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【地球温暖化】牛のメタンを減らす3-ニトロオキシプロパノール(3-NOP)について解説

牛肉の環境負荷について

以前別の記事1) で触れましたが肉類は環境負荷が大きいです。一番のポイントは1kgの肉を得るのに多量の穀物(主にコーンと大豆かす)が必要であることです。その数は鶏肉で2kg、豚肉で4kg、牛肉で6kgと言われています。食料生産にはもともと自然だった土地、限りある水、再生しない化石資源が使われます。我々がコーンや大豆かすを直接食べればこれらを大幅に節約できますが、肉を食べるとこれらを多く使うことになり環境に優しくはありません。

また、牛や羊などの反芻動物(野生の時に草を主食とする動物)は固い草の食物繊維(セルロース)を分解するために、反芻という特殊な消化をします。反芻とはまず草を口で咀嚼し、胃に送って部分的に消化した後、再び口に戻して咀嚼するを繰り返すことで食物を消化することです。食物繊維は非常に分解しにくいのでこのような行動をとります。加えて分解しにくい食物繊維を分解するために消化器官が強力な発酵タンクのような働きをしています。この発酵タンクでは様々な発酵が起きてでんぷんや食物繊維の一部がメタンになります。胃で発生したメタンは牛のげっぷやおならとなって出てきます。次節で触れますが、メタンは温室効果ガスとなり地球の温暖化に寄与しています。今日はこのメタンとそれに対応する最新の技術についてお話します。

メタンの環境負荷について

地球温暖化が話題ですが、我々の経済活動でどのような温室効果ガスが排出されていて、それぞれの寄与はどのくらいでしょうか。下図は人為起源の温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別の割合(2010年の二酸化炭素換算量での数値: IPCC第5次評価報告書より作図)2) になります。

ガスの種類別の割合

これをみるとメタンは二酸化炭素に次いで大きな温室効果ガスとなっております。メタンの排出量は二酸化炭素に比べると多くはないですが、同じ量でも二酸化炭素の数十倍の温室効果を持つといわれているためです。

ではメタンはどこから出てくるのでしょうか。すぐ活かせる環境情報3) よると世界の分野別メタン発生源は以下のグラフになります。

画像2

なんと発生するメタンの1/4が牛(や羊)のげっぷ(やおなら)由来となっております。残念なことに現在の地球では反芻動物の殆どが野生ではなく畜産です。このため、メタンの主な排出源は畜産ということになります。

先の温室効果ガスと併せて考えると、地球で排出される温室効果ガスの約4%が牛(や羊)のげっぷに由来していることになります。バカにならないというよりは、恐ろしさを覚える量ですよね、牛のげっぷ。

3-ニトロオキシプロパノール(3-NOP)

このような状況に対して世界中の研究者が色々な対策を考えています。今日ご紹介するのはメタンを減らす薬についてです。

オランダの化学企業であるDSMという会社はメタンを減らす飼料添加物を開発してBovaer®として商標登録しています。各国で特許を出願したり商標登録をしており、今後力を入れて販売していく姿勢が読み取れます。DSMのリリースによると「Bovaer®は、DSMが10年以上の年月を費やして研究、開発した、乳牛などの養牛、羊、ヤギなどの反芻動物向けの飼料添加物です。牛1頭1日あたり、わずか小さじ1/4杯のBovaer®を与えるだけで、腸内メタンの排出量を約30%削減できます。」とのことです。各国で販売するには日本の農林水産省に該当する機関に飼料添加物あるいは飼料として登録をする必要があるので実際に使われるのはもう少し先になると思いますが、有力なメタン対策となると考えられます。

Bovaer®の中身は分かりませんが、DSMは各国で特許を出願しているので中身を推測することができます。畜産のマーケットが大きくない日本でも出願してくれていますので日本語で彼らの特許を読むことができます。かなり難解でしたが・・。

特許によると3-ニトロオキシプロパノールという化学物質を使っていると推定されいます。3-ニトロオキシプロパノールは菌の中でメタン生成を阻害すると言われており、この効果で牛から発生するメタンが減少していると考えられます。

おわりに

畜産は環境負荷が高いので肉を食べないというのも選択肢ですが、良く調べると畜産の環境負荷を下げる研究開発も多くあります。科学技術の進歩、特にバイオテクノロジーの分野の進歩は目を見張るものがありますので畜産の環境負荷は今後下がっていくと思います。

培養肉のような畜産を避けことを目指す研究と畜産の環境負荷を下げる研究の両方が発展し、互いに競い合うことで我々の経済活動の環境負荷は下がっていくと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

1) 

2) 気象庁https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html

3) https://sugu-kan.com/world_source_of_methane


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