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異邦人としての居場所を探る— 「地球星人は空想する」

大学時代の同期である松本佳樹君による長編監督作品。同じく大学時代の同期である北林佑基君や常川千秋君など、懐かしい名前もクレジットされており、作品全体が私をひっくり返してくれるような傑作だった。これほど嬉しいことはない。
ここではあらすじや人物紹介を避け、作品の雰囲気や私の初見を中心に述べようと思う。

まず、タイトルが読めなかったことを告白したい。字面から「ちきゅうせいじん」と読んでしまい、助監督である北林君から「"エイリアン"ですよ」と訂正され赤面した。しかし、「地球星人」を「エイリアン」と読ませる意図は映画を観るうちに納得できた。このタイトルから、異邦人としての孤独や居場所のなさ、文化的な衝突といったテーマが強く伝わってくる。未見の方はぜひ観てほしい。

本編は、ポスターや予告編以上に、現代社会を生きいくなかでひしひしと感じてくる生々しさを感じさせ、敢えて云えば挑戦的な演出が際立っているように感じる。実在の都市と架空の設定が混在し、あえてきれいな音楽を歪ませながら耳に届ける音響、あえてノイジーにした画面構成は、人物の顔や台詞に自然と注目させるよう巧妙に設計されていて、観る者を物語に没入させることに成功している。

一見複雑に見えかねない内容を、交通整理された脚本にによるしっかりとした土台を元に、ともすれば露悪的に見えかねない部分を編集技術等を利用して上手く処理している。映画の流れる時間に身を任せていれば、話が理解できるように構成されている点には、同じ脚本家として感心させられたものだ。

作品の物販、松本佳樹監督の所属する世田谷センスマンズのグッズやSNS展開を見込んだ戦略も見事で、作品にハマった人をしっかりファンにさせる施策が盛り込まれている。


今の時代、商業的な部分でなく、自主制作やインディーズで自身の名前を出しながら作品を発表するというのは栄誉とリスクがある。私も「STEEL ANGIE」という作品で脚本家としてクレジットされた時に感じた、その作品に対する責任感というのは、案外悪いものではなかった。

だからこそ、脚本家や監督は、作品がうまくいけば注目され、失敗すれば痛罵されてしまう存在なのだ。そこにある種のマゾヒスティックな喜びを見出せないと、少なくとも作品を作り続けるのは難しいかもしれない。

大学時代の同期ではあるけれど、筆者と松本監督を含む世田谷センスマンズの方々とは机を並べて同じ時間を過ごす時間はほとんどなかったと記憶しているが、それでも在学中から漏れ伝わっていた彼らの試みやフィーリングには、大いに親しみと影響を受けてきたと今になって感じている。


映画の所見に戻ると、私が映画を見る前からイメージしていた曲はStingの"Englishman in New York"だ。この中で"Alien"という単語が出てくるが、イギリス人からすればアメリカのニューヨークは文化圏の違う異星に思えたのだろう。どれだけ姿形が似通っていても、同じ"人間"という括りに入れられても、どうしようもなく、そこを"ホーム"にできない。異邦人と言われれば聞こえは良いが、要は居場所がない人のことだ。これは「地球星人は空想する」を通して綴られるテーマの一つだろう。

その上で、異文化と因習めいたオカルティックな雰囲気の中で展開する物語は、松本監督のユーモア感覚と理知的な部分が融合した結果、緊張感が漲るドラマとして、非の打ち所がない作品として結実している。

キャラクターたちが異邦人としての居場所のなさに直面し、その中で自身のアイデンティティを模索する姿は、観る人に、共感を呼ぶと同時に考えさせる余地があるだろう。

自主制作映画としての作品の完成度としては成功例であり、そのクオリティとブランディングの巧みさは正直驚異的で、SNS展開やイースターエッグの仕込みなど、観客をリピーターにする施策も巧妙、無論今後の展開次第によるだろうが、インディーズ映画の一つの雛形として、充分記憶にも記録にも残る作品だと言っていい。

松本佳樹監督の「地球星人は空想する」は、地球星人(Alien)として、異邦人としての孤独や居場所のなさをテーマに、ユーモアと理知的な演出が融合した独特の作品立だ。これからの松本監督の活躍に大いに期待するとともに、この作品をぜひ多くの人に観てほしいと願う。

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