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2022年度新潟県高校駅伝のコース誤誘導について

10月28日に開催された新潟県高校駅伝の男子レースで、先導自転車による誤誘導があったとして、2位の中越高が抗議文を提出した。しかし、再レースは行われず、今のところ中越高校への救済措置は取られていない。

この件は、テレビでも取り上げられお茶の間にも話題が広まったが、私のいち個人の見解として以下に綴る。

陸上競技においての“抗議”とは、競技の正式結果発表後30分以内に行わないといけない

日本陸連競技規則(ルールブック)のTR 8. “抗議と上訴”の8.2には以下の記載がある。

“競技の結果または競技実施に関する抗議は、その種目の結果の正式発表後30分以内に行わなければならない。主催者は記録発表の時刻を記録しておかなければならない”

日本陸連競技規則 TR 8.2 “抗議と上訴”より
日本陸連競技規則 TR 8.2 “抗議と上訴”より

運営のミスはたまに起こることがある。今年の例では、東京マラソンでも白バイによる先頭集団の誤誘導があった。それらのとっさのアクシデントや運営のミスに抗議したければ、結果の正式発表後から30分以内に抗議しないと、そもそも審議すらされず“競技が成立”してしまう、という理解である。

例えば、陸上競技ではトラック中長距離種目の予選または準決勝において、選手間の接触による転倒があり、その後、転倒した選手が“救済措置で決勝進出”というケースがたまにある。

これは、競馬などとは違って、転倒が何に起因したものか、ということに関する選手 / コーチ側からの抗議の申し立て(正式な手続き)がなければ、救済措置はそもそも取られない。 また、トラック種目においてレーンはみ出しなどでの失格処分の際に、それが競技終了から1時間以内に失格取り消しになるケースもある。これは、通常であれば失格処分を受けた選手 / コーチ側からの抗議の正式な手続きを受けて、審議後に修正された確定結果である。

ここで重要なことは、競技の正式結果発表から30分以内に抗議の手続きを完了させなければならない、という陸上競技のルールを理解することである。

11月7日:30分以内に抗議がなかったため、競技は成立し「再レースは行わない」と説明
新潟日報 2022/11/16 10:00の記事より

今回の新潟県高校駅伝では、中越高校側は「正式結果発表から30分以内に抗議がなかった」と報道されており、この点が見逃せないポイントである。


そもそも“30分以内の抗議ルール”があまり知られていない

テレビや新聞などの記事を見ていると、誤誘導があってその影響で最終的な順位に影響した、という内容(中越高校側の主張に関する)の報道が中心的であるが、そもそも、陸上競技における“30分以内の抗議ルール”があまり知られていないことや、報道されていないことも大きな問題である。

もちろん、陸上競技の審判資格を持っている先生方、指導者やボランティアの方々を含め、競技役員の先生方は“30分以内の抗議ルール”を知りません、では公正な競技が運営できないので、このルールについては知っていることだろう。

陸上競技の競技規則からすると、問題はとなる点は、中越高校側がなぜ、正式結果が公開されてから30分以内に抗議しなかった(できなかった)のか、というところではないだろうか。逸走してしまった選手と中越高校の監督との間に、何らかの理由で逸走直後の情報共有が遅れてしまったなどの原因が考えられる。

11月17日追記:陸上部の顧問の先生は、高体連の大会において何らかの業務を担当している(基本的には通話、LINE受信ができない状態も有る)。もし、業務への従事が理由で誤誘導の情報共有が遅れ、制限時間内に抗議できなかったのであれば競技運営の人員や抗議に関するルール変更の特例を検討すべきではないだろうか。


私が“30分以内の抗議ルール”の知ったのは実際に自分が誤誘導を受けた経験があるから

私は昔、台湾のロードレース(台北マラソン)のハーフマラソンの部でケニア人選手2名と先頭集団を走ったことがあるが、その時に10km辺りの地点で先頭のバイクの誤誘導を受けた経験がある。私とケニア人2名はハーフマラソンとマラソンとの分岐地点を間違えてマラソンのほうに進んでしまい、500mほど行ったところで折り返して、結局1kmほど逸走してからハーフのコースに戻った。

私とケニア人の2名は、誤誘導を受けたことで先頭集団から20位ぐらいまで順位を落としてしまったのだが、その後入賞もできず、獲れるはずだった賞金を獲り逃してしまった。

そのレースを走り終えた後、今振り返ると私はかなり感情的になっていて、怒りをあらわにしてしまったのだが、台湾という場所のため、中国語が話せず抗議をするのにコミュニケーションに苦労をしたのを覚えている。

そこで、日本語を話せるスタッフが出てくるまでに時間がかかり、話を聞くと「競技結果の発表から30分以内に抗議しないとダメです。抗議には事務手数料として日本円で5000円ほどかかります」と言われた。

その大会には私1人で参加していたので、ホテルに財布を置いていたことから30分以内に5000円を支払うのは無理だったのだが、どんなに納得がいかないことがあっても、陸上競技においてはルールに従って抗議のプロセスを進めないと結果は覆らないということを身をもって知った(もちろん、運動会のような小規模な大会では、アクシデント時の対象者の聞き込みなどですぐに結果が覆ることはあるかもしれないけど)


決まった時間内での抗議がなければ競技は成立する

今回の新潟県高校駅伝の件は、テレビや大手新聞、地方紙、スポーツ紙に取り上げられたが、一方では(制限時間内の抗議は無く、ルールに従って)「競技は成立した」という主催者のコメントは、その通りである(誤誘導を参加者や主催者がどう捉えているかよりも、そもそも30分以内に抗議はなかったのだからルール通り競技は成立しているという認識のもと)。

今回の件で見落とされてるのは「抗議は競技結果の正式発表後30分以内に行う」というルールについての理解であり、メディアはそこをもっと周知すべきではないだろうか。

少なくとも、コース間違えが起こりそうな駅伝大会の前に、指導者や監督はこの陸上競技のルール(日本陸連競技規則における抗議と上訴)を理解して、もし運営のミスが発生した時には、陸上競技の正式なルールに従って対処していかなければならないだろう。

今回の件で残念だったのは、優勝した十日町高校が全国大会の出場を辞退すべき、という意見が僅かながらにあったことだ。

野球にしてもサッカーにしても陸上競技にしても審判や誘導係などは人間が行うものなので、誰しもがミスをすることはある。

今回はそういった運営のミスが起きてしまったわけであるが、陸上競技の正式なルールに従って30分以内に対象者の陣営から抗議がなかったので、競技が成立し、十日町高校が優勝高校となったことに何ら問題はない。

実際のロードレースで先頭を走っていて、誤誘導を受けて順位を落としたことがある私の経験上、中越高校側の主張に同情することはできる。しかし、既に正式に競技は成立しているので、後日の抗議では判定を覆すのは難しいというのが私の見解である。実際には新潟県高体連、全国高体連、日本陸連も同様の見解なのではないだろうか。

11月22日追記:スポーツライターの小林信也さんが新潟高体連の陸上責任者に電話取材した内容を以下の動画で話している。それによると「そもそも誘導の自転車はコースの安全確保のためであり、先導するために配置されていたのではない。コースは事前に公表されており、試走会も行われている」


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