小説 蒼猫のファンタジア~携帯小説~
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1章|人間に興味を持てない子どもの育て方
1-1|人間関係
雪がちらつく小さな道で唯一の友だちが死んだ。交通事故。三歳のわたしには厳しい現実だった。人との接し方が分からないわたしが、唯一心許していた存在。人の気持ちが理解できない。父親と母親が考えてることが分からない。ましてや、この家の家族構成も。
死んだのは飼い猫。こたつの中でじゃれ合ったり、縁側で日向ぼっこをしたり。生まれつき人間関係に悩んでいた私にとっては、心の支えだった。庭に丁寧に土葬すると、幼いながらに死の重大さを理解した。生き物は一度死んでしまうと、もう二度とその温もりを感じることはないのだと。
棟梁の家。祖父母と両親には大きな溝があった。母親は悩み、いつも父親がその仲裁に入っていた。嫁いびり。昔田舎の当然のようにある光景だが、目の当たりにしてはいつも耳を塞いでいた。祖父の横柄な態度、祖母の人を馬鹿にするような目、母はそんな態度にうんざりしていた。
1-2|経済格差
父親は四人兄弟の長男。長女は嫁ぎ、本家にはいないが祖父母と同じ体質の女。学歴重視で、勉強ができない奴はクズ。クズは生きる価値がない。そんな思想で生きている。婚約相手は当然のように学歴で選ぶ。だって、頭が悪い奴と結婚すると、子どもの頭が悪くなるでしょ?そんな人。
父親は人格者。祖父母を完全に反面教室として捉えている。あんな人間は、これからの世界では受け入れられない。もっと寛容にならなければならない。だが、祖父母への感謝は怠らない。できることなら改心して、家族がみんな円満に過ごせるようにしたいと尽力する。頭が下がる人間だ。
女は家のことをしていればいい。お前はこの家に嫁いできたんだろう。嫁いだ癖に碌なものも準備できない家で育った女を養っているんだ。その意味を分かっているのか。お前の母親の教育を疑うぞ。幼いわたしの前で母親が罵られている。意味が分かるわけではなかったが、心地がいいものではない。
1-3|知能優劣
そんな環境でわたしは幼少期を過ごした。次第に人間への恐怖を感じるようになり、お金を持っているかどうかで人を価値づけるようになる。お金がないと人から馬鹿にされ罵られ、辛い思いをしなければならない。家族にまで迷惑をかけてしまう。そんな先入観を刷り込まれていく。
三歳のわたしは、子どもながらにこの世界の不条理を学び、祖父母と父親を対照の天秤にかけ考えさせられる。どちらが正しいのか判断がつかないわたしは、次第に人間観察をするため口を塞ぐことになる。言葉は人を傷つけるもの、傷けられるもの。そんな凶器にすら感じていたのかもしれない。
無口になり感情を表現しなくなったわたしは、皆から不思議な子どもとして扱われが、祖父はわたしのことを気に入っていたようだ。利口だからだ。五歳のときには時計算を自由に操ることができ、数字にはかなり強かった。そんなわたしを祖父は誇らしげにしていた。さすが儂の孫だと。
1-4|人間嫌悪
家族の中でもわたしは優遇された。棟梁だった祖父はわたしのために部屋をつくり、たくさんの辞典を買い与えた。将来を期待した上で投資をしたのだろうか、それとも孫可愛らしさに買い与えたのだろうか。亡き祖父から聞き出すことはできないが、一人その事典を眺め楽しんでいた記憶はある。
わたしが四歳のとき弟ができた。子どもながらに赤ちゃんってこんなにも愛しいのだと、そして話し相手ができたことが嬉しかった。口を開くと否定されるんじゃないかと、話さなくてもわたしのことは理解してくれているんだと勘違いしていた。大人も子どもも、わたしのことをみんな知っている。
保育園では風変わりな子だった。友達と遊ぶのが嫌いなのだ。人と話すのも嫌い。そんなわたしは、休み時間になると一人時計とにらめっこしている。園庭のブランコに一人で黄昏たり、タイヤの中に隠れたり。なるべく人から離れようという努力は人一倍していた。
1-5|病弱体質
保育園の先生は、いつも一人ぼっちのわたしを見て、友達作りを手伝ってくれるけど余計なお世話なんだよ。人は傷つける生き物。祖父母の印象が強く脳裏に貼りついて離れることがない。傷つくために人と関わる?そんな疑問だけが頭を過る。可愛そうなのは、人と関わっている君たちなんだよ。
冷めた目で子どもたちを見る。まるで感情のない化け物のよう。少し目を合わせると背を向け、自分が好きな積み木遊びを始める。人間の子どもには全く興味を持てない。そんなわたしは、好かれるでも嫌われるでもなく、次第に空気のような存在になっていく。そんな子いたっけ?
そんなわたしが小学校に進学すると、気になる子ができる。人間の子どもで初めて興味を持てた。女の子だ。病弱で休みがち。飼い猫が死んだことが蘇ったのか、命の尊さを感じさせられた。早くよくなって戻ってきてほしい。そう願うようになり、学校帰りにお見舞いに通う日々が続く。
1-6|小児糖尿
彼女は小児糖尿。インスリンを投与し続けなければ生きることができない。学校を休みがちなのはそのせい。学校で注射器を出すのが嫌らしい。小児糖尿は完治が難しく、一生抱える病気だという。運が悪ければ死んでしまう恐ろしい病気なのだ。
わたしはそんなことも知らずに、彼女にお菓子を差し入れたことがある。無邪気に差し出されたお菓子を手に、彼女が何を思ったのか。胸が痛む。笑顔でありがとうと、感謝を述べさせてしまったことが心残りだ。そう、彼女は亡くなったのだ。突然死だった。
彼女の死は、瞬く間に学校中へ広がった。彼女に想いを寄せていた男子も少なくなく、悲しくなんてないといいながら、大粒の涙を流している。これでわたしは、若干七歳にして大切なものを二つ失った。人の死というのは、人の心を大きく動かし、そして、人生を大きく狂わせるものなのだ。
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