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『大怪獣のあとしまつ』の後始末

話題騒然の映画『大怪獣のあとしまつ』を公開日初日、TOHOシネマズ日本橋21時25分の回で鑑賞。

遅い回ではあったが公開初日、またSNS等で話題だったこともあって、席は半分ほど埋まっていた。

ただ惜しむらくは、久しぶりに映画館でバターソースのかかったポップコーンでもしゃぶろうかと思っていたのだが、夜9時以降は飲食物の販売を休止しているとのことだった。

ざんねん。

ということで今回はお供抜きでの映画鑑賞となった。

まず、前提として私は『大怪獣のあとしまつ』の監督・三木聡作品のファンである(作品のファンであって、監督のファンではない)。

具体的には『亀は意外と速く泳ぐ』(2005年)のファンだ。中学生時にDVDで鑑賞。その日に監督のオーディオコメンタリーも含めて三度繰り返し観た記憶がある。

もちろん大傑作、手放しで誰にでも勧めることのできるような類の映画ではないことは充分承知しているが、それでも私にとって『亀は意外と速く泳ぐ』は今でも年に一度くらいは鑑賞するくらい、評価の高い映画であることは間違いない。

上野樹里の可愛さが全開の佳作

三木監督の前作『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」(2018年)に関しても、これはクソ映画と言われがちな映画ではあるが、私は公開初日に映画館で鑑賞。

確かに首を捻るような展開はあるものの、比較的好印象を抱いていた。

むしろ翌日、映画レビューサイト等でボロクソに叩かれているのを見て「え、そんなか?」と思ったものだ。

吉岡里帆とあいみょんの歌がいい

一方、いわゆる怪獣映画に関しては、正直な話あまり触れてきてはいない。

『ゴジラ』(1954年)や『モスラ』(1961年)、『シン・ゴジラ』(2016年)。ワーナーのモンスターヴァースシリーズ等は鑑賞しているが、その他の作品に関してはあまり知らない。

名作と名高い『平成ガメラ』シリーズも見たい見たいと思ってはいるけれども、まだ未見である。

そのため本作『大怪獣のあとしまつ』に細かい怪獣映画ネタなどがあったのだとしてもそれを拾うことはできていない。

このオダギリジョーはかっこいい

前提

世間ではこの映画は「令和のデビルマン」(≒最悪のクソ映画)と言われているが私はそれは違うと思う。

決して褒められた出来の映画ではないが、少なくとも「令和のデビルマン」と言われるほどのクソ映画ではない。

「デビルマン」(≒クソ映画)と一度でも言われた映画を、Twitter界隈では「叩いていいおもちゃ」のような扱いをすることが時々ある。

私もそういった流れに乗ってしまっているからこそこのような記事を書いているわけではあるけれども、(この作品に限らず)見てもいない作品を「叩いていいおもちゃ」のように扱うことには大変な違和感を持つ。

見てもいないのに「ああ見なくて正解」などと言っている人たちは心底下品だ。

完全な余談ではあるが私は(個人的に)大嫌いな細田守作品も、ちゃんと見てから叩いている。それが礼儀というものだ。

結論

私の評価で言えばこの作品は「佳作寄りの駄作」といったところだろうか。
オチに否定的な人が多くいるのもわかるし、何より「登場人物たちの描き込み方」に難があるというのは非常によくわかるが、物語の「構造」自体はしっかりしている作品だと感じた。

多くの怪獣映画に登場する怪獣が「災害」のメタファーのように、
この映画の「怪獣の死体処理」はそのものズバリで「災害のあと始末」に他ならない。

コ○ナ禍(noteの都合上伏字)の日本でこのテーマを選ぶこと自体にはそれなりの納得感があるし、面白い。

ただ描き方を工夫しさえすれば十分佳作になりうるだけのポテンシャルがあったのではないかと思う。

以下、詳しく良かった点と悪かった点を並べていきたいと思う。
(核心には触れないが多少のネタバレあり)

良かった点①「コンセプトそれ自体」

おそらくおおよその人間はこの「倒した後の怪獣の死体をどう処理するか」というこの映画のコンセプト自体には肯定的なのではないだろうか。

私も、この映画が公開される前に映画館前に貼ってあっとポスターを見て「わあ、よさそうな映画やんけ」と思ったものだ。

少なくとも、このコンセプトは「私のような怪獣映画にほとんど興味のない人間」にも興味関心を持たせることのできるくらいには「強力なコンセプト」だと思う。

良かった点②「役者陣」

これは明確に良かった点だ。少なくともこれだけで「令和のデビルマン」と呼ばれる筋合いはないと断言できる。

特にオダギリジョー嶋田久作はやっぱりスクリーン映えする雰囲気を出せるいい役者だなと再確認できた。

蓮舫役を演じる三木聡作品常連のふせえりも、この作品のトーンにあった「面白い」雰囲気を出せていたと感じる。

役者たちのレベル、努力に関しては数多あるクソ映画と比べるのはあまりにも失礼なほど上質だ。

余談:西田敏行はあまり体調がよろしくないという噂を聞いていたが、この映画を見てますます心配になった。体調に気をつけて長生きして欲しいと思う。

ただ、あえて役者陣の中でケチをつけるならば主演のジャニーズ俳優山田涼介と濱田岳に関しては私は「うーん微妙」という感想を抱いてしまった。

山田涼介に関しては少なくともスクリーンの真ん中でどんと主役を張れるようなタイプの役者ではないのではないかと感じた。

首相直属の軍隊のエリートにはやっぱりどうしても見えない。

ただ山田さんの別作品『暗殺教室』や『鋼の錬金術師』は見ていないので、それらの作品でいい役者感を出せていたのだとしたら、ただ本作のノリにあっていなかっただけの可能性もある。

濱田岳に関しても同様で、私は決して濱田岳のことは嫌いではないが、やっぱり釣りバカ日誌等のああいうドラマに向いている役者なのではないかと思う。もしくは映画だとしても『ゴールデンスランバー』(2010年)で演じたサイコパス系のような尖った役の方が向いていると感じる。少なくとも軍人や政治家には見えない。

土屋太鳳ちゃんに関しては「悪くはない……けど」くらいの微妙な感じを受けた。監督は過去、映画の面白さは置いておいたとしても上野樹里と吉岡里帆を可愛く魅せることには成功していたのに、なんかこの作品の土屋太鳳ちゃんは可愛くない。

というようなケチをつけてみたものの演技自体には問題はない。

問題があるとしたらキャスティングした側の問題である。

多くの人が言っているように登場人物の数は絞っても良かったな、という意見に関しては完全に同意する。

良かった点③「怪獣(の死体)の見た目」

これも指摘している人が多かったが怪獣それ自体の見た目は非常に頑張っていた。物語冒頭から怪獣は死んでしまっているため、死体としてでしか出てこない怪獣ではあるが、大きさや怖さ、死体としてのグロテスクな感じは非常に出ていた。
物語中で段々と腐敗が進んでいく死体の臭そうな感じは中々ではないかと思う。

ただこれも人(演者)が死体の上に乗っているシーンでは、なんだか作り物感がしてしまっている、のも否定はできない。

良かった点④「ジャンルの軌道」

いわゆるジャンル映画としての軌道はしっかり辿れていたように思う。
ここでいうジャンルとは「怪獣映画」ではなく「パニック映画」のものだ。

「パニック映画」が「タイムリミットのある課題をなんとかして解決する」という軌道を辿るなら、
この映画は「怪獣の死体を早くなんとかしないと腐敗し大変なことになるから処理する」というほぼ同じ軌道を描いていると言える。

そのため話の本筋があちこちにいくことは基本的になく(ただ登場人物の多さから話がブレている・停滞している場面はある)物語が前に進んでいくだけの力はあった。

ここがしっかりしていないと「誰が何のために何を今してるんだっけ?」ということになりやすいがそれはなかった。

ただ主役たちに感情移入ができないため頭では理解できても、感情面でついていけないということがあるのは否定しない。

以下、悪かった点。

悪かった点①「予告でシン・ウルトラマンが流れてる」

これはダメですね。

冒頭すごい怪獣が暴れるシーンがあって、「うお、すげえじゃん頑張ってるじゃん」と思ったら、本編じゃなくてシン・ウルトラマンの予告だった。

映画本編がこれに負けないくらい怪獣が動的に動くシーンがあってくれればまあ良かったのかもしれないけれど、それはまあ、冒頭から死体の時点であり得ないので、上げて落とされる感じになってしまった。

怪獣ものには興味はないけど、シン・ウルトラマンは絶対見にいきます。楽しみ。

ウルトラマンはガイア世代です

悪かった点②「設定が日和っている」

Twitter等で「韓国らしき隣国を出しているのにそれが架空の国でそういう中途半端なところは良くない」のような感想が散見された。

これは半分間違いだ。

少なくとも私が見、聞き漏らしていない限りにおいてはこの映画、舞台は日本でない。この映画には一個も日章旗は出てこないし、自分たちの国を「日本」とは明言していない。

アメリカらしき国旗が出てくる場面でも、星条旗には星はなかったように見えたし、「大統領からの電話です」というセリフはあるもののアメリカとは明言されていなかった(私の見落としの可能性もある)

だから韓国が韓国として出てこないのも当然なのだ。日本が日本でない以上、隣国も韓国ではないのだから。

そもそもこの映画に出てくる軍隊も自衛隊ではなく何やら架空の「国防軍」と「特務隊」とやらである。その上、何だか徴兵制らしきものも存在するらしい。
現代日本では全くない。

ちなみにこの国防軍。デモ隊を棒でバチクソに殴るし、銃は突きつけるしでやりたい放題。

その上、特務隊上がりの兵隊は何だか数年で首相の右腕にはなるわ環境大臣の秘書官にはなるわでどういう御身分なんだと頭にハテナが浮かぶ。

別にこういう架空の設定が全く悪いとは思わないのだが、隣国との関係、政治と軍隊の関係などを描く、あるいはシンゴジラ的な政治劇を描きたいとなったのならばなるべく現実に則した政治機構や軍隊の仕組みにすべきではないだろうか。

これは個人的には大きなマイナスポイントだ。

逆に言えば監督自身はこの映画で別にシンゴジラ的なことをやるつもりははなからなかったのではとも言える。

出資者から金を集めるためにシンゴジラ的な要素を押し出しただけで本当にやりたいことはそこではなくいつもの不条理チックなコメディだというのならこの「日和」具合も納得する。

悪かった点③「セリフとギャグ」

これがこの映画最大の問題点。

ワナビ未満の私に言われたくはないと思うが「セリフが致命的にセンスない」。
くだらないギャグが鼻につく。

「石鹸は陰毛で擦るとめっちゃ泡立つ」みたいな下ネタとも言えない寒いセリフがストーリーの進行には全く貢献しない形で飛び交うのだ。これはキツイ。

確かに私の大好きな『亀は意外と速く泳ぐ』にもこの手のセリフはあったが(その上、今やったら絶対に叩かれるような安易なナチスギャグもある)あの映画は何にか大きな課題を解決するような類の映画ではないから気にならなかった。

しかし、本作は「死体を処理する」映画なのだ。大きな課題が目の前に提示されているのにも関わらず、それとは関係ない、しかもとてもツマラナイギャグを連発されるのは物語とともに観客が前へ進んでいく気持ちを大いに削いでしまうのではないだろうか。

キノコと男性器をかけたギャグ展開も、まあ、ありきたりと言えばありきたりだし、それがその後の物語に生かされることもないし、必要性は全く内容に感じた。
多少ネタバレになるがあのキノコが終盤とてつもない事態を引き起こすことになるのならば、あってもいい、かもしれないけれどそんなこともなかった。

映画全体が安っぽい吉本新喜劇のパチモノみたいな雰囲気に成り下がってしまった。

特に問題なのはそのクソほどセンスのないギャグが特定の誰かのセリフのみにあるのではなく、この映画に出てくる全ての人間が一様にツマラナイ、センスのない、ギャグっぽいセリフを発するのだ。

つまり、全員が全員、ふざけてるようにしか見えないのだ。

ふざけるのは岩松了(国防長官役)やふせえり(環境大臣役)のみに絞って西田敏行や土屋太鳳ちゃんにはそういったふざけたセリフ・ギャグをさせない方が良かったのではないかと強く思う。

どちらとも言えない点「オチ」

オチが許せないという声が大変多く聞こえる。
それは分かる。
確かに怒る人が出るのは分かる終わり方だ

しかし、それはこの映画を「怪獣映画」だと思って見続けた場合に起きる怒りではないかと思う。

少なくともこの映画を二時間見続けて、この映画は「そういう映画じゃない」ということを受け入れることができるのならば、このオチも許せると私は個人的には思う。

ネタバレをしないようにいうのは大変に難しいがこの映画は最後、「怪獣の死体を処理する」という課題の解決をとんでもない力技で解決することになる。

総評

この映画は決して「令和のデビルマン」ではない。

確かに「ツマラナイ」映画ではある。が、繰り返しだがこれよりひどい映画は邦画、洋画問わずたくさんある。

最近の作品でいえば先日テレビ放送もした『新解釈・三國志』などはこれよりも数段下だと個人的には思う。

ただ本作は『怪獣映画』的な側面を宣伝の段階で前に出してしまったがために、公開初日の朝から見にいくような熱心な怪獣映画ファンから「コレじゃない」というような指摘を受けてしまったのではなかろうか。

これが「怪獣映画」という固定ファンの多いジャンルでなければこれほどまでに炎上することはなかったはずだ。

個人的には10点中3点くらいの出来。これくらいの駄作はたくさんあるし、もっと吐き気がするような作品もゴロゴロある。

「令和のデビルマン」この映画を叩いている人は、あまりに熱心な怪獣映画ジャンキーか、普段大作以外を見ずに「邦画って全部こんなんだろ」と印象論で語っているかのどちらかだ。

決してオススメはしないがサイテーのクソ映画ではないということは強調したい。

あーあ、シン・ウルトラマンが楽しみだなあ!!

余談

同監督の『亀は意外と速く泳ぐ』は本当にオススメする。

個人的には大好きな映画。

まだ十七歳だった上野樹里の魅力が爆発している映画だ。

今作のような嫌味は全くないので安心して見られると思う。

是非、


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