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東京五輪マラソン全米選考会:男子はG. ラップが2連覇、女子はA. トゥリアムクが優勝

東京五輪マラソン全米選考会がアメリカのアトランタで行われ、男子はゲーレン・ラップ(Nike)が2:09:20で2連覇、女子はアリフィン・トゥリアムク(HOKA NAZ ELITE)が2:27:23で優勝した。

男子レース

男子はスタート後にL. プスケドラが、その後に2選手が集団から飛び出したがいずれもその後にペースを落とした。

先頭争いはラップが29kmあたりで仕掛けたが、A. マイヨ、M. マクドナルド、A. アブディラマンの3人がラップについていき、その後ろにL. コリルが追う展開となった。

22マイル(35.2km)でラップが先頭に立ち、マイヨが2位争いをリードしていたが、その後に2位集団に動きがみられた。22マイル時点で2位と22秒差の6位だったJ. ライリーが24マイル(38.4km)通過後に2位集団を捉え、そのままアブディラマンとの一騎打ちに。

ラップは終盤に余力を残して前回に続いて完勝での2連覇。2位争いはライリーが制して、3位のアブディラマンまでが全米代表となった。

ラップはこれで4度目の五輪出場の切符を手にした。前々回ロンドン五輪は10000mで銀、前回のリオ五輪は10000mとマラソンに出場し、マラソンで銅メダルを獲得した。

2位のライリーはノースポンサーの選手。2019年のシカゴマラソンでアメリカ人トップの成績を残した後にプロ契約の話があったが、そこで契約をしなかった(アマチュア選手はシューズの選択を自由できるというメリットがあるため)。

3位のアブディラマンはロンドン五輪以来の五輪出場となる(5回目の五輪出場)
。マスターズ選手の中長距離種目の五輪全米代表出場は前回の5000mのバーナード・ラガト、マラソンのメブ・ケフレジギに続いての快挙となった。

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女子レース

女子はアップダウンのあるコースとはいえ、前半からスローペースでレースは進んだ。

20マイル(32km)の時点ではまだ先頭集団は7人であったが、その後トゥリアムク、M. ザイデル、S. キピエゴが抜け出しそのまま3人の勝負に。終盤はトゥリアムクとセイデルの一騎打ちになったが、フォームを崩さず最後まで力強く走りきったトゥリアムクに軍配が上がった。

トゥリアムクはアリゾナ州・フラッグスタッフに拠点を置くプロチームのHOKA NAZ ELITEに所属し、マラソンのPBは2:26:50(2019年)。サッカニー契約のザイデルは初マラソン。2020年1月のヒューストンハーフでは1:09:35の自己新を出している。

キピエゴはケニア代表として2011年大邱世界選手権、2012年ロンドン五輪の10000mで連続銀メダル。2019年に米国籍を取得。マラソンPBは2:25:10(2019年)。

【男女上位10人】

東京五輪マラソン全米選考会:男女総合結果

タイムはどうか?

男子はラップがサブテンを出したが、今回のコースはどのようなコースだっただろうか。4周+αの周回コースで行われた今回のアトランタのコースはアップダウンが非常に多く、ボストンマラソンよりも獲得標高が高い。また、今日は風が強かったように見えた。

【周回コースで行われた全米選考会のアップダウン】

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(出典:ランナーズワールド・作成者:ショーン・ハートネット)

ボストンが下り基調であることを考えると、今回のアトランタは上った分だけ下るとはいえ、ボストンよりもタイムの出にくいコースといえる。よって、このコースでのサブテンは、当然フラットコースでのサブテンよりも価値がある。

男子2位のライリーはアップダウンの多いこのコースで価値ある自己新。もちろん、フラットコースでの換算だとゆうにサブテンの価値があるが、終盤に猛烈な追い上げを見せて逆転での2位と、タイム以上に強さを見せた。

女子優勝のトゥリアムク、3位のキピエゴはマラソンPBがどちらも2:25よりも遅く、女子2位のセイデルは初マラソン。しかし、アメリカの選手はシカゴを除けばタイムが出にくいボストンやニューヨークシティといった坂の多いWMMのレースを選択することが多いので自己記録は日本の選手よりも遅くなる傾向がある。

日本のレベルの高いマラソンは比較的フラットなコースで行われているので、そこで出された記録は当然速くなる。前回のリオ五輪でもそうだったように、マラソンのアメリカ勢は持ち記録以上の強さを持っていると考えて良い。

どちらかというと、今回のレースは優勝記録ではなく、優勝者の勝ち方や最後の余裕度を見る方が重要である。

ゲーレン・ラップは3大会連続のメダル獲得となるか?

ゲーレン・ラップは五輪で2大会連続でメダルを獲得しており、今回も優勝したように高いマラソン適性を改めて見せた。今回の優勝と前回との違いは、

① 長期の故障明けでマラソン初完走
② コーチが変わった

の2点。

特に手術までした故障からの復帰は想像以上に長い道のりだったことを考えると今回の優勝に賞賛を敬意を贈りたい。

調整レースでのハーフでは良い動きを見せていたラップだったが、ハーフマラソンとマラソンは別競技。2019年シカゴで途中棄権したことを考えると、故障からの復調具合が今回のポイントだったが、五輪に向けて目処がった。

しかし、1点気になったのはスパートを何度かかけたが1回で後続をひき離せなかったことである。彼の全盛期の2016、2017年あたりであればもっとスパートの精度が高かったように思う。このあたりの課題の克服が東京五輪でのメダル獲得のためのポイントとなるだろう。

それと、コーチが北アリゾナ大のマイク・スミスに変わったが、しっかりと結果を出した。ラップは現在はオレゴン州ポートランドでトレーニングをしているが、スミスコーチはアリゾナ州・フラッグスタッフに住んでいる。

しかも、スミスコーチは北アリゾナ大の室内地区大会の引率のために今回のアトランタのレースを現地観戦していない。リモートによる指導、コーチが現地でレースをみれないなど、ベタ付きだったサラザールの指導時代からの変化が今後どうなってくるかが見ものである。

HOKA NAZ ELITEのベン・ロザリオの指導力

今季の室内シーズンはBTCの女子選手の活躍が目立つが、今回の全米女子のマラソンで際立ったのが、HOKA NAZ ELITEの3人の女子の出場選手中、3人とも入賞したことである。

(左:8位のテイラー、中央:優勝のトゥリアムク、右:6位のブルース)

女子の1位、6位、8位と3人入賞させたHOKA NAZ ELITEコーチのベン・ロザリオは凄い(ロザリオは男子も指導しているが男子は入賞者なし)。ロザリオコーチはレース前、「3人ともに3位以内を狙えるほどの練習ができた」と語っているが、それでもこの3名入賞は、マラソンという「何が起こるかわからない競技」においては快挙といえるだろう。

シューズはどうだったか?

アルファフライのお披露目となったレースだったが、ネクスト%を選択する選手もチラホラ見受けられた。

男子の上位はナイキのシューズを履いた選手が独占したが、女子はトップ8でナイキのシューズを履いていたのは3位のキピエゴだけだった。

もともと全米女子トップレベルのマラソン選手は群雄割拠といえる状況であったが、アルファフライのポテンシャルを測るにはまだ時間がかかるかもしれない。

なお、各メーカーが新しいシューズをリリースしてきているが、女子優勝のトゥリアムク、6位と8位のHOKAの3選手がHOKAの新しいシューズ(春に発売の噂)を使用した。

HOKAはこのシューズを4月30日までに市販しないと、トゥリアムクはこのシューズを東京五輪で使用することができない。



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