【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)⑮(加筆修正版)

 日曜日、前回の二の舞を演じるわけにはいかないので、カズマサは注意深く来た道を戻った。一度駅まで戻って反対側に向かうのだ。住宅街は日曜日だというのに静かだった。カズマサ以外に通りを歩いてる者はいない。家の庭先にさえ人影はなかった。

 駅までの道のりでカズマサはミュージックプレイヤーを聴かなかった。なんとなく忘れていた。その分、風の音や周りの生活音が聞こえるはずだったが、まるで世界が静止したかのように何も聞こえてこなかった。けれど突然、何の前触れもなく、カズマサの頭の中で音が鳴り響いた。あのメロディだ。カセットテープのメロディ。もう何日も聴いていない、あのカセットテープのメロディ。ここのところは『ガールフレンド』に夢中だったせいもあり意識の表面ではメロディを忘れていた。けれど意識の奥底か無意識のどこかにあったその音は、頭の中で鮮明にリアルに奏でられていた。その瞬間、カズマサには景色が一変したように感じられた。見えている世界は何も変わっていないのだが、何もかもが変わっってしまっていた。そんな気がしていた。どこかに世界をそっくり入れ替えるスイッチのようなものがあり、それを押した瞬間に世界が変化する。どこが変わったのかはわからないが、確かに何かが変わっている。カチッという音を立て、ずれていたパーツがうまく合わさる、そんな様子だった。世界が入れ替わった?どこかと?そんな自問自答をカズマサがしてしまうような変化だった。

 カズマサは辺りを注意深く確認した。変化はない。確かに変わったはずなのに。

 これは勘違いなのか?それとも身体の調子が悪いのか?今度は自分自身を疑ってみた。目の前で両の掌と甲を何度もひっくり返してみた。靴先で地面を叩いてみた。どうやらそれは自分の知っている世界のようだった。瞬きを数回して、自分の目に問題がないかも確認してみたが、別段悪い所はなさそうだった。ただの思い違いかもしれない。けれどカズマサは到底それでは説明できないほどの変化を肌で感じてしまったのだ。もう二度と以前の世界には戻れないのではないか、そんな変化を感じてしまっていた。

 いつの間にかTシャツは汗でぐっしょりとしていた。すでにあのメロディは再び記憶のどこかに消え去っていた。カズマサは首を左右に数回振り、正気を保とうとした。心臓の鼓動は外に聞こえるのではないかと思えるほど激しく打っていた。カズマサは大きく息を吸い込み、ゆっくり吐いた。何度も同じことを繰り返すうちに、少しだけ楽になってきた。身体からも緊張が抜けいつものように動かせるようになった。大きく息を吸い込み、試しに数歩歩いてみる。大丈夫そうだ。気分も良くなってきた。一歩一歩確かめるようにカズマサは歩き出した。(続く)

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