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【映画ネタ】チェンソーマンOPの意外と凝ってるモチーフ選び

話題のアニメ「チェンソーマン」OPの冒頭は特設タランティーノ公園と言えるほどに、タランティーノとコーエン兄弟の映画からの引用が多い。
冒頭の映画パロネタ全11本中5本、実に半数近くを彼らの作品が占めている。

露骨な依怙贔屓の理由は恐らく、バイオレンスをテーマにすることの多い両巨匠の映画はチェンソーマンという作品を表すモチーフとして最適だから。
一部で「ただ無節操にそれっぽい作品を並べただけ」とも言われるOPの映画パロだが、そのネタチョイスは意外と気が利いているというのが今回の記事。
ネタの出典に関しては散々語られているので、ここではパロディした作品の持つ意味や原作との親和性といった面にフォーカスしていきたい。

以下、比較画像を交えた元ネタ映画についての雑談。
(毎度のことながらチェンソーマンと元ネタ双方のネタバレ注意)


1.レザボア・ドッグス(1990)

タランティーノ作品その1。
あまりに有名すぎるオープニングで横並び歩きするキメキメのキャラたちの構図はあらゆる媒体で模倣されまくっており、今さらパロディと呼ぶには手垢が付きすぎてる感もあるがカッコいいものはカッコいいのだから仕方がない。「レザボア・ドッグス(掃き溜めのたち)」とはよく言ったもの。俺もマキマさんの犬になりてぇなあ~?
ちなみに双方ともこの中に裏切り者が一人います。二人かもしれない。
元ネタは黒スーツのイカした連中が立て籠もった倉庫内で疑心暗鬼でえらいことになる話。これでアカデミー賞は俺んモンだぜ~!!(次作で受賞)

2.悪魔のいけにえ(1974)

全部死人

ホラーでチェンソーといえばこの映画。
今日の両者の関係性の仲人と言える作品で、原作コミックのカバーで作者の好きな映画にも挙げられていた。
Q. チェンソーで襲い掛かってくるホラーの殺人鬼は?
×ジェイソン(本当はナタ使い) ○レザーフェイス(本作のヒロイン)
とは五兆回くらい言われた。

画像は一作目だが、続編では被害者側がチェンソー2刀流で殺人鬼に逆襲し時代劇もかくやという大チェンバラを繰り広げる。
以後、ホラー映画におけるチェンソーは犠牲者を斬ってよし、敵クリーチャーを斬ってよしの万能聖剣エクスカリバーと化した。
元ネタの悪戯で掘り起こされた腐乱死体のあすなろ抱きという最低のビジュアルをモチーフ込みでここまで尊い構図に昇華したのは見事。

3.パルプ・フィクション(1994)

タランティーノ作品その2。
元ネタは我らがマザーフ○ッカー大王のサミュエル長官が、原作の岸辺隊長も愛用の1911タイプの拳銃を構えながら、旧約聖書の一節(ただし大半がデタラメ)を滔々と語るシーン。

彼曰くその内容はエゼキエル書25章17節からの引用とされ、これが無茶苦茶にカッコいいことを言ってるのだが、実際はサニー千葉の映画「ボディガード牙」アメリカ公開版冒頭からの頂きが大半を占めており、カッコいいがデタラメ、デタラメだがカッコいいなまさにパルプ・フィクション(駄話)、ひいてはチェンソーマンという作品の本質をついた場面チョイスである気がしてならない。
でもカッコイイならOKです(サムズアップ)

4.貞子vs伽椰子(2016)

原作者のお気に入り映画その2。
チェンソーマンvsサムライソードのバトルはファンの間でもアニメ化のハイライトになるであろう期待感が大きく、Jホラー界の二大巨頭激突なお祭り作品をチョイスしたことには納得感しかない。
原作のサムライソード編からして、某マキマ氏の呪殺描写やら幽霊の悪魔の顔面やら端々にJホラー風味が散りばめられている点も見逃せない。

元ネタは化け物に化け物を文字通りぶつけた結果、とんでもないことになる直前のシーン。デザインだけはピカ一と評判のサムライソードと、同系統のクソつよデザインたるチェンソーマンが映画のように悪魔合体したらどうなるかはホットトイズあたりに解を出してほしいところ。

5.ノーカントリー(2007)

コーエン作品その1。(タラ公通算3作目)
暴力の本質を描いた作品であり、元ネタは理不尽な暴力の化身たる男シガーがひと仕事始める前のシーン。
シガーは純粋悪だとかいった段階を超越した、暴力そのものが人の皮を纏って活動しているような概念的存在なので、暴力の魔人という肩書だけの超いい人でオマージュするにはピッタリの人選と言えないる。
原作レゼ編のとあるシーンと、本作の衝撃的なオープニングシークエンスの類似性を見出すことも可。

6.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)

ふたりはマブダチ 

タランティーノ作品その3。(タラ公通算4作目)
元ネタは落ち目のスター俳優とその専属スタントマンの友情を描いた映画、そのオープニングを飾る車内でのツーショット。
2019年度ベストスクリーンカップル賞(当社調べ)の両名をデンアキでパロったことに、これ以上の説明は要らないと思うが、本作はSNSを中心に大きな反響を呼んだ原作者の読み切り漫画「ルックバック」の下敷きにもなっており、そちらへの目配せ的な意味合いが強いかもしれない。
元ネタも「ルックバック」しながらバック発進する様子を後部席側から捉えたもの。

7.アタック・オブ・ザ・キラートマト(1978)

元ネタはトマトが人に襲い掛かる映画で、召集された有識者たちがクソ狭い会議室で何とか着席しようとする場面。
この概要で察せられる通り、パロ元は真面目に作った結果滑り倒したクソ映画の類ではなく、最初からふざけ倒して作られた養殖もののクソ映画
いわゆるカルト作ではあるが、原作者の世代にはネットや各種の動画サイトなどを通じてむしろ著名なまであり、原作の開幕を飾ったトマトの悪魔に象徴されるような、これみよがしのB級アピール意図的で通俗的なB級っぽさのイコンと言える。
原作者の好みを反映してか、パロ元のチョイスが90年代以降の作品に偏っている中、悪魔のいけにえと本作は70年代の映画なのが異彩を放つ。
またこれらの映画パロは元ネタのアス比まで再現しており、特に本作と次の女優霊がスクリーンサイズの変化が顕著で分かりやすい。(黒帯の面積が少ない)

8.女優霊(英題:Don't Look Up)(1996)

原作者のお気に入り映画その3。
映画の撮影現場で起きる心霊現象を描いた本作は、原作者の読み切り漫画「さよなら絵梨」と同様の劇中劇、映画内映画のフレームが採用されている。
元ネタは撮影中にそこにいるはずのないモノを見てしまった女優の背後で、そこにいるはずのない存在がケタケタと笑い続ける場面。
このひたすらに笑い続ける幽霊の恐怖描写は当時も賛否両論を巻き起こし、そのモチーフや反省点を生かした同スタッフの次回作が「リング」であり、さながら近代Jホラーの雛形と呼べる記念碑的作品。
撮影所の空気感や裏方の描写が秀逸で、ホラー映画であると同時に舞台裏ものとしても楽しめたり、幼少期に見た詳細不明の映画の記憶という映画好きでなくともあるあるな体験がテーマになっていたりと、制作陣の並々ならぬ映画愛に満ちた作品なのもチェンソーマンポイント。
ハリウッドリメイク版の「THE JOYUREI」もクソ映画好きならマスト。

9.ジェイコブス・ラダー(1990)

原作者のお気に入り映画その4。
ホラーゲーム「サイレント・ヒル」に多大な影響を与えた作品。
「さよなら絵梨」や「ファイアパンチ」さながらに『今まで○○だと思ってたのが実は××だった…』と劇中の主観的事実が二転三転する度に作品の方向性までもが変容してしまう、いかにも原作者好みの多ジャンル横断作品であるのも特徴。
元ネタは天からの御使いが階段に座っている場面であり、まさに旧約聖書のジェイコブス・ラダー(ヤコブの梯子)そのもの。
御使いを演じたのは同年主演した「ホーム・アローン」で大ブレイクし、その後の私生活で地獄を見ることになるマコーレー・カルキン。

10.コンスタンティン(2004)

元ネタはゼロ年代を代表するスタイリッシュ悪魔祓い映画。
キアヌ・リーブス演じる主人公は映画の開幕からどこかのアキさんよろしく「近々おまえ死ぬやで。ちな地獄行きな~」と最悪な余命宣告をされており、その回避に躍起になっている。
作品全体を通して喫煙が大きなキーワードになっているのもポイント。
また画像でいい感じになってる二人は結局……もはや何も言うまい。

11.ビッグ・リボウスキ(1997)

コーエン作品その2。(タラ公通算5作目)
同監督の中でも一等つかみどころのない怪作。
日がな友人たちとボーリングばかりしてる無職ダメ男の主人公が、同姓同名の大富豪と間違えられて家を荒らされたので、汚された玄関マットの弁償を求めてその富豪宅に直訴したところ、富豪妻の誘拐事件に巻き込まれる…といった調子で脈絡があるようでない無駄に込み入った筋のドタバタが延々と続く。
元ネタはボーリング大会で主人公の対戦相手(性犯罪者)が自球を磨く時のポーズ。

本作にはチェンソーマンのNo.1ヒロインことパワーのモデルになった(作者談)キャラクター、ウォルター・ソブチャックが登場することでも有名。

こいつワシじゃないか?

主人公(反戦派)の友人でベトナム帰り。「ここはベトナムじゃない、ルールを守れ!」とやたら人に銃を向けるが発砲はしない。
見た目や言動は保守派そのものだが人種差別には配慮する、ユダヤ人でないがユダヤ教徒、主人公が巻き込まれた誘拐騒動にも勝手に絡んできて事態をさらにややこしくするのを繰り返す。
一言でいうと頭パワーなトラブルメーカーで、支離滅裂なこの作品を象徴するカオスの権化。その精神性は見事にパワ子に引き継がれているのは言うまでもない。
さらに元を辿ればウォルターの人物造形にもモデルが存在し、それが映画監督のジョン・ミリアス。つまり「コナン・ザ・グレート」や「地獄の黙示録」はワシの作品じゃ。


しかしこの映画、筋だけ見ればまるで素人のリレー小説だが、これがアメリカ古典文学のハードボイルド小説のパロディであることを知ると途端に合点がいく。
同ジャンルの有名作を何冊か読めば分かるが、向こうの探偵ものは基本的に展開が無駄に込み入って錯綜しており、それがまた緻密に計算された構成と言うよりゴールだけ決めて後はライブ感で突っ走ったと言わんばかりの筆致で、その行き当たりばったり感は小説版チェンソーマンのパワ子探偵回なぞ比較にならない。
同じプロットをジャンプ編集部に持ち込めば、「もっと読者のことを考えろ」と秒で門前払いか、急展開に次ぐ急展開で瞬発的な面白さに全力投球なその姿勢を買われ即連載決定かの二択だろう。
そんな古典のおかしみを丸ごとパロディして茶化した作品が「ビッグ・リボウスキ」なのである。
こう書くととんだクソ映画めいて聞こえるが、巨匠コーエン兄弟の類まれな構成力によって普通に面白おかしく観れる作品として成立してしまっている、実に珍妙な味わいのカルト作。
つまりワシはパロ元のライブ感少年漫画性を体現した存在と言えるのオ~。




どうじゃ、ワシの出とる「ビッグ・リボウスキ」は!
ウヌも早速ビデオ屋に行きたくなったじゃろう?

は? 他の元ネタ解説?
これは「ビッグ・リボウスキ」の紹介記事じゃ。
ウヌの頭は故障しとるのか?

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