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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #18.0

「正確ではないかもしれないけど、どうやらビギーが誘拐されたらしい」

「え、うそ、ほんとに、私達より先に?」

大きな目を丸くして、画面を見つめるドレラ。

「うん、まぁ、僕たちのことは置いといて、結構騒ぎになってるみたい。警察も動いてるし、懸賞金みたいのも出てるっぽい」

「えー!すごい!」

なんだか楽しそうですらある。予想外というか、もっとパニックになったり大騒ぎするのかと思ったんだけど。遠い国の話で実感できないからだろうか。

「え、じゃあ見つけたって名乗り出たら賞金も貰えて、イギーにも会える?」

「いや、そっち?会えるだろうけど、そもそもビギーを見つけないと・・・」

「あ、そうか!」

僕の中で少しずつドレラの印象が変わってきて、そしてほんの少しだけわかってきた気がする。本人はすべてにおいて、いたって本気で真面目なんだけど、傍から見たらちょっと天然を感じるのだ。ただそもそもの根っこの部分では本心なのかちょっと演じてるのかまではわからないけれど。

「どうする?ビギー探しにいく?」

これもおそらく大真面目だろう。

「いやいや、全米中が探してるんだよ、ていうかすぐにアメリカに行けないし。僕らでどうにかなる話じゃないでしょ」

「そうかなぁ」

残念がるドレラ。ふいに何かを思いつく。

「あ、じゃあ、私達のあのツイート疑われてるんじゃない」

「あ!!!」

急に血の気が引いた。確かにピギー誘拐を疑われる内容だ。堂々と誘拐するって言っている。もしかしてあのツイートが元で指名手配とかされてたたらどうしよう。世界中からマスコミが僕の家に押し寄せ、TVやネットで放送、配信され、世界中からバッシングされ、家族にも迷惑をかけ、人生がめちゃくちゃになるところまで想像した。悪いことは簡単に想像が働く。

恐る恐るツイッターを開く。急に喉がカラカラに乾く。クリックする手が震えた。ドレラはどうなっちゃうだろう、隣に座る彼女は無邪気に画面を見つめている。彼女を守ることはできるだろうか。頭の中がこんがらがってきた。

自分のアカウントから件のツイートを確認する。昨日の時点では何の反応もなかったが、果たしてどうだろう。

「あ、いいねが付いてる、コメントも・・」

「なんて、なんて?」

なんだか楽しそうな彼女。ことの重大さに気づいてないのだろう。いや、そうか、僕のアカウントだし、僕が責任を負えば、彼女には何の迷惑もかからない。そう思えば少しだけ気が楽になった。いや、まてよ、何をそんな正義のヒーローぶってるのだ、僕は。もとはと言えば彼女の依頼に答えた形じゃないか。強要されただけだ。ナントカ強要罪とかになるんじゃないか。いや、それは男として最低だろ。ますますわけがわからなくなってきた。僕はどうしたら・・・。

悩んでいたら、彼女が突然僕の右腕に手を重ねてきて、僕は文字通り飛び上がってしまった。驚いたドレラはすぐに手を引っ込めた。

「ちょっと、そんなびっくりしないでよ。なんか固まってるからクリックしようと思っただけなんだけど」

「ご、ごめん、ちょっと、こ、怖くなっちゃって」

「私が?」

「いや違う違う、このツイートが原因で逮捕されたりするんじゃないかって」

「え?なんでなんで?そんな大変なことなの?」

今回ばかりは彼女の純粋さが余計に僕を不安にさせた。

「昨日も言ったけど、なんか授業とかでもやったりしたでしょ、悪質な書き込みで逮捕だとかなんだとか」

「昨日は大丈夫って言ってたじゃん」

「大丈夫って言ってたのはドレラでしょ!」

僕は少しムキになって言い返してしまった。

「なんかごめん」

「え、あ、いや、こっちこそごめん。ちょっと不安になっちゃって。まずは見てみよう」

そう言って僕は、先程ドレラが重ねた手の感触が残る右腕でマウスをクリックし、コメントをチェックした。

コメントは全部で4件。ニュースが配信されてから7、8時間は経過しているだろうから、冷静に考えればもし問題になっていたらそんな数では済まないだろう。僕は少し落ち着きを取り戻した。そして再び翻訳機能などを駆使しながらコメントを読み解いていった。

一つ目はすぐに理解できた。いくつかの、俗に言う4文字言葉が並べられているもので、これは訳さなくても平気だった。まぁ罵詈雑言ってやつだろう。簡単に言うとふざけるなよガキが、みたいな感じだと思う。

残りも大差ないといえばない感じで、「日本のお子様がふざけてる場合じゃないよ」といった、諭すようなもので、誰も真剣には受け止めていなかった。

ここまで確認して、ようやく僕は安堵することができた。ただ、今後問題にならないとも限らないので、ドレラに伝えた。

「本当にビギーが誘拐されちゃったってのもあるし、疑われかねないから、念の為削除しようと思う、いい?」

ドレラの答えは拍子抜けするほどあっさりしていた。

「うん、いいよ」

「でも、イギーに会う方法が無くなっちゃうよ?」

もともと可能性があったのかと言えばもちろん無いに等しかったけれど、それでもこう言うしかなかった。

「うん、大丈夫。また考えればいい」

「うん、一緒に考えよう」

(続く)














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