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ブックストアデイズ ー本がたくさん売れていたあの頃ー

自分で言うのも何だが、私は一番いい時代に書店員になれた。1980年代の後半はバブル経済まっさかり。それでも時給はその頃の最低賃金だったが、とにかく忙しかった。いや、それから30年以上も経った今も書店員は、忙しい。もしかしたら、昔よりも忙しくなったかもしれない。

本が売れないということは、返品も多いと言うことで、たくさん入荷して、それがバンバン売れれば、返品するものも少なく補充も楽、それにやれ雑貨だの文具だの流通や仕入れ形態が違うものが混じると手間がかかる。返品も昔はフリーの委託販売が多かったのか、返品交渉をするというのもあまりしなかったような気がする。

先日、ある記事を読んだ。どうも本屋さんの雲行きがあやしくなってきたのは、1996年くらいからだという。確かに。あれから、どんどん時代は変わり、どんどん本屋さんがなくなり、本を読む人が減った。

SNSなどで読書垢を開いてくださる人達がいらっしゃることは、とても心強い。で、まだまだ本を読む人がいるじゃんなどと安心していると、とんでもないかもしれない。バブルの頃、SNSがあればどれだけの人がSNSの読書垢にくらいついたか。そして、今、本を語る人が、どこから本を調達してくるのか。電子かもしれないし、ネットかもしれない。新古書店かもしれない。ネットで本を探すと、必ず中古品の紹介も出てくるので、送料を含めてもこっちで購入したほうが早いし、店に行く手間もはぶけるかなと自分でも思うことがある。そうだ、そういえば、本屋にきたはいいが、よくメモだけして帰るお客はんが多かったこともうなづける。正直な方は、「ネットで買うから。」とはっきり告げる。だよな。卵やキャベツの価格ではないが、1円でも安い方がいいよな。庶民の懐具合は、今、だいたいそんなものだ。

バブルの頃は、ネットなどなかったので、スリップをかき集めて、でも、一日中レジにいるので、家に帰ってからよなよな半券(スリップの半分が簡易注文書で、半分が報償券になっていた)を切り、今じゃあ、サビ残だのなんだの、Rから怒られるだろう業務をやっていた。そして、次の日、番線を押して注文箱へ。紙袋いっぱいのスリップを持って帰るその姿は、今の自分なら、ちょっと待ってよだけど、あの頃は仕事やっている感満載で楽しかった。注文書というのも別にあり、手書きで書名とか出版社とか入れるのですよね。それも楽しかった。だから、あの頃は棚にあるすべての本が何なのか、本当に自分でもよく覚えていたなあと思う。

あまり売れていたので、まるでそれが自分の手柄とか才能のような気がして、私ってすごいじゃんとなっていたのかもしれない。そんな時、先輩社員から、「書店員なんて、何も生み出さないし、こうして新聞やテレビがどんどん紹介してくれるのにのっかって商売しているだけだから、ちっぽけな存在だよ。」という言葉をいただいた。その後、カリスマ書店員などという言葉も生まれたけれど、あれはいったい何だったのだろう。

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