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映画:『ストックホルムケース』、このイーサンホークが好き!

先日、ポッドキャストで配信するとある音声番組のために収録をした。まだ準備段階だが、内容は、毎回マンガ作品をひとつとりあげで、4人でゆるく話すというものになる予定だ。しかし、録音された自分の声というのは、なぜこうもヘンなのか。森本レオとか、伊武雅刀とか、誰がどう聞いても良い声の人も、やっぱ自分の声をヘンだと思うのだろうか。
さて、本日は映画。

■「ストックホルム・ケース」
監  督 ロバート・バドロー
主  演 イーサン・ホーク
製作年度 2018年(日本公開は2020)
状  態 仕事帰り、映画館で観た

ストックホルム症候群、という言葉を聞いたことはないだろうか。一般的に、誘拐事件や監禁事件などにおいて、被害者が犯人との間に心理的なつながりを築くことをさす。テレビドラマなどで、被害者と犯人が一緒に逃げたり、立てこもったりしてるうちに、相手のことを知っていき、情がわいてしまうという展開をみたことがあるかもしれない。それが、ストックホルム症候群だ。

このストックホルム症候群は、1973年にスウェーデンのストックホルムでおきた強盗人質事件がその語源となっていて、本作はその事件を描いたもの。

主人公のラースは、銃をもって銀行に乱入、二人の女性銀行員を人質に立てこもる。人質解放と引き換えに、刑務所に収監されている「親友」グンナーの釈放と、逃走資金と車を要求する。グンナーは釈放されてくるのだが(このくだりが重要。後述する)、警察の牛歩作戦により、事態は長期化。このなかで、人質を軽視するような作戦があったりして、だんだんと犯人側と人質側に連帯感がうまれていく。

主人公ラースを演じるのはイーサンホークである。本作と同じ監督による『ブルーに生まれついて』でのチェット・ベイカー役、『6才のボクが、大人になるまで。』の父親役での好演が印象に残っている。この人が演じる「ちゃらんぽらんで社会的にはどうしようもないんだけど、人の痛みに共感できるアメリカン」の感じがとても好きで、今回の「銀行強盗で悪ぶっているのだが実はめっちゃ良い人」というのは、もうまさしく、オレの好きなイーサンホークである。

で、この映画でのイーサンホークがまた切ないのだ。とても切ない。
以下、話にネタバレが入ってくる。

収監されていたグンナーは警察に連れられ、銀行で主人公のラースに引き合わせられる。そのとき、グンナーは「あれ?こいつ誰だっけ?」とピンとこないふうである。どうやら、主人公のラースは、グンナーのことを親友だと思っているが、グンナーはそれほどともおもっていないようなのだ。

その後、グンナーとラースは逃げるために行動をともにするが、ラースの方が気持ちが強いようで、ふたりのやりとりのなかでは温度差がでてしまう。ほんとうはイイ人なのに、グンナーを助けるために人質強盗までする健気なラース。作中はぼかしていたけど、友情を超える「想い」もあったのかもしれない。この温度差は、不憫でかわいそうで、観ているこちらをせつなくさせる。

この観客の視点に、人質のうちのひとりで、犯人にとても協力的になるブリジッタの視点が重なる。本作のポスターには「なぜ人質は、犯人に味方したのか?」とあるが、この問いのこたえは、主人公のラースのせつなさにあるおもう。

いま、映画館では、『鬼滅の刃 無限列車編』が国内の歴代興行収入を塗り替えそうな超ヒットになっている。上映スケジュールをみると、どこも「鬼滅鬼滅鬼滅鬼滅……」というふうにうまっている。これで劇場が助かるわけだから、とてもよいことだとおもう。そのいっぽう、ただ、そればかりになるにもなあ……という気持ちもある。そんななか、「洋画作品の小品」というかんじの『ストックホルム・ケース』は、とても貴重な一本だった。

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