【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #11.0
「送・・・ったよ」
「よし」
彼女はすでにうまくいった気になって鼻歌を歌いだしていた。僕にはそれがイギーの曲なのかどうかはわからないけれど、たぶんそうなんだろう。イギーの歌を鼻歌で上機嫌で歌う、女子高生。これも自信はないけど世界にそれほどいないだろう。
「ホント、イギーが好きなんだね」
「そうよ、悪い?」
「いや、悪くないけど、普通の女子高生は、普通アイドルとか売れてるミュージシャンとかを好きになるもんなんじゃない?いや、イギーが売れてないってわけじゃなくて、もっと、ほら・・・」
「若くてイケメンの?」
「うん、そう」
「私、見てくれで人を好きになったことがない。そもそもタレントもミュージシャンもよく知らないし」
彼女が見た目で人に好意を抱かないことを聞き、少し安心している自分が情けない。
「そもそも普通って何?それがよくわからない」
「普通っていうのは、そうだな、僕みたいな人間のこと。秀でた部分がなくて平凡な人たちのこと」
「あなたがそう思うのは勝手だけど、一緒にされた人たちはたまったものじゃないわね」
どうやらお気に召さなかったようだ。
「自分は普通だって言うのは、自分をその枠に押し込んでるか、自分を卑下してるだけだと思う。自分は普通、平凡だって。それは呪いの呪文。それを自分にかけるのは自由だけど、まわりの人にもかけるのは違うと思う。ていうかそれによって自分を安心させてるだけだと思う」
僕は彼女を見れなくなってしまった(もともと見れなかったけど、より、だ)。
「だから私は普通っていうのはわからない」
「で、でも特技があるとか何かの才能を持ってるっていうのは間違いなくある・・よね・・?」
「そうね。でも人間はそれぞれ何かしらの才能を持っていると思うわ、それに気づいて使えるかどうかじゃない?」
「イギーはどうなの?」
「イギーの一番の才能は自分を信じて疑わなかったことだと思う。そして何でも実行したところ。「お前らがやらないんなら、俺が先にやらせてもらうぜ、一番に!」って感じで。そして、イギーが最高なのは当たり前のことだけど、イギーの表現を誰かがやろうとしてもそれは無理な話。誰にでもできることじゃない。その人が積み重ねてきたもの、その人が持っているものを総動員して、紡ぎ出したものだから。だからこそ他の人に響くんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ、ド、ドレラは?」
僕は思い切って聞いてみた(そして思い切って名前で呼んでみた)。
「私は・・・まだわからない。だからそれを探してる最中。見つからなかったとしても、それを探してるってことが大事だと思ってる」
「そうなんだ」
実に彼女らしいと思った。彼女の行動力というか強引さはきっとこんなところから来てるのだろうと思った。
「キネン君もきっと自分が知らないだけでいろんな力を持ってると思うよ。そ、その、私のワガママに付き合ってくれてるし、力になってくれてるし」
「そんな・・・別に」
きっと彼女なりの励ましなんだろう。ワガママだと自覚していたことが新たな発見だったが、それどころではなかった。
「いや、僕も楽しんでるし、君の力になりたいって思うよ」
「ありがとう」
彼女のありがとうには説得力があり、心からの感謝が込められているような気がする。自分はこんなふうに心からのありがとうが言えるだろうか。彼女と一緒にいれば少しは言える人間になれるかもしれない、そんな風に思えた。
隣の席の親子はとうにいなくなっていて、今はサラリーマンが一人、ケータイ片手にアイスコーヒーを飲んでいた。いつのまにか周りの客層は変わっていて、大学生のカップルとか、二人組の男女が気弱そうな男性に何かの勧誘をしているテーブルとかに変わっていた。夕方のファミレスはこんな感じなのだろうか。
「ねぇ、何か反応あった?」
「え?あ、ちょっと待って」
そうだった、かなりよろしくないことを僕たちはしていたんだった。スマホで先程のツイートに反応がないか確認してみる。
「うん、まだ何も反応ないね」
せめて「いいね」くらいはあっても良い気がしたけど、ピギーを誘拐するのに「いいね」する人間がいたら、むしろイギーのファンとしても人間としてもまずいだろう。
「もうちょっと待ってみるしかないわね。うーん、今日はこれくらいかなぁ」
「そうだね、ちょっと待ってみよう」
「じゃあ、第一回ミーティングはこれで終了だね。次までにまた作戦考えておいてね」
「そうだね、ツイッターがどうなるかも気になるし」
最初作戦会議って言ってたきがするけど、そんなことよりも二回目があることに僕の心は弾んだ。店を出る前に、何かあったらすぐに連絡できるようにと連絡先を交換した。女子と連絡先を交換し合うのは、目的はともかくだったけど、初めてのことだった。僕は名前をドレラで登録した。
(続く)
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