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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #42.0
翌朝、僕はいつものように起き、その後はダラダラとした日曜日を過ごした。ドレラからの連絡はなかったけれど、イギーへの手紙を、そしてドレラのことを考えているうちに一日が終わってしまった。
そしてまた月曜日、学校が始まる。学校に向かう電車のなかで土曜の夜、部屋に来た(この言い方で合っているのかもわからない)ドレラのことについて考える。おそらくあれは夢だったのだろう。そうでなければ説明できない。けれどそこには何か違和感があった。現実ではないけれど夢とも言い切れない、そんな宙ぶらりんの感覚がそこにはあり、朝起きてからもその感覚は残っていた。そして、ミキモト君の言っていたことを思い出す。そう、彼も光る彼女を見たと言っていた。彼も夢か現実かわからないような状況だったのだろうか、ほとんど信じずに適当に聞いていた自分に少し腹が立つ。といってもこんな話を急に聞かされて信じる方が難しいだろう。ドレラに直接聞くのはもっと難しいだろう。というか変なやつだと思われかねない。だからやっぱり僕が見たのは夢なのだ、間違いない、そう自分に言い聞かせて納得することにした。そんなもやもやした気分でいつもの駅を降りると、改札を出たところで後ろから僕を呼ぶ声がした。
「おはよ、キネン君」
本物のドレラだ。以前と何も変わらないドレラだ。けれど夢のことがあっていつも以上に挙動不審になってしまった。
「お、おはよう、浅野さん」
「どうしたの?なんか変」
「そうかな、いつも通りだよ」
「もしかしてイギーへの?」
「いや、それは別に。ただ、まだ全然できてないけど」
「ふうん。私も土日、何だか眠れなかったんだよね」
まさか関係ないとは思うけれど、夢の中のドレラを思い出す。ドレラにそのことについて話してみようかとも思ったけれど、やめておいた。
「あ、一緒に学校行って平気?」
「大丈夫、昨日キミオに話したから。だから放課後に会ってくれる?」
「うん、もちろん」
一度面通ししてるわけなんだけど、大丈夫だろうか、恐らくキミオ君ならうまくやってくれるだろうけど。むしろ僕自身がちゃんとやれるか心配だった。
「ねぇ、ちょっと待って」
「どうしたの?」
「戻ってる」
「何が?」
「名前」
「え、そう?」
「うん、浅野さんて言った。駄目だからね。次に浅野さんて言ったら返事しないからね」
「はい」
「よろしい」
そう言うと、満足そうな表情を僕に向け、先を急ぐように歩いた。そのままの勢いで下駄箱に靴を入れ、僕を置いてけぼりにするように、教室へ向かう。後を追うように僕も続くがドレラの姿はすでに廊下にはなかった。教室に入るとすでにドレラは席に着いていて、いつもの「クラスの浅野さん」になっていた。別に取り決めなどがあるわけではないけれど、僕はそれを察知し、彼女の領域を侵犯しないようにした。その見えない壁というかバリアのようなものを僕がこじ開けようとは思わないし、そんなことができる人間でもない。彼女の方を見ないようにして、僕は自分の席に向かった。
午前中の授業をなんとなくこなすと、当然のように昼休みになった。合図をしたわけではないけれど、僕らはそれぞれ教室をこっそり抜け出し(別に誰も気にしてはいないのだけど)、屋上へ向かった。
屋上にはこれまた約束したわけではないのに、ミキモト君がいて、仁王立ちで僕ら二人を待ち構えていた。僕らが来なくてもずっと仁王立ちでいたのだろうか、いや彼ならしていたと思う。
「さて、お二人さん、あなた達を呼んだのは他でもない…」
「ビギー撮れた?」
話を遮り、ドレラが訊ねる。僕なら、呼ばれてないから始まって、面倒なやりとりが増量してしまう。もはや僕よりミキモト君の扱いが上手いかもしれない。
「撮れたもなにもばっちりですよ」
ポケットからスマートフォンを取り出し、もったいぶるような動作で画面を僕らに向ける。
「いつからそんな髪の青い美少女になったのよビギーは」
「あ、これは違います、僕の待ち受けです」
慌てて画面をタッチし、動画を立ち上げる。今度は間違いなくビギーの姿が映っていた。
「ちょっと見ながら、音にも注意してください」
僕らは画面を見つめながら音声に集中した。画面の中のビギーが一旦翼を広げるような動作に入る。それは、なにかの準備をしているようにも見えた。
すると、画面の中のビギーが歌いだした。僕達はその歌声を曲が終わるまで聞き続けた。動画の再生が終わると、ドレラが口を開いた。
「私、聴いたことあるかも」
「イギーの曲?」
「いや、違う。イギーの曲じゃない、けどどこかで聞いたことのある曲。どこだろう、誰の曲だろう?」
「僕も帰ってから調べたいから動画のデータ貰えるかな?」
「もちろんです」
その場でデータのやり取りをし、僕のスマートフォンにもビギーの歌う動画が入った。
「ドレラさんはどうします?」
「私は記憶したから大丈夫」
「え、すごいですね、絶対音感とかあるんですか」
「いや、そういうわけじゃないけど、スマホ持ってきてないし」
昼休みが終わりに近づいていたので、僕らは教室に戻ることにした。ドレラは曲を思い出す、僕は調べることを約束し、ミキモト君には引き続きビギーの様子を動画に収めてもらうように頼んだ。
教室に戻り着席すると、すぐにドレラからメールが届いた。さっきの動画をもう一度見たい、という内容だった。こんな近距離でメールのやり取りをするのも何だか不思議だけれど、もちろん断る理由は何もないので、すぐにオーケーの返事をした。
(続く)
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