔らかく、クッション性を高めてその分幅を広げてバランスをとった感じ。タクミセン8は軽量の5/ 10km用レーサーであるが、アディオスプロ3はプライムXのような用途でロングランに最適だと感じた。実際にアディダスが4月末にドイツで開催したRoad To Recordsの5 / 10kmの部門でこのシューズを履いている選手が少なかったのが印象的で、私も実際にダッシュをしてみたが、ミッドソールが柔らかくクッションストロークが大きく感じた(ダッシュや短距離なら、スパイクやSL20のほうがうまく大きな力を伝えられそう)アディオスプロ3はそういう意味ではマラソンレーサーという印象で、ハーフマラソンにも使えそうであるが、今作はカーボンロッドをフルレングスにするなど「推進力の向上」がテーマとなっている。

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アッパーは前作のTPU素材よりも強度の高そうなメッシュアッパー。特筆するほどではないものの基本的にはアディオスプロシリーズは3つともフィット、ホールド感が良好というところ。

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ヒールの黄緑の折り返せる部分は、踵が擦れて痛かったので、以下のように立てて着用。痛みは無くなった。

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プライムXと同じミッドソールの硬度

アディオスプロ3のミッドソールフォームの「ライトストライクプロ」は前作よりもミッドソールの硬度がやや柔らかくなり、プライムXのような柔らかさとなった。このライトストライクプロは、競合他社の多くが採用している「超臨界PEBA(熱可塑性エラストマー / TPE)」ではなく「超臨界TPEE(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)」 だと言われている。

熱可塑性(ねつかそせい)というのは「常温では変形しにくいが、加熱すると軟化して成形しやすくなり、冷やすと再び固くなる性質」であり、その最たる例が「チョコレート」である。超臨界PEBAや超臨界TPEEといった熱可塑性のミッドソールはチョコレートほど大きく変形しないとはいえ、夏季に柔らかく感じ、冬季には夏季よりも硬く感じるというのは多くの人が体感していることではないだろうか。

そのようなことから、このアディオスプロ3は前作よりも意図的にライトストライクプロの硬度を柔らかくしただけでなく、今の季節(気温)も相まって、実際に走行しているとかなり柔らかく感じた。また、ZoomXのようなシワの数も、アディオスプロ2よりも多いように見える。

特に夏季では短い距離でアディオスプロ3を履く時は、柔らかすぎてうまく力を伝えることができず、沈み込み(クッションストロークの増大)や接地後のタイムラグが気になった。走り込みのようなトレーニング期間であれば、プライムXのようなゆったりめのペースでスイートスポットを探しながら段々とペースを上げていくようなトレーニングで重宝できると思う。


エナジーロッド2.0(フルレングスカーボンロッド)

今回のアディオスプロ3の大きなアップデートとしてエナジーロッド2.0への改善が挙がる。

このフルレングスカーボンロッドへのアップデートにより、シューズ全体の剛性(Stifness=曲げやねじりの力に対する変形しづらさの度合い)に統一感がもたらされたことがよくわかった。

これが、アディオスプロ1、2の前中足部の主張(カーボンロッドが配置されている部分)とそれによるバウンド感との差を生んでいる。アディオスプロ3はシューズ全体でなぞらしていくように推進力をうみだしていることがわかる。そのため、ヒールストライカーでも違和感なくハーフ〜マラソンペースで使えるのではないか。

このあたりは感じ方に個人差があり、必ずしもアディオスプロ3が全員にとってベストである、というようには感じなかった。バウンド感はアディオスプロ1が最も高いと感じるし、汎用性はアディオスプロ2が高いと感じ、ロングランやマラソンのレースにはアディオスプロ3が良いと感じた。


推進力の向上と軽量化の工夫

6月下旬に都内で行われた「adidas Running / アディゼロ新商品発表会2022」でアディオスプロ3の製品説明を行なった山口智久氏(アディダスジャパンマーケティング事業本部 シニアマネージャー)に、同会場でカーボンロッド2.0について伺ったところ以下の回答を得た。

「アスリートからはより反発性、推進性をより得られるようなシューズを求める声が多かったので、カーボンロッドのフルレングス化を今作で採用した。フォーム材(ライトストライクプロ)の硬度を柔らかくしてクッション性やバウンド力を高めつつ、安定性をもたらすため足全体のしなりを生かしやすい設計、フルレングス一体化構造に見直された」

また、アディオスプロ3は推進性の向上という観点からスイートスポットを拡大するために前作よりも幅広となっている。その中で、軽量性も確保すべく、以下のように必要最低限の部分のくり抜きが施されている。

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これはタクミセン8でみられた繰り抜きを踏襲している。

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まとめ

アディダスの契約選手は2021年の世界の主要ロードレースで多くの優勝を果たすなど活躍。東京五輪女子マラソン、ニューヨークシティマラソン女子ではペレス・ジェプチルチルが優勝。また、男子もキビウォット・カンディエやロネックス・キプルト、アモス・キプルト、などのケニア勢、ヨミフ・ケジェルチャなどのエチオピア勢など強力な選手を抱えている。

その2021年が始まるまでにアディオスプロの初代バージョンしか発売されていなかったアディダスのカーボンシューズが、今ではアディオスプロ2、アディオスプロ3、タクミセン8(グラスロッド)とバリエーションを増やした。

競合他社を含めて多種多様なカーボンシューズに囲まれた現代のランナーのニーズを満たすため、アディダスは急ピッチで新製品の開発スピードを高めている。

今回のアディオスプロ3のサイズ感は前作よりもややゆったりしている印象だったが、サイズ感、走行感も含めて前作とは異なった種類のカーボンシューズであると感じた。

現状では、ロングランやロングインターバル、クルーズインターバル、テンポラン、ハーフやマラソンで履きたいと思ったが、冬季に履くとまた印象が変わると思うので、その頃にはこのシューズの評価を確定させたいと思っている。

夏季と冬季は温度差が顕著であり、ミッドソールの硬度が変わるように、このシューズへの評価も一変するかもしれない。

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