鈴木捧

怪談作家。単著に『実話怪談 花筐』、『実話怪談 蜃気楼』、『現代奇譚集 エニグマをひら…

鈴木捧

怪談作家。単著に『実話怪談 花筐』、『実話怪談 蜃気楼』、『現代奇譚集 エニグマをひらいて』。寄稿に『山海の怖い話』、『怪談四十九夜 病蛍』など。趣味は山登り、大樹巡り、鍾乳洞等の自然観察。

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    2021年に良かった映画・マンガ・本について書いています

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    Jポップから実験音楽まで、というか大抵そのふたつのジャンルの音楽の感想を書いています 以前に書いていたブログの記事の再掲シリーズです

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単著第三作『現代奇譚集 エニグマをひらいて』刊行告知+試し読み四話

現代奇譚集 エニグマをひらいて電子版 ペーパーバック版 Amazon Kindleストアにて、単著第三作、『現代奇譚集 エニグマをひらいて』を刊行する。 私の聴き集めた「奇妙な体験談」をまとめたもので、収録話数は全41話+α。分量は一般的な文庫換算(頁40文字×16行)で約300頁となる。6月1日発売。価格は、電子版1,000円。ペーパーバック(紙書籍)版2,090円。 本書は、新しい読者に向けて実話怪談という世界をひらくこと、従来の読者に向けて実話怪談と出会いなおす機会

    • 夢の話 - ゲームオーバー

      「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。    *  *  *  中学生のときに見た夢で、未だによく憶えてるのがあるんです。 私が中学生のときって、ちょうどロクヨン……、あ、分かり

      • 夢の話 - 彼女

        「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。   *  *  *    夢といえばね、めちゃくちゃ変なんだけど、こういう夢見たのよ。 いやね、別れ話してんのよ。それが。いきなり別れ話して

        • 夢の話 - 白いワゴン

          「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。 こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。 誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。 人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。 私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。 こんな夢を見たという話を聴いた。   *  *  *    見た夢でですか。見た夢。 そだなあ、めちゃくちゃ憶えてるやつがひとつあって。 あのですね、白いワゴンに乗せられて

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          2023年 良かったマンガ五作、その他

          今年は、6月に自主で本を出した。12月にペーパーバック版も出した。 ひとつの区切りになるような作品を作れたという自負がある。 多くの人に読んでもらいたいと思っている。 今年もそこそこ本を読んだり映画を見たりもしたが、その中で特に、マンガに関してはちょっと感想を書いておきたいと思うものが多かった。 なのでそのあたりのことを中心に、少し書く。 以下、今年始まったものの中で良かったマンガ五作。 『かわいすぎる人よ!』綿野マイコ 中一の少女・メイちゃんは小説家の叔父さんに引き取

          2023年 良かったマンガ五作、その他

          KANの普遍的な四枚と五曲

          ポップミュージックの、ことアレンジというものは、いつもある時代の縁をなぞるものであって、悲しいかな例外なく古びていく。有り体に言えば、ダサくなっていく。 KANもその例に漏れず、というところがある。その仕事に比してほとんど素朴だと言えるくらい混じり気のないポップソング職人──言い換えれば、一生いい曲書くマン──なので、どのアルバムを聴いてもすごく時代的だなと思う。 そんなKANの音楽だが、ディスコグラフィーを辿ってみると例外的に「普遍的」だといえるアルバムが四枚見つかる。

          KANの普遍的な四枚と五曲

          蛙坂須美 『怪談六道 ねむり地獄』、隙間の夢

          トバリさんは、今から二十余年も前、思春期の頃、奇妙な特技を持っていた。それは一言でいえば、朝の起床時、二回目覚めることができる、というものだ。 いつでもできるわけではなくて、できそうなときには夢の中でそれと分かるらしい。そういうとき、夢の中で「これは夢だ」と認識できる、いわゆる明晰夢の状態になる。そうして目覚めようとするときにその感覚が「来る」。そのタイミングで、細い糸を掴むように意識を一点に向ける。 その先はいつも同じだ。目を覚ますと、なんとなく体全体に浮遊感がある。つむじ

          蛙坂須美 『怪談六道 ねむり地獄』、隙間の夢

          壊れた楽器について

          うちに壊れたアコースティックベースギターがある。 ベースギターには一般的に四本の弦があって、そのうちの一番太いものをE弦、あるいは単に四弦と呼ぶ。これを楽器上に張るための部品、ナットというのが不調の場所になる。このアコースティックベースギターは、ナットの四弦部分が摩耗しすぎていて、チューニングがまともに合わない。合わせたとしても、弾くたびに簡単にずれていく。 私はこの楽器をたまに弾く。音はちゃんと出るし、その音色も気に入っている。 壊れている、というのは客観的に、というか一般

          壊れた楽器について

          流れ星を拾う方法。 『瑠璃の宝石』 渋谷圭一郎

          流れ星、つまり隕石は、拾うことができる。 こう言うと、場所がきわめて限定されているのだろうとか、何十年に一度だけなんだろうとか、そもそも技術や設備や資金が膨大に必要なんだろうとか返されそうだ。 でも、そうではない。 流れ星は、いま、ここで、あなたにも拾うことができる。 隕石、という言葉からはイメージしにくいが、実際にはそのほとんどは直径0.2~0.4ミリメートルほどの「微小隕石」である。じつはこれらは頻繁に地表に降り注いでいる。 その頻度は具体的には、0.1ミリのサイズであ

          流れ星を拾う方法。 『瑠璃の宝石』 渋谷圭一郎

          創作怪談 ツチノコビーム

          昼の日の高い時間なのだろう。明暗の差にカメラが対応しきれないのか、たまに映像が真っ白になる。背の低い雑草が生い茂った地面が流れていく。時折画面の下端にスニーカーの爪先が映る。画面が大きく横に振れると、密集した笹のような植物とそれを静かにかき分ける手が見えた。撮影者は雑木林の藪の中を進んでいるようだった。 「おったおったおったおった」 ぼそぼそと呟くような声が入ってくる。 撮影者は立ち止まったようで、映像が安定する。カメラが地面のある一点にフォーカスした。撮影者の立ち位置から数

          創作怪談 ツチノコビーム

          2022年 良かったマンガ

          今年特に良かったマンガ作品。 例年の通り、今年始まったか終わったものの中から選んでいる。が、一作品だけ例外として選んだ。 『霧尾ファンクラブ』 地球のお魚ぽんちゃん 出たばかりのものからひとつ。 女子高生の三好さんと染谷さんは、クラスメイトの霧尾くんのファンだ。 それはまさにファンというべき距離感であって、積極的にアプローチしたりすることはない。ただ遠巻きに見守る、しかしその見守りの方向性はおかしく、また、なんというかとても濃い。 シュールギャグなのだが、その笑いのセンスが

          2022年 良かったマンガ

          2022年 良かった国内小説

          今年は国内小説をよく読んでいた。 小説を読み、山に登り、書く。の繰り返しだったように回顧する。 小説は翻訳できないような気がしている。 私が小説を読むとき、物語はそこまで重要ではなくて、文体や話法、語彙、といった要素のウェイトの方が大きくなる。物語というのは、そんな言葉を乗せるためのレールのようなものなのではないかと思っている。 その観点に立つと、翻訳というのは、そこに書いてあることの意味、ここでいう「物語」を伝えてくれるものではあるのだけれど、そのために言葉は組み換えられ

          2022年 良かった国内小説

          雁坂峠のアリア

            自分は怒って居りました。 『ヤマノススメnext summit』#6 「ひかりのデート大作戦! 」を見て、憤怒に身を焦がして居りました。  楓先輩の甘辛コーデもEDMを音漏れさせたDQNカーで現れたほのかちゃんも、ここなちゃんのサンタクロース姿の仮装(これは平時の自分であれば悶死に至らしめるに充分な程の視覚的衝撃を伴って居りました)も、ただ目を滑るばかりでした。 事は番組の前半部分に起こりました、お弁当まで用意してデートプランを考え、その日を楽しみにしていたという小野

          雁坂峠のアリア

          朝のオーケストラ

           夜の帳がほつれてその向こうに朝が透けて見えたころ、パン屋の店先からどこかミレーの絵画を思わせる薫りが漂ってきた。鳥たちはリハーサル前のオーケストラのリラックスした音出しのようにひかえめに思い思いの歌を歌う。往来には誰の姿もない。  僕は平泳ぎの要領で頭上の空間を漕ぎ、肺を深く冷たい空気で充たす。それを静かに吐くと、マンガの吹き出しみたいに顔の前に浮かんだ白い息が大気に溶けるのを見送り、パン屋の角を曲がった。  足下でハンバーグを捏ねるような音がした。爪先が踏んづけた赤黒い粘

          朝のオーケストラ

          「問題です。日本でい」のタイミングで解答ボタンを押すことの論理的な正当性 『君のクイズ』小川哲

          「日本で一番」という言葉を突然提示されたとする。 直感的に頭に浮かぶイメージはどんなものだろうか? おそらく10人いたら9人の人は、富士山を思い浮かべるのではないだろうか(メチャクチャひねくれている人は信濃川とか言うかもしれないが)。 日本で一番、という言葉は、少なくとも直感の領域では富士山の枕詞なのであって、だから素直に想像するのであれば、続く言葉は「富士山」であると考える。 ここにひとつのクイズがある。 正答を競う形式は早押しクイズで、問題が読み上げられている途中でも解

          「問題です。日本でい」のタイミングで解答ボタンを押すことの論理的な正当性 『君のクイズ』小川哲

          この戦いもロール制でいこう。 『フィールダー』 古谷田奈月

          この小説には、主にふたつの軸がある。 リアルとゲーム。現実と虚構、という言葉だとニュアンス的に違和感があるので、リアルとゲーム、と表現しておく。 主人公の橘は巨大な総合出版社の中でリベラル系の小冊子の編集の職に就いている。あるとき、小冊子によく寄稿してくれる児童福祉の専門家・黒岩がある児童を「触った」らしい、と同期の週刊誌記者から聞かされる。橘は黒岩を助けようと奔走する。 物語のひとつの軸はこの出来事なのだが、並置するようにもうひとつの世界での出来事が語られていく。 橘が「ハ

          この戦いもロール制でいこう。 『フィールダー』 古谷田奈月