見出し画像

【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #24.01

そしてドレラの秘密を知らされていない弟の気持ちも考える。ドレラは彼に何も伝えずにいるのだ。心配させまいとする姉の優しさなのだろうか。だとするとドレラとしてもかなりキツイだろうし、弟は反対にわけがわからないだろう。だからこそ弟は僕のところへ来たわけだし、ドレラは見ず知らずの人間を弟として接してるのとほぼ同じことなわけだから、どちらも苦しい。そして弟はその変化に気づきながらも原因がまるでわからない。片側一車線の道路が二本、永久に交差しないで近くを走っているような感じだ。僕がどうこうできる問題なのだろうか。

ドレラに今回のことをどうやって伝えようかな。そういえば、弟くんにドレラが休んでいる理由を聞けばよかったな。

僕はドレラが教えてくれなかった彼女の住む家に想いを馳せる。僕の家とは反対方向の街にある、知らない場所に勝手に想像の家を建ててみる。ドレラと弟と父と母の四人暮らし。ドレラの部屋には二匹のブラックゴーストが静かに泳いでいる。もしかしたら、水の中を静かに泳ぐ彼ら(彼女らかもしれないが)は、ドレラの記憶のことを知っているかもしれない。ドレラの過去を知っているのかもしれない。僕は想像する。二匹のブラックゴーストが、ドレラの記憶を餌にして、成長している姿を。一匹は楽しい記憶。もう一匹は悲しい記憶。二匹は水槽を漂い、ドレラの記憶全てを食い尽くすまで成長を続ける。やがて二匹は絡まり合い、やがて一つになる。それは黒い塊のようになる。そしてそれは少しづつ大きくなり、水槽を破壊し、ドレラの部屋を破壊し、最後にはドレラの家までも破壊してしまう。

僕はそこで妄想をやめた。設置してあるベンチに座り、袋からカレーパンとコーヒー牛乳を取り出し食べ始めた。油を吸い込むだけ吸い込んだパン生地が時間の経過を伝えてくれた。カレーパンとフルーツサンドをコーヒー牛乳で流し込み、教室に戻った。

残念ながら、ドレラの姿はやはりなかった。クラスの皆はドレラの不在を別段気にする様子もなく、各々が自由に昼休みを過ごしていた。いつもの風景。ただ、僕にとってはドレラのいない教室はひどく殺風景なものに感じられた。ドレラに出会う前とは違う種類の殺風景さだったが、その違いが何なのか僕にはうまく説明できない。ただ、そこにドレラがいない。そのことが僕の心をざわつかせた。スマホを確認してみたが、特に変化はなかった。

そのまま午後の授業をぼんやりと受け、学校が終了した。僕は教室を足早に去ろうとしたとき、ミキオ君が教室の前に立っていた。どうやら僕を待っていたみたいだった。

「こんにちは、星野先輩、ちょっといいですか?」
「どうしたの?さっき言い忘れたことでもあるの?」
「さっき?ああ、そうですか、ここで話しても?」
なんだかさっきと雰囲気が違う。何か深刻な話でもあるのだろうか。
「うん、構わないよ、帰ろうとしてただけだから」
「ありがとうございます。では改めて、はじめまして」
「え、いや、そこから?」
「いや、星野さん勘違いしてます。はじめましてです」
「どういうこと?」
何か試されてでもいるのだろうか。だとしたら先輩相手にあまり感心できないのだけれど。
「たぶんミキオと勘違いされてるんじゃないかと。僕は、ドレラの弟のキミオと言います」
「いや、だから知ってるよ。ミキオ君でしょ?」
昼の様子とはなんだか違う。昼のやり取りで何か思うところがあったのだろうか。
「え、今何て言った?」
「キミオです」
「え?え?どういうこと?」

「ややこしくしてすみません、ミキオは双子の兄です」
「え、え、え?」
「僕たち双子なんです」
「マジ???」
「マジです。混乱させてすみません。先に兄に会ったんですね」
「え、ほんとに双子なの?からかってる?」
「いや、からかってないです。本当です。僕たち三人兄弟で上にドレラがいて僕らは双子です。兄はそういうところが駄目ですよね、ボケてて」
兄も十分礼儀正しかったが、弟はそれに輪をかけて礼儀正しい。そしてなんだか冷静で大人びている。見た目は完全に同じなのだけれど。

「ちょっとうまく飲み込めないんだけど、さっき会ったのは兄のミキオ君で、今僕が話してるのがキミオ君てことでいいのかな」

「はい、その通りです」

それにしてもわかりにくい名前を付けるものだな。親は呼び間違えたりしないのだろうか。

「兄が失礼しました。で、きっと兄も同じことだったのかもしれませんが、私の話というのも他でもないドレラのことです」
「まぁ、君たちが僕に話しかけてくるのはそのことだけなんだろうね」
「いや、すみません。ちなみに兄はなんて言ってました?」
「いや、ドレラの様子が気になるので教えて欲しいって」
「そうですか。僕もそんなところです」
「うん、お兄さんにも言ったけど、特別なことはないよ。引っ越してきてからのドレラしか知らないからなんとも言いようがないけれど、何か感じたら伝えるよ。でも僕は今のドレラしか知らないから、様子がおかしいって言われてもわかんないんだよなぁ」

「ですよね。それでも何か気づいたら教えていただけませんか?」

「うん、お兄さんにも言ったけど、それは約束するよ」

(続く)

サポートお願いします。全力でクリエイター活動に邁進します。