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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #57.0

さらに言えば、アルバイトをしてるわけでもないので、なにか策を考えなければならない。丁度よい提案といいながら、それすらもうまく叶えられない自分が情けない。そして、その策というのも昼食代を切り詰めるしかないとわかっているので尚更だ。

「じゃあ、契約成立ですね。謹んで依頼をお受けします。誠意を持って仕事に取り組みたいと思います」

そう言うと、キミオ君がおもむろに僕に近づいてきて、ドレラに聞こえないであろう小さな声で、僕に伝えてきた。

「星野さんのおかげで、家でもドレラが以前より話すようになりました。楽しそうにしているときも増えた気がします。僕としては、もうそれだけでお礼なんていらないくらいです。むしろこちらからなにか差し上げたいくらいですよ」

「いや、そんな。そもそも僕というよりも、イギーやビギーが理由だと思うけど」

「いや、それも星野さんの存在があってこそですよ」

「ちょっと、なに二人でこそこそやってんのー?私に言えない秘密の話?そういうのよくないと思いまーす」

「いや、さっきの約束、大盛りにしていいか確認してただけです」

「え、なんかせこいっすね、我が弟よ」

「だから聞こえないように話してたんじゃないか」

キミオ君がドレラに見つからないように目配せしてきた。なんて素晴らしい弟かつ後輩なのだろう。

「では、部活が終わってからとりかかることになると思いますので…」

「え、今日中とかじゃなくていいからね、お姉さんのため、とかも考えなくていいので」

「お姉さん、ですか。星野さんのそういうところ、嫌いじゃないです。じゃあ、なるべく早くということで。出来上がったら姉に渡しますね」

微笑むキミオ君に再度お願いと感謝を伝える。彼は丁寧にお辞儀をすると、そのまま階下へ消えていった。ドレラも飼い主について回る子犬のように、キミオ君にまとわりつきながら一緒に降りて行った。

はたして、この選択が正しいのかどうかもわからないけれど、やれるだけやってみようと思うし、キミオ君を、そしてドレラを見ているとなんだかうまくいきそうな気がしてきた。

さて、屋上に一人残された僕がしなければいけないことは、この場所の調査だ。ミキモト君がどこかに潜んでいる可能性がある。彼の潜伏能力は圧倒的といっていいし、彼の最も秀でた能力といっていいかもしれない。

僕は慎重に、そして注意深く周辺を見回した。校舎の陰、ベンチの下、死角となりそうなところはチェックしたが、彼の姿はなかった。僕は安堵してベンチに腰を下ろした。空を見上げると、そこには小さな白い月が、なにかのシミのように浮かんでいた。

この後の展開をうっすらと想像してみる。可能性は、低いかもしれない。でもイギーに近しい人が、なんとなくでも、たまたまでもいいので、僕たちのメッセージ、というよりビギーの姿を見てくれさえすれば、何かが起こるかもしれない。そんな、か細い糸を辿るように進んでいくしかない。それでも何もしないよりかははるかにましだし、何よりドレラが喜ぶなら、何パーセントかの可能性とかも関係なく、やるしかないと思っている。

ふと、そういえば、ビギーと僕たちが一緒にいる画像や動画がないことに気づいた。イギーの信用度を上げるためにも必要だ。スマートフォンを取り出し、ドレラに今日の帰りにビギーに会いに行こうという内容のメッセージを送った。こんなにも簡単にドレラを誘う機会を与えてくれるビギーに感謝するべきなのかもしれない。

返信がすぐに来る。もちろんオーケーとのことだった。僕は小さくガッツポーズをした。

「どうしたんですか、そんなに喜んで」

「うわぁ」

僕は思わず大きな声を出してしまった。後ろに、ゼロ距離に、ミキモト君が立っていた。

「どうしたんですか、そんなに驚いて」

「いや、急にいるからだよ。もしかして、ずっと屋上にいたの?」

「いえ、今来たところです。いつも屋上にいるわけではありませんよ」

いつからそこにいた?疑いの目を向けつつ、慎重に探りを入れる。申し訳ないが、今日はドレラと二人で行動したい。

「そういえばさ、ミキモト君、今日はバイト?」

「いえ、今日は休みです。また店に何か用事でも?」

「いや、別に。まぁ、バイトだったらビギーの様子をまた教えて欲しいなって思っただけだよ」

「なるほどなるほど。大丈夫ですよ。あの辺は高級住宅街ではありますけど、そんな簡単に売れませんよ、安心してください」

「あの辺」にはミキモト君(とドレラ)の家も含まれているんだろうけど、何も言わずに頷いておいた。

「そろそろ授業が始まるから戻ろうか」

するとミキモト君が怪訝そうな顔で僕の持つ袋に目を向ける。

「食べないんですか、それ?」

「あ。」

すっかり忘れていた。せっかく買ったのに。仕方ない、次の休み時間に食べよう。

「別に欲しがってるわけじゃないですから安心してください。僕は先ほど、

「焼きそばパンとメロンパンとツナサンドと・・・」

彼を置き去りにして、教室へと戻った。すでにドレラは席にいて、本を読んでいた。

(続く)











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