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2019年の良かった本

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文字の本に関しては、自分はそんなに深堀りしたりマニアックなものを読んだりはしてないのではないかと思う。
なので挙げているのも基本的によく売れて注目されたものなのではないかな。
そんな気合の入ってなさなので、ベストは決めずにおく。面白かった本を紹介します程度のものとして読んで頂ければ。

『聖なるズー』 濱野ちひろ
https://note.com/sus9_s/n/n0e1cb32a8300
記事にした。
動物性愛者についてのノンフィクション。読む前と後で世界変わる。
おすすめ。

『時間は存在しない』 カルロ・ロヴェッリ
著者の物理学者カルロ・ロヴェッリは物理学をセクシーにした男と言われているらしい。
本書はタイトルの通りの内容で、まあとんでもないことを言っているが、これが実に分かり易く説得的に提示される。
何しろこの本の中には数式は一度しか登場しない。
「科学のもっとも深い根っこの一つに、反逆する心、すなわちすでに存在する事物の秩序を受け入れることを拒む心がある。(…)科学のもう一つの深い根っこ、おそらくそれは詩だ。詩とは、目に見えるものの向こう側を見通す力のことである。」
というだけあって、詩集を読むように、感性で読み進んでいける見事な語り口。
読んでいたとき丁度同時に時間SFをいろいろ読んでいたので、とても刺激を受けた。
「猫は宇宙の基本的な素材に含まれていない。この惑星のさまざまな場所で「生じ」、繰り返し現れる複雑なものなのだ。」

『第三脳釘怪談』 朱雀門出
電子のみなので注意。kindleとかで買える。
怪談本は浴びるように読んでいるのだが、今年のもので一冊決めるとしたらこれ。
著者の朱雀門出先生の怪談が本当に大好きで、しばらく本が出ていないのを残念に思っていたのだが、今年からまた精力的に執筆活動を始められたようだ。
"変態するヒトの話"、"ジムル波"、"俺の地獄"。
この人の怪談は、ふつう「怪談」と聞いて想像するようなものとは明らかに違う。
事故のように突然に目の前で世界がひび割れる、そんな体験だ。
自分は怪談は大好きなのだけど、幽霊、オバケの話は別に好きではない。
ただこういう、不可思議で、不条理で、わからないものが読みたいと思う。
そういえば今回取り上げた中でこれだけはややコアなチョイスかもしれないと思っていて、だから読んで頂けるのなら怪談本の世界を少し知って貰いたいとも思う。
だので、この朱雀門さんの他にもう二名、おすすめの作家の名前を挙げておきます。
我妻俊樹。黒史郎。このお二方の怪談は、本書を読んで気に入ったのならきっと楽しめるはず。

『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』 素童
大体一ヶ月かそこらの単位で緩やかに読書のテーマが変遷していくのだが、この時期のテーマは風俗だった。
『ぽつん風俗に行ってきた!』、『震災風俗嬢』、『すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。』、どれもそれぞれに学びのある本だった。
その中でこれは、わりと直球の風俗レポ。
とはいえ文章の巧みさ。巧みすぎる。文学的と言ってもいい。
「才能の無駄遣い」みたいな言葉あるけど、ここまで来ると「天性」みたいな、「ミッション」みたいなことなんだろうな、と思わされる。
仁王立ちのエピソードが特に好き。
デリヘル店のホームページの嬢の紹介文を自然言語解析ソフトで研究してタモリ倶楽部に呼ばれる、という著者の経歴がまた良いね。

『なめらかな世界と、その敵』 伴名練
SF短編集。
この分野の中ではとりわけ注目を集めていた一冊のように思う。
まーしかし面白い!
特に素晴らしいのはまず表題作。
多元宇宙におけるJK百合ラ・ラ・ランドといった趣のエピソード。
短編としての構成が美しくて、ひとつの描きたい景色があり、そこに向けて迷うことなく加速していく。
それから何といっても最後の"ひかりより速く、ゆるやかに"。
「低速化災害」によって二千六百万分の一の時間の流れの中に取り残された新幹線、の周囲の人々の話。
「新幹線の現在位置から計算すると、結論は明瞭になる。のぞみ123号博多行は、次の停車駅、名古屋駅に間違いなく到着する。およそ、西暦四七〇〇年ごろに。」
震災と原発、メディアスクラム、ネット野次馬が無限に「被害(災)者」を消費する構造など、今のこの国、社会の状況に向けられた内容で、今読むべき物語という感じ。
それからさっきもこの言葉を使ったけど、加速。
SFでの問題解決の主だった手段のひとつに、加速があると思う。
たぶんそれは、加速を通して、ロジックとエモーションは重なり合うからじゃないか。
自分は超音速偵察機ブラックバードのあり方、一途さ、存在の純粋さみたいなものを思うと泣けてきてしまうんだけど、そういうことがあると思う。
加速の抒情性。
それを突き詰めたがゆえに、傑作短編となっているのではないかな。

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