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61「MとRの物語(Aルート)」第四章 2節 竜の秘密(4)

今回も少し粗削り。
でも今回は、寝かせてどうにかなるものでもない気がするし、
あまり時間もないのでこのまま投稿。
Mは「現実とは滅びの連続」と思っていたっぽいけれど、
そのアンチテーゼとして、「滝をのぼる鯉」を、
今後描いていってみたい。
(目次はこちら)

「MとRの物語(Aルート)」第四章 2節 竜の秘密(4)

M……。
私は前世における、少年時代のあなたのことを、忘れられない。

あなたは本当に美しく、利発な少年でした。
のちにあなたが書いた、「豊饒の海」という小説における、

 松枝清顕(まつがえ きよあき)、

  飯沼 勲(いいぬま いさお)

          そして     安永透(やすなが とおる)

妖しくも美しい、清顕と勲は、きっとあなた自身の、
少年の頃がモデルなのでしょう。

そして透は、あなたの青年時代、鬱屈してひねくれたあなたの象徴。

その間に位置する芳醇な太古の海が、R。
すなわちそれは、あなたのかけがえのない妹。

あなたの妹の、突然であっけない、あまりにもはかない死を、
あなたはきっと忘れられないと思って、
私はその記憶を、あなたの中に、永遠に封じ込めることにしました。
「記憶の鍵」を使って。
ただしそれは、あなたが自刃した後のこと。
最愛の妹の死から、自らの死まで、あなたの生はまさに地獄。

妹の、死の際に発した、「お兄ちゃま、どうもありがとう」、
その言葉に、あなたは号泣しましたね。
病院の、廊下のすみでそれを聞いた私も、
大粒の涙を、流さずにはいられませんでした。

その後、長い長い時間がたった時、
ある雑誌記者が、あなたに質問しましたね。
「泣かれたことがありますか?」と。それにあなたは答えましたね。
「昭和二十年に妹が死んだとき以来泣いたことはない」と。

そしてその1年後の、あなたの自決……。

私にはわかりました、あなたの自決の理由。
ひとつ、転生後の妹との邂逅を信じ、「日輪」を夢見ていたこと。
ふたつ、作家としての限界を感じたこと。
その作品が、妹の死という現実を超えられなかった後悔。
みっつ、あなたがインドのベナレスの取材で見た壮絶な風景、
「人は死んだら土に帰るしかない」という耐えられない事実。

くわえてあの頃の日本への憂いや何やらがすべて混然となって、
あなたは死を選んだのでしたね。私はその事を、とがめない。

一つ不思議だったのは、
完全に、「あの世」の記憶を消去したはずのあなたが、
「阿頼耶識」に執着し、執拗にそれを、したためたこと。
それは私の知る「あの世」のしくみに、非常に近いのですけれど、
どこか微妙に異なる。その理由がわからず、不思議に思いました。

でも今、少しわかった気がします。
あなたは、さまざまな可能性の全方向から、
亡くなった最愛の妹との、再会の可能性を、探っていたのですね。

あなたが純粋に、強くのぞめば転生は可能かもしれない。
ただ、それが本当に純粋でなければならないのだとしたら、
それは無意識のさらに奥に隠れひそむ、
「阿頼耶識」が望んだものでなければならない。
阿頼耶識とは、あなた自身の本質であり、「太古の竜」でもあり、
妹との再会を実現するための、
「無我」、「真理」、「この世の理」でなければならなかった。
そして、あなたは美しくもあらねばならなかった。
強くもあらねばならなかった。

すべてが溶け合い、そして成就した、1970年、11月25日。
あなたはその最後の最後まで、
「意志の力が現実を変えるはず」という、
信念を持っていましたね。
でも、それは叶わなかった。

なぜなら、あなたの妹の魂はその頃、
あなたを探して、この世界をさまよっていたから。
あなたはあの世での妹との再会を期待する前に、
もっと周囲に、注意を払うべきだったのですよ?

あなたが去り、残されたあなたの妹は、
この世の暗がりで、
やさぐれた男達が吐き捨てる負のエネルギーを細々と食して、
生きながらえた。
私は何度、あの子の魂を救済してあげようと思ったことか。
でもあの子がそれを拒絶したの。
大切なものを失ったことを認められない霊には、よくあること。

時代は平成を迎え、Rちゃんが生まれた。

子供の頃からつらい経験をしたRちゃんは、
母親譲りの、「能力」をもっていた。
それは、常人には感じることもできない、「霊体」を見る能力。
都会の片隅にさまよい、やつれ、ボロボロになっていたあなたの妹を、
Rちゃんが見つけ、救ってくれたの。
Rちゃんの身体の中には、あなたの妹の魂も宿っている。
だからあなたには、Rちゃんの魂が、見つけられたのかもしれない。

どう? 少しは理解できた?
あなたの妹を閉じ込めた扉の、「記憶の鍵」だけは渡せないけど、
これだけ教えてあげれば、もしかしたら思い出せるかも?
あの時の絶望を。あのときの神への、そして全世界への、
全宇宙への復讐心を。

いいのですよ。あなたが望むなら、その力を、
あの竜の持つ力を解放し、私を、そしてこの宇宙を滅ぼせばいい。

<つづく>

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