Jリーグジャッジ「リプレイ」2019について集計してみた

はじめに

2018年シーズンより放送開始されたJリーグジャッジ「リプレイ」(以下、ジャッジリプレイ)。Jリーグ公式戦のジャッジを題材にルールに対する理解を深めつつ、普段見ることのできない審判団の意思決定プロセスなどオープンに情報を開示するコンテンツとして、関係者やファンから好評を得ています。

自分自身も審判ライセンス保持者(S3級)の一人として、毎週火曜日の早朝JOBが終わってからDAZNで視聴するのがルーティンとなっていました。

今回は、2019シーズンの放送分で取り上げられたシーンを一定の定義に沿って集計した結果をご紹介したいと思います。巷では高評価の一方で、「審判擁護番組に過ぎない」というなかなか手厳しい意見を聞くこともあり、実際のところどうなのかを調べるべく、放送内容を定量的に切り取ることで実際の傾向を見ていきたいと考えています。

2019年12月時点でYoutubeで視聴可能なシーンを対象に、かつできる限り一貫とした基準は心掛けたものの、分類にあたってはやや主観の混じるところもあるため、もし違和感含めご意見があればご指摘頂ければ幸いです。

集計の定義

・2019シーズンJリーグジャッジ「リプレイ」にて取り上げられた112シーンが対象
・コンテンツ冒頭でリスト化されたシーン+原博実セレクションを対象とする
・比較対象としてイレギュラーに取り上げられたシーン、ナイスジャッジ、競技規則改正に伴う説明、VAR特別編(ルヴァン)、総集編は除く

※なおYoutubeで視聴可能な#2-1冒頭のシーンリストの中で、第2節湘南vsFC東京49分のシーンに相当する議論が見当たりませんでした。このシーンは上記112シーンから除いていますが、もし議論の内容をご存知の方がいれば情報頂けると嬉しく思います。

集計1:題材となったシーンの傾向

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まずは取り上げられたシーンの性質と論点で区分しました。

性質は事実確認(=ラインジャッジ、オフサイドポジションにいるか否か、手にボールが当たっているか否か等が論点の場合)と主審裁量(=ファウルの有無、懲戒罰の適用、オフサイドポジションで利益を得ているか否か、手にボールが当たっていることは明確だがハンドリングに相当するか否か等が論点の場合)で分け、そのうえで番組中で最も強調された論点を抽出しています。もともと「#Jリーグジャッジリプレイで取り上げて」のハッシュタグを用いて視聴者から投稿され、注目度が高いと判断されたシーンが紹介されているため、必然的に議論の対象となりやすいファウル判定(54件:48.2%)や懲戒罰判定(22件:19.6%)、オフサイド判定(22件:19.6%)が多く取り上げられた結果となっています。

集計2:JFAトップレフェリーグループの見解

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続けて、各シーンに対しJFAのトップレフェリーグループからの出演者(上川氏、レイモンド氏、扇谷氏)が下した見解を一覧にします。全112シーンに対し、主審が実際に下した判定に対して、異なる判断が適切であったと評価されたのは43件(38.4%)でした。母数はあくまで取り上げられたシーンに限定されるためこの割合から得られる示唆はあまりないのですが、従来判定に対し修正的な見解を開示しないスタンスであったJFA・Jリーグが「少なくとも43回は判定に改善の余地がある」と情報開示に踏み切ったことは大きな一歩と考えます。

ここで一つ強調したいのは、サッカーの競技規則には客観的な事実のみで判断する判定だけでなく、主審の裁量に判断を委ねられている判定が存在し、かつそれが試合に対し大きなインパクトを与えるという点です。実際の判定を評価する際、後者の場合は判定に対し複数の意見(解釈)が発生することになりますが、判定の権限は主審のみに与えられています。このため、仮に「誤審じゃない?」と思うシーンがあったとしても、客観的な事実に加え主審の判断を伴う性質の場合、たとえ正反対の解釈が可能であったとしても「主審の判定が選択肢の一つとして認められる限り誤審ではない」ということになります。主審裁量86件のうち「主審の判断が適切」「主審の判断は選択肢の1つ」合計で55件(64.0%)を占めているのは、単純に競技規則の構造的な話と考えられます。

集計3:個別ファウル事象の詳細

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◎=1.主審の判断が適切、〇=2.主審の判断は選択肢の1つ、×=3.主審と異なる判断が適切、?=4.判断に至る十分な情報なし

論点がファウルか否かとなった54シーンを、直接フリーキックの対象となるファウルの種類別にまとめました。ルール改正の影響もあり、ハンドリングに関するシーンが数多く取り上げられています。また、ホールディングについては比較的ポジティブな評価が下されているのに対し、タックルとトリッピングについては異なる判断が適切と評価されるシーンが相対的に多くなる結果となりました。

タックルとトリッピングについて主審と異なる判断が適切とされたケースは、「試合ではファウル判定だが評価としてはノーファウル」「試合ではノーファウル判定だが評価としてはファウル」のケース両者が混在していることも興味深いです。タックルは予期しない状態で突如発生した時に、どちらの選手がボールに対し優位かを見極める点で、トリッピングについてはそもそも接触があったか否かをめぐって議論となっています。

集計4:個別懲戒罰事象の詳細

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少しややこしいのですが、懲戒罰の有無と種類が論点となった22シーンについて、実判定とJFAトップレフェリーグループの見解を比較しました。22シーン中18シーンについては試合中の主審の判定を評価する一方、退場が適切と評価したシーンで警告または懲戒罰なしと判定したシーンが合計3件という結果となりました。サンプル数が少ないので有効な示唆を導くことは難しいのですが、試合中の主審がやや「甘い」判定をしてしまう傾向はあるかもしれません(とはいえ、厳しくしたらそれはそれで文句を言われることもあるので、本当にツラい職業だと思います)。

なお、上記にはファウルの有無を論点としたもの(例えば、ファウル+退場が適切と評価したシーンでそもそもファウルが取られていないシーン)は含まないのでご注意ください。

集計5:JFAトップレフェリーグループ解説者毎の見解

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最後に、各放送回で登場したJFAトップレフェリーグループの解説者毎の見解を紹介します。誤解の無いようにお願いしたいのですが、それぞれ解説を担当した事象は異なりますので、シーン数と見解の割合に偏りが出るのはある意味必然であり、この数値を以て各解説者の評価傾向を断じるつもりはまったくございません。1年間を通じて、なかなか表に出しにくい情報についても開示に踏み切って頂いたことに、心から敬意を表します。

あくまで一視聴者の意見ですが、、もし次年度以降も類似コンテンツが続くのであれば、解説にあたって以下の点を明確にするとより腑に落ちやすくなるのではないかと考えています。

・まず結論を述べる(レイモンド氏はこの傾向が強いですね)

・事象に対する適切な判定を明確にする(主審の視認可否や判定難易度は関係なく)

・そのうえで、なぜ主審が当該判定を下したのかを説明する(上川氏はこの辺りの説明が丁寧です)

・主審の判定を正しいと評価する場合でも、それが「唯一解」なのか「他の判定の可能性もあるが、主審の判断は支持できる」性質のものなのかを明確にする

・あまり「難しい」という言葉に逃げない(いや、実際難しいんですけどね)

おわりに

以上、本年のジャッジリプレイについて簡単ではありますが傾向を集計してみました。情報をオープンにする昨今のJリーグの動きの流れに乗ったとても良いコンテンツだと思いますので、VARがJ1に適用される2020年以降も、何かしらの形で継続することを願っています。

また今回の集計についてはあくまで当方の手作業によるものなので、正直な所集計ミスや認識違いの可能性は否定できないです。もし何かしらお気づきの点があれば遠慮なくご指摘頂ければと思います。

以上

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