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平成の終わり、松坂桃李世代の始まり。

その名も「キネマ旬報 featuring 松坂桃李」。一冊丸ごと桃李くんのムックが4月6日発売になりました。R18指定の映画「娼年」が同日から公開されており、自分は原作者の石田衣良さんとの対談企画を担当させていただいています。デザイナーは飯田翔平さんで、マットの装丁はじめ中面のデザインもさすがの洗練されたかわいさです!感動。編集のみなさま関わられたすべての皆々さま、今回も本当におつかれさまです、ありがとうございました。

ちなみにちょうど1ヶ月後の5月12日からは東映の気合い入りまくりな一作「孤狼の血」が公開となるわけですが。今回の一冊はその新作2作を中心として今年30歳を迎える松坂桃李にインタビューや対談、共演者やスタッフからの手紙形式のエッセイが詰まっている、というわけです。

「娼年」と「孤狼の血」が同年に公開されるなんて、松坂桃李はなんと祝福された役者だろうか、と2作を観て以降ずっと考えていました。男娼と、マル暴(しかも東映!!)。どちらも上辺だけみれば裏社会を描くかなりの挑戦作であることは間違いなく、なんだかのっぺりとしてしまった骨抜き現在のニッポンに、平成生まれの”ゆとりですがなにか?”な役者(山ちゃん)がものすごく真摯な一撃(というか2作同時だから、往復ビンタか)を食らわしてきてくれた、というような印象です。しかしながらそのダークサイドに佇んでいても常に一筋の雫のような、澄んだ印象が保たれるのが彼の恐るべき素質で、「娼年」なんて私の個人的な感想としては、大人のための極上ヒューマンドラマのようだとすら思ったのでした。

「娼年」については終了後本当に、「めちゃくちゃ面白かった!」という感想しか出てこなかった。それくらい、究極的なコミュニケーションのお話。人間ておもしろく滑稽で、皆、人と繋がるにはどうしたらいいのかと悩んでいる。その根源的な生と性への思いや悩みの緒のような部分にそっと寄り添ってくれる人のためならお金なんていくらでも払う というようなことなのかなあ、と。

普段なら見ることのできない、誰もが隠しているような人間の生々しくもどこか笑えて愛らしい感情と生態を描くことにかけたら、いま三浦監督の右に出るものはいないのでは…と感嘆するしかなかった。生存へのエネルギーや渇望みたいなものを、説教臭さとは真逆の手法で描きつづけている。松坂桃李の存在感は、一輪の白いカラーの花のようだった。華美過ぎず、凜として清潔感があるのに曲線に魅了される、という感じ。女優陣のなかではいやはやどうにも圧倒的に江波さんがすごい。誰よりも脱いでないのに。半野喜弘氏による劇伴もかっこよかったし、現在の東京の景色がたくさん収められているのも素敵だなあと思った。切り取り方が独特。小説での舞台は90年代後半だけども、そこから20年ほど経ち、日本の性やコミュニケーションはどう変わったのかなあなんてぼんやり考えた。あとは余談ですが、桃李くんの裸に既視感がありなぜだっけと思ったら、4年前のananでした。あのananの時と比べてみれば一目瞭然、桃李くんは確実に大人になっていて、いやはや30代が楽しみな俳優さんですね。これが、女性だけでなく男性にもたくさん観られる世の中になったら日本の性的成熟度も少しは上がるのやも。そして、個人的には今年37歳になるので設定上ちょっと嬉しくなったり哀しくなったりしました(観ればわかるネタです)。

一方の「孤狼の血」についてはバイオレンス上等!!エログロ&ハードボイルド的作品世界がこれでもかと繰り広げられており、まあそれでも見入ってしまうのは本当に役所広司さんの成せる業。そして江口洋介演ずる若頭が驚くほどかっこいい。まあとにかく女性も絶対に観たほうがいい作品ですが、免疫が無いという自覚がある方は気をつけていってください、という。それしか言いようはないのですが…。

舞台は昭和63年広島。昭和の終わりの曇った気配が記憶にある人はどこかしらカタルシスを感じるのでは。全編通してロケが行われたという呉の街並みの風情が素晴らしく、人生で初めて映画の”ロケ地巡り”なぞしてみたくなった。ザッツ・東映!

(ちなみにTEAM NACS、白石監督作品では常連となりつつある音尾さんがドラマ「陸王」に続き役所さんとの芝居で登場していたのも驚き&胸熱。究極的ゲスい役だけどすごくいいところ配役されていらした。6月に公開になる「焼肉ドラゴン」といい、真木よう子のナックスとの絡みが続き嬉しい。)と、話が若干ずれてしまいましたが。

今年30歳になる松坂桃李。「孤狼の血」の日岡で彼が生きた世界は、彼が生まれた当時そのものだったはずだけれど、その後平成が始まり、21世紀になって、日本はまた急激に変化した。昭和は遠くなりにけり、なのだ。そして来年の平成の終わりとほぼ同時に三十代を迎えるという、松坂桃李世代の時代が本格的に始まる。役者界ではそのトップランナーに松坂桃李が踊り出る2018年上半期、といった様相でございます。

極端に女性向け、男性向けに振り切っているように見えるといっても過言では無いはずの「娼年」「孤狼の血」というそれぞれの作品のなかで、ひとりフラットに佇みながらすべてを受け止め、作品が届く範囲と可能性を広げるような存在に感じられた桃李くん。いつのまにか、大人になっていた。桃李”くん”とは突然呼べなくなるような。
しかしどこまでいっても清潔感が第一にある上、決してスーパーマン/スーパーヒーローじゃないところが、彼の最大の魅力なんだろうな。

最後に超・余談ですが、彼は神奈川県茅ヶ崎市の出身でして、この本の中で茅ヶ崎SATYのワーナーマイカルで観た「ジュラシックパーク」の話が出てくる辺り完全に、古くからの映画館がたくさんあった藤沢育ちで、たまにSATYに行くと”シネコン”の源流に感動していた90年代前半の子どもの頃の自分を思い出し。同じなにかを見てあの地で育ったのだな、、、という喜びというか、まあ郷愁が、すごいです。湘南エリアの友人のみなさまにおかれましては、地元のスタンダードな子、という意味でも松坂桃李のフラットさを受け入れやすいはず。(みんな夏になるとウェイ〜って感じで海にやってきたりするけど、自分たちにとっての海ってもっと文系的な世界で、混んでいる夏の湘南にいるくらいなら山に憧れるわ、みたいな気持ち。のことです。)

平成が終わり、松坂桃李が始まる。言い過ぎかもしれないけれど、でもそういう印象を受けました。ついそういう、大袈裟な物言いをしたくなるような興奮がある、2作品。

今年の松坂桃李、ある程度以上の映画好きを自認する大人はみんな見逃しちゃならないと思います。


▼ちなみにキネマ旬報featuringシリーズは、菅田将暉さんの一冊も出ています。(このふたりが並んでいると完全にまた、松坂桃李の終わらない「遊☆戯☆王」トークが始まってしまいそうで笑えて仕方ない!)




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