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「推し、燃ゆ」は"現代"なはずなのになぜか懐かしい

 息子の話から少し離れて、久しぶりに読書をしたのでその紹介を少々。

 読んだのは「推し、燃ゆ」、2021年1月に芥川賞を受賞してニュースになっていた辺りからタイトルや内容は気にはなっていましたが、実際読む機会はなく月日が流れ、
 つい先日、急にできた空き時間に、本を読むか、とこちらも急に思い立ち、訪れた駅の本屋で買いました。

 選ぶ時間もなく本を買わない選択肢もありましたが、店頭の文庫版の棚で見つけ、文字数も少ないし、作者も若いし、内容も若いし、自分が読んでから読書嫌いな中高生の娘たちにも薦めたい、という下心もあり、本を手に取りレジに進んでいました。

 読み始めるまで、作者の年齢が自分よりだいぶ若いし、設定もオタクの子の話だし、サラッと終わるだろう、と思っていたのですが、、気づけば釘付けでした。
 読み始めは娘の学校の待ち時間で、続きが読みたく久しぶりに帰り道の電車の中車両中央付近で立ち読みしてしまいました。たった一駅くらい我慢しろよ、と心の中で呟きながら、多少恥ずかしく思いながらもキリの良いところまで読み倒していました。

 若い頃から純文学は好きだったので名作を多少読みましたが、「推し、燃ゆ」も文豪作品を読んだ時のような感動がありました。作品中は生き生きとした美しいそれでいて無駄がない文章で溢れていました。
 勉強が苦手だという主人公の設定とはかけ離れた才能溢れる情景描写、心理描写で物語は綴られていました。

 特に主人公のブログの内容、書き込まれていくコメントの波、いずれも圧巻でした。     
 ブログの内容は、現実の主人公とはかけ離れた深い洞察に溢れ、推しへの愛情があふれかえった内容。
 ブログや推しのインスタライブ中に発せられるリズミカルなコメントの嵐、コメントだけなのに何人もの人間の存在を感じられました。

 また出会ったことのないフォロワーをインスタのストーリーに映る景色から主人公が把握している様も現代人のそれをリアルに反映していました。
 推し活をしている人たちばかりではなく、インターネット上で知り合った、実際会ったことがないけど、心の友になるということは現代多くの人が経験しているのではないかな、と思いますが、そこに至るアプローチとしては、画像の観察と話のテンポ、やり取りの行間によるものと思われ、まさしく現代のコミュニケーションが描かれてるなと思いました。

 私には推し活するような対象がいないので一部の友人たちが推し活をしているのが不思議でしょうがなかったのですが、主人公の心の動きを知り、友人たちの気持ちも推測することができました。

 今のJオタたちが置かれている状況と主人公の置かれている状況も少し似ていると思い、ニュースでインタビューを受ける彼女たちを見ながら主人公のような推しが身体の一部のように感じてる人ならさぞかしつらいだろうと思いました。

 話の展開については、最近読んでいた本が探偵物でセンセーショナルのものやあまり中身がないようなものが多かったので、途中からラストが見えなくて、でも読んでみて納得というか、煮え切らない感じに納得というか、余韻が懐かしかったです。

 短いし行間も多いのですぐ読めてしまいましたが、私にとっては、読み終わって、読書したな、という満足感の高い作品でした。

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