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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #67

「そう、その続き。イギーから新しいメッセージが届いたんだ、それを見て欲しくて」

僕はイギーが映る画面をミキオ君に向けた。

「なるほど、通訳しろ、と」

「その通りです」

ドレラが割って入る。

「いいですけど、正確にできるかはわかりませんよ?」

「大丈夫だって」

「いや、そんな勝手に判断されても」

ドレラがミキオ君の脇腹に肘を入れる。じゃれ合う二人というかミキオ君に嫉妬しそうな自分が情けない。

「ま、やってみますね。お借りします」

ボリュームを上げてから、スマートフォンをミキオ君に手渡す。ミキオ君はそれを丁寧に受け取る。ドレラは右側、僕は左側に並んで立ち、三人で画面を覗き込む態勢を取った。彼は、軽く息を吸い込み、ドレラの方を一瞬だけ見てから、そっと再生ボタンをタップした。

画面の中のイギーが語り出す。一つのブロックごとに停止して、ミキオ君が通訳してくれた。

「ハロー。若者たち。本当にありがとう。俺とビギーは本当にツイてる。君たちのような美しい心持った若者に出会えたからだ。君たちから連絡がくるまではどん底だった。目の前から親友が消えちまったんだ、本当に落ち込んだよ」

「怪しい連絡もたくさん来て、すべてがインチキに見えたし、実際インチキだった。どれもこれもクソみたいな話で、メッセージなんかを見るのもうんざりして、ほとんど諦めかけてたんだ」

「そんなときに君たちから「リアルな」メッセージがきた。なぜかわからないけれど、メッセージは俺のところに届いたし、来た瞬間に「リアル」だってわかったんだ」

「本当なんだ。この日本の若者たちが言っていることは絶対に「リアル」だってすぐにわかったんだ。それで動画をみたらドンピシャさ。俺の、俺のソウルメイトがそこに映し出されていた」

「日本の友人たち、どうかビギーを助けてくれ、俺は君たちを信じるし、君たちしかいないと思ってる」

「君たちがビギーの世話をしてくれることを承諾してくれること本当に願っている。ツアーが終わるまで、ビギーをよろしく頼むよ。彼は少し臆病だけど、優しい心を持っているから、すぐに君たちに慣れるだろう」

僕たちは画面に集中し、イギーの言葉を聞き逃さないようにした。イギーの声は思ったよりも落ち着いていて、彼の真剣さが伝わってくる。

イギーの声が途切れ、画面が一瞬乱れた。再び映像が戻ると、イギーの顔はさらに近く、まるで直接話しかけているように感じられた。

「実は、もう一つお願いがあるんだ。もしビギーの世話してくれるんなら、ある人に会ってほしい。その人が君たちを手伝ってくれる。詳しいことは後で伝える。信頼できる人だから心配しないでくれ」

「また連絡する。なにかあったらそちらからもいつでも連絡してくれ。それじゃあ、ひとまずお別れだ、日本の友人たちよ」

僕たちはしばらくの間、無言で立ち尽くした。イギーのメッセージがもたらした情報量の多さに、頭の中が混乱していた。僕らに向けての動画なのだけれど。あまりに現実とかけ離れていて、何か別世界の話を聞かされている感覚に陥る。

ドレラは驚きながらも、期待に胸を膨らませた。
「誰なんだろうね?」
僕はイギーの言葉を反芻しながら、考えを巡らす。新たな人物の登場だなんて、ますますこの出来事が現実離れしていくように感じられた。
「分からないけど、その人が僕たちを手伝ってくれるなら、ありがたいかも」
「ある人に会ってほしい、か…」と僕がつぶやくと、ドレラが反応した。

「気になるね。でも、イギーが信頼できるって言うなら、きっと大丈夫だよね」

ミキオ君は再生を止め、深く息をついた。「まあ、イギーの言葉を信じるしかないですね。とにかく、連絡が来るのを待ちましょう」

ドレラが腕を組んで考え込んだ。
「もしかして、その人がビギーの飼育に詳しいとか?私たちに飼い方を教えてくれるとか?」

「それはあり得るね」と僕も同意する。
「ビギーが快適に過ごせるように計らってくれるのかも。そもそも預かってくれたりとか」

ドレラが少しだけ残念そうな顔をする。ビギーを側に置いておきたいのかもしれない。

「それに関しては連絡を待つしかないですね」

「そうだね。そのときはまたミキオ君にお願いしてもいいかな?」

「もちろんです」

「さて、まずは何をしたらいいの?」ドレラがふと我に返って尋ねた。

「うーん、ビギーを引き取る準備をしなきゃいけないよね。必要なものとか、調べてはいるんだけど」

「すぐ引き取るのは難しい?」

「お金は貰ったわけだから、なるべく早くしたいけど、その後のことがね…〈ある人〉のこともあるし」

ミキオ君も頷いた。
「そうですね。ドレラのように後先考えずに行動したら大変なことになりかねないですし。ペットショップのスタッフにビギーの詳しい飼い方をとか聞くのもいいかもしれません」

前半部分は無視して、ドレラが嬉しそうに反応した。

「そうだ、それだよ。引き取るかどうかは置いておいて、とりあえずビギーの飼い方とか聞きにいっちゃおう」

「そうだね、詳しい人に聞いちゃったほうがいいかも」

「じゃあ、決まりね。今日の放課後にみんなでペットショップに行こう」

(続く)

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