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しゃべりにくさ

僕は今から十数年前、声帯ポリープが出来て手術をしたことがある。
声を使う人がよくなる疾患で、歌手がポリープになって、摘出手術をしたなんてたまに聞くと思う。
当時ボイストレーナーの仕事をしていて、毎日歌の指導をしていた。
どうしても、自分が歌って見せる場面があって、レッスンを重ねていく中で声を酷使しすぎた。
本来、ポリープにならないように指導するはずが、自分がなってしまっては指導者失格・・・。

これを機に手術をして、自分の発声も見直し、それ以降は声の不調は無い。

声帯ポリープは声帯という薄い膜にイボみたいな硬い部分が出来るので、声帯が振動しにくくなり、非常に喋りにくい。
いちいち発話するのにも、パワーがいった。フワッと喋れない。
ポリープが出来始めてからは、そういう症状が長くあった。
ポリープは元々は声帯の小さな炎症、それが少しずつ瘡蓋のような状態になり硬くなっていく。
徐々に変化するから、気付きにくいけど、えいやっ!とたくさんの息を使わないと、喋りにくいのだ。

そして、手術をした。全身麻酔をされているうちに、その小さなイボは切り取られた。
その後一週間は発声禁止。そして、久しぶりに声を出した時は新鮮だった。

あっ声帯を震わせている!

普段は無意識だった、声帯の振動をリアルに感じた。

それから、随分時は経ったので、もうその感覚も忘れてきたけど、時々思い出してみる。

声を出す感覚。

正常な状態になった今、改めて声を出すことを感じてみると、やっぱりちょっとパワーがいる。
息をするように自然には声が出ない。これは僕の元々の性質だったんだと思う。声を出しやすいか、出しにくいかで言えば、出しにくいタイプ。

そう思って、周りの人をみると、流れるように、自然にナチュラルに声を出せる人がいる。ペラペラと。

そういう人と根本的に違ったんだと思う。

割と小さい頃からの教育現場でも、喋ったり、発表することは重視される。そこで喋れないのは、考えていないか、引っ込み思案か、緊張する、とかそういう風に思われることが多い。
だから、小さいうちは喋れないのは性格の問題と考えられがちだ。
人前であがったのねとか、練習しましょうとか、そういう指導をされる。

でも、自分の発声の感覚から言えることは

単純に機能的に声の出しやすさ、出しにくさって個人個人違うと思う。

声を出しやすい人は、声で伝えればいい。
声を出しにくい人は、文字で書いてもいい。
文字が書きにくい人は絵で書いてもいい。
絵が書きにくい人は、数式やプログラムを書いてもいい。
数式が苦手な人は笑顔で伝えてもいい。
笑顔が苦手な人は踊りで伝えてもいい。
踊りが苦手な人は音楽で伝えてもいい。
音楽が苦手な人は・・・
こうして、表現の方法は無限にあると思う。

もちろん、しゃべることは大事だし、日常で最も多く使うコミュニケーション。でも、絶対的なものではない。

自分のしゃべりにくさを気にしないで、別の表現方法を模索する。

日々黙々、文章を書きながら、そんなこと思ったのでした。