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インタビューvol.1/川鍋達さん

こんにちは、すさきのすづくり編集部の間嶋です。
須崎市では現在、新しい図書館等複合施設の整備を進めています。須崎らしく魅力的な場づくりを模索するためのインタビューシリーズをはじめます。聞き手の私(間嶋)は図書館づくりに関わるのが初めてで、須崎のこともあまり詳しくありません。そこで、須崎のまちをよく知る人・プロジェクトに関わる人にお話を聞きにいくことにしました。

インタビュー第1号は、すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸の館長、川鍋達さんです。すさきまちかどギャラリーは、アートギャラリーとして様々な企画展を行いながら、地域のコミュニティスペースとしても親しまれている場所です。また、毎年アーティストが滞在制作をして、地域での交流から新たな須崎の魅力を探るプロジェクト「現代地方譚」の舞台にもなっています。そんな須崎の文化交流施設の先輩にお話を伺いました。

取材日:2024年6月13日

写真:通りの角に立つ古民家。立派な軒と漆喰の建築です。ギャラリーの前にはフライヤーを貼った立て看板が並んでいます。
黒塗りの壁が印象的な すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸

生活のそばにコミュニケーションが残るまち

── まちかどギャラリーと川鍋さんとの出会いについて教えてください。

すさきまちかどギャラリーの建物は、もともとは三浦家という商家の店舗と住居でした。須崎の人にとって三浦家はまちの名士で、この建物自体がまちのシンボル的な場所です。そんな旧三浦邸を市街地活性化の拠点として活かすミッションで、初めて入った地域おこし協力隊が僕だったんです。まちかどギャラリーでの活動は、美術をやっていた自分の経験や興味を活かせそうだと思い応募しました。

── それ以前に須崎との関わりはあったのですか?

いえ、関わりは全くありませんでした。知り合いも全然いなかったのですが、結構みんな気さくに話しかけてくれましたね。この場所に地域おこし協力隊の人が来た!ということで、あたたかく迎えてもらいました。

僕はドイツに住んでいたことがあって、須崎はそこでの暮らしのような、人とのコミュニケーションが残っている感じがあります。買い物でレジをしている間に世間話をしたり、道で会った知らない人同士でも挨拶してくれたり。

須崎に来る前は千葉に住んでいましたが、仕事や買い物とか遊びとか、何をするにも東京に出て行って、千葉には帰って寝るだけ。周りに住んでいる人とのコミュニケーションもほとんどありませんでした。震災後に自分の住む場所を考えたときに、生活がちゃんと近くにある場所へ行きたいと思いました。

写真:すさきまちかどギャラリー 旧三浦邸のロゴが入った黒塗りの壁。

アートを通して生まれる交流

── まちかどギャラリーはどんなかたが利用していますか?

須崎市内だけでなく市外・県外からも、この歴史的な雰囲気の中で何かをやりたいという方に利用してもらっています。この夏に展覧会を企画しているアートコレクターさんもその一人。展示を見に来たときにこの空間を気に入って、「自分の持っている作品をここで公開したい。いろんな人と作品を観ながら交流したい」と、毎年コレクション展を開催してくれています。

展示されるのは、ぱっと見ただけじゃ作品かどうかすらわからない現代アートや映像なのですが、それぞれの作品について思い入れのあるコレクターさんが来場者に語ってくれるんです。それを聞くと、「こういう見方をするのか」と全く違って見える面白さがあります。

── 自分たちのまちの中で、普段の生活の近くでアートに親しむ体験ができるのは素敵ですね。

写真:台の上に並んだ冊子に触れる手。
現代地方譚の様子を記録した冊子を毎回発行しています

── 現代地方譚はどのように始まったのでしょう?

着任してすぐの頃、須崎へ来た観光客の滞在時間を伸ばす提案をしてください、という観光庁の事業がありました。そこで、まちかどギャラリーで働いていた佐々木かおりさんと、須崎市出身のアーティスト竹崎和征さんという情熱のある2人と出会ったのが大きかったですね。佐々木さんと竹崎さんと僕の3人で企画を立ち上げました。

当時はあちこちの地方で芸術祭的なものがあったのですが、アーティストを消費するような方法には疑問をもっていました。まちだけでなく、アーティストの支援にもなるような取り組みにしようと始めました。

── 会期中だけイベントを開催するやり方もあったと思うのですが、アーティスト・イン・レジデンスという方法を選んだのはなぜですか?

アーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは、芸術家が須崎市に一定期間滞在し、住民との交流、地域資源の活用に取り組みながら作品制作を行い、その成果を展示・発表するアートプロジェクトです。今日的な芸術表現を、作品の生まれる現場に立ち会い、作家との交流を通じて理解し、楽しみながら地域課題の解決の糸口を探ります。

about - 現代地方譚

外からアーティストを連れてきても、作品を展示して終わりだと、ちょっとお祭り騒ぎをして終わっちゃうというか、やってもしょうがないと思いました。せっかくこんなにいい環境があるんですから、地域の人と交流して、まちの良さを知った上で、作品なり、地域の人とアーティストの体験なりという形で積み上げていけたら良いのではと考えました。アーティストにとっても、地域の人にとっても新しいんじゃないかと。

── まちの人は、はじめからこのプロジェクトを歓迎してくれたのですか?

多分、みんな親切なんです。僕が来た時のように、よそから来た人に対してもすごくオープンで。美術にとくべつ理解があるわけではないけれど、当たり前にコミュニケーションするよという感じですね。普段と違う雰囲気のポスターだったりアーティストだったりがいて、毎回ポスターを貼らせてもらう中で、「ちょっといつもと違うね」「今年のポスターはこうなんだね」と、だんだん根づいてきた感じですかね。

写真:額装したポスターが壁に立てかけられています。
現代地方譚の歴代ポスター

それぞれの人がやりたいことを実現するために

── 新施設には、図書館だけでなく多目的ホールやキッズスペース、大きなひろばなどを計画しています。

いろんな場所があるのは良いと思います。たとえば、新施設の建設地になっているゆたか跡地には、元々小さなライブハウスがあったんです。須崎の音楽好きの人が自分たちの活動ができる場所を作っていました。それがなくなってしまって、今は「すさきまちなか学舎」などでライブをしています。活動できる場所が増えるのは悪くないと思います。

── 新施設では運営方法を模索しているところなのですが、まちかどギャラリーの活動にまちの人が協力してくれるのはなぜでしょう?

まず人がいるんですよね。僕だけじゃなくて、それぞれにやりたいことや頑張っていることがあって、それを実現できる環境を作りたいという思いがある。やりたいことがある人たちがゆるくつながっている中で、お互いに手伝ったり、みんなでやったりという感じじゃないかなと思います。僕自身は自分がまちを盛り上げてやろう!という感じではないけど、この心地いい場が続いていったら良いなと思っています。

写真:ギャラリーの入り口で微笑む川鍋さん。

インタビューを終えて

冬に須崎を訪れたとき、商店街のあちこちの店先に現代地方譚のポスターが貼ってあり、まちの風景の一部になっているのが印象的でした。川鍋さんのお話を伺って、すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸という建物の魅力はもちろんですが、まちで生活する人やそれぞれのやりたいこと(動機)にオープンに向き合うことが良い関係性づくりには不可欠だと感じました。

川鍋さん、インタビューにご協力いただきありがとうございました!