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おしゃぶり どこ行った?


娘は1歳の孫を連れて、4日おきに里帰りする。
娘のダンナが4日間隔で夜勤になるため、車で15分の実家へ帰省するのが習慣化しているのだ。
「まんま」「まま」「ぱぱ」くらいしか言えない1歳の孫からすると、出迎える僕は、どう考えても「じい」。
まさか自分がこんなに早く、強制的に「じい」の立場に立たされるとは夢にも思わなかった。

娘は社会勉強ができてなかったので、親心としては大学卒業後にいろいろ経験を積み、10年間は社会に鍛えられ多くを学んでほしいと期待していた。
が、それに反し、
卒業し就職するも勤続1年満たないまま退職・結婚・さらに出産と、全く予期せぬ方向へと歩み始めてしまった。

私にしてみれば、子が子を産んだのである。驚くべき異常状況だ。
実は案の定、娘本人も、子を持つ自分に不安を感じていたようだ。
臨月のある晩
「妊婦のみんなは、お腹の子供が可愛いっていうけど、私は全然愛情の実感が湧かない。
私はお腹の子供へ愛情を注げない! そんなんで私は本当に子供を育てられるの?」
そう言って、珍しく泣き始めた。

娘は普段、ヒョウヒョウとしていて感情を外に出すことはあまりない。
その彼女が涙で訴えるくらいだから、よっぽど以前から思い詰めていたに違いない。
大丈夫、大丈夫、生まれた子どもが、お前を立派なママにしてくれるんだよ。
それらしき言葉は投げかけたが、その時の彼女には意味がよく伝わらなかったようだ。

1ヶ月後、無事出産。しかしここからが2次戦争。
産後のヒダチもあるだろうに、昼夜ぶっ通しでのミルク・母乳・おむつの世話・検温・夜泣き・なだめ。
大変な労働だ。精神的にも人ひとりの命の責任を背負って矢面に立たされている。そのプレッシャー。
しかし睡眠不足にも関わらず彼女は「母親」をきっちりやっていた。特に育児の愚痴はほとんど口から発していなかった。

正直見直した。大学の部活、バイト、就活より頑張ってるじゃないか。
それが子によって母親にさせてもらっているってことだよとも言いたかったが、言葉にするとベタすぎるので何も言えなかった。


つい先日、こんなことがあった。
1歳8ヶ月になったダイチ(孫)は、アンパンマン人形の動画を一心不乱で見ていた。
いまだ言葉がちゃんと喋れず、こちらの言葉もどれほどわかっているか怪しい。
さて帰ろうとする時、それまでダイチがしゃぶっていた「おしゃぶり」がなくなっていた。これは大変。

娘・妻・僕の大人3人で、家中探したが見つからず。
「ダイチはいつまでおしゃぶりしてたんだろう?」
「さっきお風呂入ったでしょ。その前はしてたと思うけど」
「じゃあ、やっぱり家の中で落としたんだ?」
「でも風呂場には見当たらないよ!」

10数分探したが見つからず、安いものだからまた買えばいいやと思いながら、
最後に娘がダイチに冗談半分でこう訪ねてみた。

「ダイちゃん、おしゃぶり知らない?」

するとずっとアンパンマンを見てた彼がスクッと立ち上がり、何を思ったか、ママの手を取りヨチヨチ歩き出し、風呂場の隣にある脱衣場のカーゴの引き出しを黙って開けた。 

「あー!あった!」

引き出しの中におしゃぶりが。
「ダイ、すごーい!」
しかし彼は何事もなかったように、またアンパンマンの動画に見入っている。
なんとこの1歳児のすごいのは、お風呂へ入る直前にカーゴの引き出しにおしゃぶりをしまっておいた。そしてオトナの問いかけを理解し、1時間前の自分の行動を思い出して、対応して見せたことだろう。いまだバブーだというのに。

いつの間にか成長していたんだな。
こんな些細なことで恐縮だけど、この子はひとりの人間、僕の孫なんだな、と実感した瞬間だった。と同時に自分が「じい」になったことを認めた瞬間でもあった。

19年後、どうなっているだろう。
いろんなことがあるだろうが、でも僕は
それら全部含めて、この子と乾杯したい!と思っている。
なあに、19年後? もちろんそれまでちゃんと生きてるから!
うまい酒で乾杯しような!
ママやばばには内緒で。なあダイチ!


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