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Everything,everywhere,all at once

というタイトルの映画を観た。2023年のアカデミー賞で話題になっていたようで、私はそれをレンタルで観た後に知った。エンディング曲を歌っているMitskiさんという歌手が好きで、何回も聴いているうちにジャケット画像を見て「あ、これ映画の主題歌なんだ」と思ったのがきっかけで視聴。また逆パターンで、Mitski(以下敬称略)にハマる前に観た『パーティで女の子に話しかけるには』という映画が結構好きで、サントラを聴いていて後からエンディング曲がMitskiであることに気付いた。どちらもちょっとしたSFで、SF映画に起用されがちなのかしら。結果的にどちらも好きな映画で、「これはもしや、主題歌をMitskiが歌っている映画は全部(個人的に)当たり映画なのでは?!」と思い、その法則で『アフター・ヤン』という映画も観たが、これもまたちょっとしたSFで好きな映画だった。それぞれ全く違ったベクトルで好きな作品なのだが、今回は『Everything,everywhere,all at once』を観て考えたことについての話。途中から就活の話になります。日本ではエブエブと呼ばれているそうで、長いので私もそう呼ばせて頂こう。

主人公は中国からアメリカに移住して家族と暮らしているごく普通の主婦、エヴリン。温厚な夫とコインランドリーを営んでおり、年頃の娘と最近中国から迎えた堅物の父を交えながら忙しい日々を過ごしている。

物語の始まりは確定申告の再提出からはじまる。エヴリンは大量の書類を前に頭を抱え、ここがまた自営業には共感できるポイント。

エヴリンは平凡な主婦だけど、今までありとあらゆることを諦め挫折してきた人生。税務署に向かう最中、いつもとは違う機敏な動きの夫に謎のヘッドセットを装着され「世界を救えるのは君しかいない」と突然任務を任されることになる。

人生はほんの小さな選択で未来が変わる。機敏な夫は並行世界の違う未来の夫であり、その世界のエヴリンは「違う選択をした並行世界の自分と同期するシステム」を開発した天才科学者だという。ありとあらゆる並行世界にジャンプし強大なブラックホール(のようなもの)を生み出したジョブ・トゥバキによって世界は破滅寸前まで追い詰められており、それを救えるのは…何故エヴリンだけなのか?混乱のなかで徐々に解明されていくというストーリー。

このストーリーで主人公が最強なのは、「全てを諦めてきたから」であり、諦めた物事の数だけ「諦めなかった自分」という並行世界の自分が存在する。特殊なヘッドセットを付けて、とある「キッカケとなる行動」すれば並行世界で様々なプロフェッショナルとなった自分とリンク出来るのだ。気になった方は観てみてね。

そこで考えるのはやっぱり、「並行世界の自分」。
高円寺で着物屋さんをやっている私は自分でいうのもなんだけどかなり「並行世界の私」っぽい。小学校の卒業文集でもお店屋さんをやりたいと書いていた私は何だかんだ夢を叶えているが、就活では失敗している。四年制大学の服飾学科を卒業し当時はデザイナーを目指していたが、3年生の時就活を始めて一番最初の面接は圧迫面接、「もう働きたくないよおぉ社会に出たくないいい」なんて帰ってから大学の研究室で号泣。なんと情けないことか。

圧迫面接だったけど、感触が悪かったわけではない。当時自分が好きで憧れていたブランドで、デザイン画を送ってみたら最初の面接で目の前に座っていたのは社長とデザイナーさん。いきなりすぎる展開だ。「あなたがデザインしたこの服を自分で制作するとしたら、どれくらいの期間がかかりますか?」という質問に対して、紙面にデザインするのは得意でも実際の制作やパターン製作がデー嫌いだった私は「いっ…1ヶ月ぐらい…ですかね…」としどろもどろに答えた。すると社長さんは「仮に月20万のお給料をあなたに払うとして、月に一着では赤字になってしまいます。デザイナーは、全ての社員の給料を担う重い存在です。次はもっとリアルに作れるような服をデザインしてまた持ってきて下さい」と言われた。ど正論である。これ、文字に起こしたら圧迫面接というかただ正論を言われただけである。しかもまたデザイン画を持ってきてくださいとチャンスもくれた。しかし当時の私はぬるま湯で生きていた女子大生で、そんな正論で完膚なきまでに打ちのめされてしまった。大学三年生の私に「全社員の給料担います!任せてつかあさいッ!」とハッタリでも言える根性があったら、違う未来があったかも知れない。ちなみにそのブランドはもうなくなってしまった。

それから4年生の夏になっても就職先は決まらず、宙ぶらりんだった。
そもそも、就活を始める時リクルートスーツを着て前髪をピチッと七三にまとめて証明写真を撮りに行ったら、家を出た瞬間に雹が降ってきた。あの時から「私、スーツで働く感じじゃないのかも…」と薄々感じてはいたのだ。

同級生の就職先が徐々に決まりはじめ、焦りながらうだる暑さの中進路指導室の前を通ったら、某有名下着メーカー新卒デザイナー枠の学校推薦募集の貼り紙を発見する。フリルやレースなど細かいディテールをデザインするのも好きだったので「洋服じゃなくて下着ってのもありかー」と応募を決意する。その時、偶々前を通った友人がいた。「久しぶりー、就活どう?」「全然だよーそっちは?」なんて会話の後、「私この推薦受けようと思ってるんだよね〜、◯◯ちゃんも一緒に受けようよw」なんて軽いノリで誘った。

本来なら学校推薦で通るのは一名という決まりだったが、進路指導の担当が決めかねたらしく「今年は異例だけど2人推薦に出すね!」ということになり、私とその友人が大学を代表して面接を受けることになった。その時、進路指導からはどちらかというと私のほうが期待されているような感触で、友人はいつも「あなた大丈夫なの?!」と言われていた。一次は通ったが、二次試験であっさりお祈りメールを送られた私はまた失意の中就職先を探していた。ある日、進路指導から電話がかかってきたので取ると、「あなた、ちゃんと準備してる?!大丈夫なの?!新幹線とか…」と言われ、「何のことですか…?」と言うと「あっ!ごめん間違い電話だった!」とのこと。その時、察してしまった。その会社の本社は京都にあったので、最終面接は新幹線で行かなければならなかった。あの時軽い気持ちで誘った友人は、最終面接まで行ったのだ。それから違う友人づてに彼女が最終面接も突破し採用されたことを知った。「受かったら、京都で1人暮らしかー!」なんて想像していたが、それは彼女の人生の行く先となった。落ちたのは私の力不足だと思うけど、あの時、友達を誘っていなかったら京都の超大手企業でバリバリ働いていたかも知れない。

そんな分岐点は何度も何度も現れては消えていった。某有名ロリータブランドにデザイン画を送ったら留守電が入っていて、「また電話します」と言っていたので折り返し掛けなかったらそれから連絡が来ることはなかった。あの時、折り返し電話をかけていたら、下妻物語よろしくフリルたっぷりのロリータ服に身を包んで仕事をしていたかもしれない。

某ファンシー雑貨ブランドにデザイン画を送ったら面接が決まり、「何百人応募が来たけど最終まで残ったのはあなたと数人だけですよ」なんて思わせぶりなことも言われ、「かわいいと思うけどね〜」と少女趣味のブランドのわりにやくみつるみたいな風貌の代表がポートフォリオをパラパラ眺めながら「もうちょっと作品送ってくれない?」と言うので追加で作成し急いで送った結果、結局お祈りメールを送られた。(やくさんをディスる意図は全くございません)

冬になって、全く違う業種で契約社員としてなんとか採用が決まった。「まあまあまあ、一年継続したら正社員になりますから」と総務から言われていたが、とんでもないブラック企業で皆一年を待たずに離職していて当時在籍していた1番長い先輩で入社して9ヶ月目だった。その時の話はあまりに長くなってしまうので割愛するが、毎日怒鳴られていたら電車に乗るだけで過呼吸を起こしてしまい新卒で入社した会社を結局3ヶ月で退社してしまった。

でもその時一緒に働いていた先輩とは今でも仲良くさせてもらっていて、今の仕事でも関わりがあるので必要な縁だったと思うし、その会社の上司がモンスターだったのでその後出会うどんな人間もその人よりはマシと色々なことを乗り越えることができた。その会社で働き続けた未来もあったと思うし、逆にこの地獄を経験していなかったらその後入った古着屋もすぐ辞めてしまっていたかも知れない。

思いつくだけで人生の分岐点などいくらでも出てくるし、全く意識していない些細な選択が現在の自分に至るまでの行く先を知らず知らず決定していることもあるだろう。最近、「あ、あの小さな行動がなければこの出会いはなかったな」と後になって思うことが多々ある。閉店後の帰り道で偶々やっていた面白そうなポップアップをのぞいたら、後々自分の仕事に繋がる知り合いになったり。高校卒業以来10年以上会っていなかった友達のライブに行ったらその後遊ぶようになって、その繋がりでもっと古い友人と奇跡的に再会したり。

考えうる「良さそうな道」を全部「yes」で進むことが出来たらそれは立派なことかも知れないが、その結果が最高とは限らない。「休む」とか「サボる」とか、「no」の方で選んだ道にラッキーなことがあるってこともあるかもしれない。映画エブエブの中で、黒幕のジョブ・トゥバキがありとあらゆる並行世界の自分の人生を経験し「全ては広大な宇宙の可能性のうちの一つ」と悟っている。結局そうなのだ。だからあまり考え過ぎず、自然にしたらいいのかも。この世界線の私は、そんなことを考えている。


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